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キラキラ 290

 うまく表現することはできないが、この場所に守られている安心感があった。僕と奈月は、この野宮において、すべて許されている。この境内のどこからか、そんな声さえ聞こえるようだ。
 それはたしかに危ない感覚かもしれなかった。だが、もはや、今の行為が危なかろうが危なくなかろうが、さしたる問題ではなかった。僕はどこかで境界を越えていた。昨日、奈月と2人で明石海峡大橋を越えた後と同じような感覚だ。今の僕にできることは、目の前にいる女性と、心ゆくまでのコミュニケーションを交わすことだけだ。
 僕の動きに、奈月は憚ることなく声を上げた。杉の木立の高いところにいる鳥たちでさえ、遠慮して鳴くのをやめているかのようだ。そうして奈月は、もはやどうすることもできないくらいに濡れている。僕はそんな彼女を見上げながら、六条御息所が伊勢で詠んだ和歌を思い出した。

うきめ刈る 伊勢をの海人(あま)を 思ひやれ もしほたるてふ 須磨の浦にて

 僕の奉仕がひとおおり終わった後、僕たちはしばらくの間抱き合った。さっきまで冬のように冷たく感じられた風が、一転して今は温かくなっている。もちろん、そんなことはどうでもよかった。今の僕には奈月しか見えない。僕の外側にあるもの全てが面倒臭いものと化している。
「ずっと待ってたんですよ」と奈月は泣きながら言った。
「申し訳なかった」と僕は返した。そう言った後で、その言葉は自分の口から出てきたものではないような違和感にとらわれた。
 すると奈月は「でも、もう遅いです」と力なくささやいた。何が遅いのか、よく分かるように思えたが、よく考えてみると、じつは何も分からなかった。
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この小さな世界

 ようやく体調が戻りかけてきたので、今朝は新聞を買いにコンビニまで行くことにしました。歩いて行ける距離なのですが、雨がぱらついていたので、車を走らせました。
 今の愛車はスズキのMRワゴン。軽自動車です。この車で、1ヶ月6,000㎞も走ったわけです。これまで、フォルクスワーゲン・ゴルフを3代乗り継いできた私にとって、初の日本車で初の軽自動車です。
 ところが、この車が、意外にもよくやってくれるのです。さすがに加速や坂道、それに高速の安定性はゴルフに劣りますが、デザイン性の高い室内や、高音質のオーディオ、それにゴルフの2倍近くは走ってくれる燃費など、魅力にあふれています。
「大は小を兼ねる」とはよく言いますが、その逆に、小さいものにできて大きいものにできないことって、けっこうあるような気もします。

 これまで私たちは大きな世界に憧れてきたように思います。宇宙船にしてもパソコンの容量にしても、経済のシステムにしても、どんどん大きくなっていくようです。そうして、やがては宇宙の謎を解明し、人類の生活範囲を広げてゆくような方向に、科学は向かっていると言えるでしょう。
 ただ、小さな世界の奥深さにも人々は気づいてきたのかもしれません。医学の世界では様々な細胞が研究されていますし、端末機もどんどん小型化してきています。
 私は、趣味で家庭菜園をしていますが、ほとんど毎朝土を触りながら、この中にいるであろう微生物たちの存在を不思議に思います。彼らがいないと野菜は育たないし、ひょっとして私たち人間も存在しないかもしれない。そう考えると、小さくて普段は気づかないようなものに、私は助けられているような気もしてきました。たとえば、誰かのやさしさとか。
 コンビニで新聞を買った後、愛車のハンドルを握りながら、小さな世界に目を向けられるゆとりをもちたいものだと、つくづく思いました。

キラキラ 289

 すっかり固くなった僕の性器が奈月の口に吸い込まれた瞬間、次なる感覚が沸き上がってきた。それは「哀しさ」という言葉に一番近いような気がした。いったい何が哀しいのだろうと思うが、いろんな哀しさが複雑に絡み合ってできあがっている感情なので、その根源にあるものはすぐには特定できない。それで、またもや僕は面倒臭くなってしまった。
 ただ1つ、目の前の奈月の姿が哀しげだということは間違いなかった。彼女は大地にしゃがみ込み、僕のズボンを下ろし、愛撫している。その姿を見下ろしていると、罪悪感さえ感じてしまう。だが僕はすぐにはそれをやめさせようとはしない。なぜなら、哀しげな奈月に慰められる僕もまた、哀しい存在に違いなかったからだ。互いの哀しさは相殺され、昇華されていた。
 だからか、彼女の奉仕は心の底から癒しを与えてくれた。油断すればいつでも射精に導かれそうなほどだった。さっき心の奥で崩れ落ちてしまったものがいつのまにか全く別の形で整理し直されたようだ。
 すると奈月は口の動きを止めて、しゃがんだまま僕を見上げ、「私もなめてください」とささやきかけてきた。もちろんそれは僕の望むところでもあった。だが、一方でさっきのホテルでの記憶がある。あの時奈月は、忘れられなくなるからと一線を越えさせようとはしなかったのだ。
 それで僕は「いいの?」と念を押した。奈月はすんなりと「なめてください」と言ってきた。その姿は、やはり、哀しげだった。
 僕は奈月を連れて森の中まで歩き、杉の大木に彼女をもたれさせて、今度は自分がしゃがみこんだ。奈月の性器はすでに濡れに濡れていた。あまりに濡れていたので、何がどうなっているのか一瞬わからないほどだった。そこに舌を挿入した時、奈月は信じられないくらいに大きな声を出した。人が来たらどうしようかと思いもしたが、ここには誰も来ないという妙な確信もあった。

キラキラ 288

 その瞬間、またも、危ない、と声が聞こえ、その直後に、何かが音を立てて崩れ落ちる音がした。これまで僕が慎重に、1つずつ積み上げてきたものが、どうやら崩れてしまったらしい。でも僕は、その残骸に拘泥することもなかった。すべてが仕方のないことだった。
 すると奈月は、背を伸ばして僕にキスをしてきた。僕は、彼女の要求に応じながら、ホテルでのキスを思い出した。あの時僕はある種の寂しさを感じた。これまで妹のようだった奈月との関係が壊れてゆくのが寂しかったのだ。もちろん、今もそれは感じる。現に奈月の動きは、ホテルの時よりも扇情的で、エロティックだった。もはや、兄妹の間柄と言えないところに僕たちは立っている。だが、戻ることなどできない。僕にはどうすることもできなかった。
 寂しさと、諦め。僕は物事を細かく考えることが面倒臭くなってしまっていた。もう開き直るしかなかった。それで、すべてを紛らわせるつもりで彼女の舌の上に自分の舌を何度も這わせた。
 僕の勢いに、奈月はいったん唇を離し、「せめて今だけ、主役でいさせてほしい」と吐息のような声を出して懇願した。
「大丈夫だ。奈月はいつでも主役だよ」と僕は応えたが、彼女はうれしい顔ひとつ見せぬまま、再び背伸びをして僕の唇を激しく求めた。
 気がつけば、僕たちは互いの裸を露わにしていた。今野宮にいるということは頭では理解していたつもりだ。だが、それは「言葉」の上の問題であって、本当のところ、僕たちはどこにいるのか分からなかった。いや、どこでもよかった。
 奈月の乳房は、少し汗ばんでいる。彼女の背中に手を回し、ゴムのように固くなった乳首を唇に挟んだ時、彼女は背筋をのけぞらせた。必死に声を押し殺そうとしていたようだが、そのうち彼女の方も開き直ってしまったのか、憚ることなく声を出し始めた。その声は、やはり誰のものか分からなかった。そのうち、声は、境内の森の空気を揺らしはじめた。

キラキラ 287

 すると奈月は、今まで胸に抱えていた榊の小枝をひらりと大地に落とし、その後で、低く震えるような声でこうつぶやいた。

もの思ふ人の魂はげにあくがるるものになむありける

 僕の腰の辺りからゾクゾクと駆け上がった不吉な冷たさが、ゆっくりと首筋に到達する前に、奈月はいきなり僕の胸の中に飛び込んできた。これまでで一番大きな声で、危ない、と聞こえたが、僕にはそれを聞き流すことしかできない。
「『宿世』とは残酷なものです。こんなに人を好きになっても、どうしても結ばれない恋があるんですから」と奈月は僕の胸元に顔を押しあてて、冷静に、それでも十分に哀感を込めて言った。
「私はずっと物語の主役でいたかった。いいえ、主役でなくてもいい、せめて2番目・3番目の役を与えてほしかった。でも、それすらも許されなかったんです」
「それって、『源氏物語』の話だよな」と僕は、奈月の髪に頬をすり寄せながら聞いた。
 すると、彼女は見当はずれのことを話し出した。
「あなたが須磨・明石にお流れになったのも、『宿世』だったんでしょう。私と似たところのある明石の君と出会い、そのことによって、彼女は物語の2番目に駆け上がっていったのです。そうして、私は、彼女と引き替えに、物語から退出させられ、人々からも忘れられていった。その現実を受け容れるのに、どれほどつらかったか。きっと、私の叶わぬ思いは、そのうち諦めに変わり、やがては葬り去られてゆくのでしょう。昨日、あなたに言った通りです。ただ一さいは、過ぎて行くだけなのです」 
作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
旅に出ましょう
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とびっきり寂しい旅に・・・

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