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ノストラダムスの天気予報

 今朝、カーテンを開けた瞬間に目を疑いました。家の周りが、すっぽりと雪に包まれていたのです。
 ずいぶんと前から天気予報では今日の暴風雪への警戒を呼びかけていましたが、まさに予報通りの天気となり、なんだか妙な心持ちがしました。
 平安時代の人々なら、これほどの雪を見るとかなり驚いたはずです。貴人に仕える人たちは、あたふたして雪かきをしたり火桶の準備をしたりしたことでしょう。
 それが、現代人は違います。天気予報の「予言」が見事に命中するからです。
「1月23日の夜からこの冬一番の寒波が西日本に流れ込み、24日の朝には大雪になる」という情報はすでに1週間前から予言されていた、そしてほとんど狂うことなく現実となった。
 もしこれが、自分の身に降りかかることだったらどうでしょう。「来週の火曜日に遅刻をしかけて、混雑するエレベーターを避けて階段を駆け上がっていると、足を滑らして転倒する」とか「たまたま行った本屋で立ち読みをしていると、別の課の知り合いとばったり出会い、話が盛り上がってメルアドを交換する」とか。
 何かを求めて生きている人はどうしても近い将来のことが知りたくなります。今の努力に対してきちんとした結果が出るかどうか気がかりなのです。
 結果を先に知っておくとロスが少ない人生を歩むことができるのかもしれませんが、それはストーリーの結末を聞いて映画を見るようなものです。
 天気予報が正確であることはありがたいですが、人生の予報はあまり意味がありません。その内容を知ったところで自分の手で変えることはできない、つまり私たちは、何があっても今を精一杯生きるしかないからです。
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鎌倉物語 190

 ふと明子に目を遣る。彼女は窓側に頭を傾けてすやすやと眠っている。深めにかぶった帽子はシートに引っかかって脱げそうになっている。「なあ明子」と僕は心の中で彼女に向かってつぶやく。「今回の旅でいろんな人と出会ったけど、その中での1番は君との出会いだったかもしれないな」
 僕はそう唱えて帽子の向きをそっと整えてやる。
 それから再びボールペンを手に取り記録を再開する。ホテル「NAGISA」、鎌倉大仏、長谷寺。紫陽花の株、見晴台、十一面観音、地蔵に囲まれた小さなスペース。そこで僕たちはキスを交わした。ついさっきのことだ。魂が溶け合って1つになったような感覚は今でも胸を温め続けている。
 そういえば明子はここへ来る前に僕の部屋でこんなことを言っていた。「鎌倉って不思議な街なのよ。北と南で全然違うの」と。実際に足を運んでみると彼女の見解には深くうなずける。鎌倉は北と南で全然違う。それがこの街の特徴であり魅力だ。だが南北を通して変わらないものもある。その部分に触れることができたという実感が僕にはある。一方明子はここへ来る前からすでにその世界を体験していたのだ。
 のぞみは名古屋駅に停車する。僕たちの車両からも多くの人たちが降車し、その後で同じくらい多くの人たちが新たに乗り込んでくる。彼らは訓練された鳥のようにさくさくと自分の席に着き、各々に時間を潰し始める。
 手帳にはあっという間に数ページ分の記録が出来上がっている。僕は1枚1枚をめくりながらこの手帳に表題を付そうと思う。少し考えてから水色の表紙に「鎌倉物語」と書き記す。
 のぞみは再び静かに動き出す。「次の停車駅は京都です」というアナウンスが何かの暗示のように耳に入ってくる。   

( 鎌倉物語・了 )  

鎌倉物語 189

 年季の入ったマークⅡワゴン、鶴岡八幡宮、倒れた大銀杏、それから昨日とは打って変わった灰色の空。あの時僕は失意の真っ只中にいた。ああ、やっぱり明子は僕から離れていくのだと半ば諦めてもいた。でもだからこそ開き直ることもできた。僕は思いのすべてを彼女にぶつけた。過去ではなく未来を見つめてほしいと主張した。なぜなら明子は僕のことも愛してくれているというかすかな光明を感じてもいたからだ。彼女はサエキ氏への罪悪感と格闘しているだけだと僕は捉えている。そしてそんな彼女のすべてを包み込もうと前から腹をくくっている。その思いを彼女にぶつけた。
 明子は空の色と同じ表情を浮かべながらホテルに戻った。そんな彼女の心を解きほぐしてくれたのが、あの支配人の作った朝食だった。心のこもったサラダとオムレツを口にした彼女からは再び言葉が出てくるようになった。彼女はやはり「生きながら死ぬ」という方向に足を踏み入れようとしていた。山本氏は既に亡くなっているのを知ったのもこの時だった。彼は新聞社の写真展で受賞した実績を持っていた。そこに写っていたのは僕と明子だった! 山本氏は比叡山延暦寺を撮った『静かな散歩道』という写真集を残してこの世を去った。その信じがたい事実は明子の指向する生き方をおそらくは後押ししたのだ。
 待てよ、と僕はボールペンを止める。こうして記録を残してみると今回の旅には意外にもホテル「NAGISA」が絡んでいるように思う。旅というのはどこに行くのかが大きな意味をもつのは言うまでもないが、そこで誰と出会うのかということが結構大事なのかもしれない。そう考えるとこの旅では実にいろいろな人と出会うことができた。もちろん生きている人もいれば死者もいる。歴史上の人物の魂に触れることもできた。

鎌倉物語 188

 この手帳は僕が勤務する社会保険事務所で年金のキャンペーン用に配られたものの余りだ。捨てるにはもったいなくて何かに使うこともあるだろうとひそかにリュックに忍ばせておいたが、まさかこんな所で役に立とうとは思ってもみなかった。
 僕はまず水色の表紙をめくり、白いページの一番上の行に「北鎌倉駅」と書く。するとあの簡素な駅舎が辺りの緑の香りとともに甦る。円覚寺、鎌倉街道、無窓庵。その店でビーフシチューを食べながら僕は美咲と歩いた京都を思い浮かべ、佐織のことを考えた。
 無窓庵を出てから亀ケ谷坂の切通しを抜けて北鎌倉を後にし、寿福寺の閑散とした山門をくぐった。多くのやぐらが集中し、実朝と政子の墓もあった。山本氏という不思議なカメラマンが現れ、寿福寺は中原中也の最期の場所でもあるのだと教えてくれた。そこを去ろうとした時、突如として線香の煙が立ち込め、やぐらの中で裸でしゃがみ込む明子の幻影を見た。山本氏はシャッターを切りながら彼女は生きながら死んでいるのだと説明した。そしてその山本氏はすでにこの世にいない人物だと分かったのが今朝のことだった。
 寿福寺を後にした僕たちは鎌倉駅前のマクドナルドで夕食をとった。明子は憑き物がとれたかのように明るかった。ところがホテルへ向かうタクシーの中で彼女は急に泣いた。
 ホテル「NAGISA」、古い絨毯、磯の香り、へんな支配人。僕たちはラベンダーのキャンドルを点け、月明かりの中でセックスをした。それはどこか形而上学的な味わいのセックスだった。月明かりに照らされた明子の寝顔を眺めながら僕もいつの間にか眠りについた。だが目が覚めた時彼女はいなかった。テレビの横の手紙。サエキ氏への追慕。僕は着の身着のままで部屋を飛び出した。助けてくれたのはあの支配人だった。

鎌倉物語 187

 明子は疲れている。僕もそうだ。だから彼女がどんなことを考えていたのかはよけいに分からないし、詮索したってしようがない。えてして疲れているときにはどうしても物事を悪い方に捉えがちだ。だから彼女の心の中については何も考えずにこのままそっと寄り添っておこうと思う。そうして僕も彼女の手を握りながらまどろもう。
 僕は細く息を吐き出してからシートにもたれ、軽く目をつむる。のぞみは振動音をたてながら猛スピードで西へと向かっている。
 ところがどうしてもうまく眠りにつくことができない。目を閉じた途端この2日間のさまざまな記憶が次々と額の裏側に甦ってきて、かえって頭が冴える。それらの心象風景はより現実味を帯びて僕に迫ってくる。山本氏やサエキ氏が近くでささやきかける。この新幹線に乗っているどの乗客よりも生命感を放っている。
 僕はいったん目を開けて大きく息を吸い込む。それから軽くこめかみを押さえた後で再びまぶたを閉じる。すると今度は明子と2人で訪れた寺々が迫ってくる。建物はもちろんのこと寺に漂う空気さえも鮮明に再現することができる。これは一体どういうことだろうと思う。僕たちにとっての鎌倉はそこを離れた後になってますます強く印象に訴えかけてくる。
 ふとアイデアが浮かぶ。この旅で出会ったものを手帳にしたためておこう。僕と明子にとっておそらくは決して忘れることのないであろうこの旅を今のうちにできるだけ正確に記録しておこう。
 僕はつないだ手を離して席を立ち、荷台に置いたリュックサックを膝の上に降ろした。そうしてサイドポケットに入れていた水色の手帳を取り出した。
作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
旅に出ましょう
それも
とびっきり寂しい旅に・・・

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