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キラキラ 300

 そのうち僕はまた、自分が曖昧になっていくのを感じだした。僕の一部が奈月の中に入り込んでいき、反対に僕の中にも奈月が入り込んでくるようだった。自分と奈月の境界線がどんどん消滅し、やがては僕たちは完全に一体化したような実感があった。おそらく、奈月も同じようなことを感じているはずだ。
 そんな奈月は声にならない声を上げている。それは、僕に向けられているというものではなく、かと言って奈月の独り言というふうでもなかった。無意識のうちに声が出ているという感じでもない。
 その声は奈月のものであって、同時に僕のものでもあった。あるいは、僕と奈月以外の誰かの声のようにも聞こえた。いずれにせよ、その声には何らかの意味があるのは確かだった。それはもしかしたら、言葉を超えた意味なのかもしれなかった。その、これまで聞いたことのない声は何かの暗号となり、僕に安らぎをもたらし、より濃厚な快楽の世界へと誘ってくれた。目の前に迫った到達点に向けて、僕は思うがままに身体を動かした。奈月も呼応するかのようにますます声を大きくする。美しく、艶めかしい声がこの野宮の森の隅々にまで響き渡っている。もはや羞恥心などない。神は許してくれている。なぜなら、ここは「犯される場所」であり、そのことによって神は、より完全性を身にまとうことができるからだ。ここにあるものすべてが救われるのだ。
 いよいよ僕は、最後の坂を滑り落ちる段階にさしかかった。奈月もひときわ艶やかな声を上げはじめた。その声を耳にしながら、あぁ、いってしまう、と思った途端、目の前が急に真っ白になった。いや、それは灰色かもしれなかった。僕はその単色の世界に一瞬間包み込まれた。そうしてすべてを支配された。それを自覚した時、突然、脳しんとうに似た大きな衝撃が走り、僕の中にあるものすべてが、まるで海底爆発が起こったかのような不気味な音を伴って、弾け散った。
 僕を支配していた色のかけらが散ってなくなるまでに、しばらく時間がかかった。僕はなぜか、光源氏を襲った須磨での暴風雨を思い出した。
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キラキラ 299

 僕はたまらなくなって、彼女の乳房を後ろから両手で包み込んだ。見た目よりもずっと大きくてやわらかい乳房だった。その途端、たちまち心が落ち着いていくのが実感できた。
 汗で濡れて冷たくなっている彼女の乳房をぬくもりで満たすつもりで、僕は心を込めて包み込んだ。いつしか僕の性器も固くなっている。今まで饒舌だった奈月も、何も言わずに僕の行為を受け入れている。時折吹く風が榊の枝を揺らす音さえも耳に入ってくる。
「ほんとうに、大丈夫なんだね?」
 僕はそう念を押した。奈月は、力強く首を縦に振った。不思議なくらいに説得力のある反応だった。奈月と僕の間には子供は産まれない、私たちはそういう関係ではない、というさっきの奈月の言葉が、焼き印のように、正式に耳の奥に刻まれた気がした。だからこそ今という時間を永遠に刻みつけておきたいのだ、と。
 僕の方も、もし、子供が産まれてしまったとしても、その時は自分がどうにかしようという覚悟さえわき上がってきた。僕たち2人で力を合わせればなんとでもなる。だが、そう腹をくくった途端に、僕の心にも、僕たちの間には子供は産まれないのだということがはっきりと浮かび上がった気がした。
 それで僕は、無心で奈月の中に深く入り込んだ。その時、再び猿の性交のシーンが頭の中にちらつき、奈月と快楽をともにしているという充足感だけが弾け散った。同時に、これまで築き上げてきた僕と奈月との関係も弾け飛んでいくように思えた。だが、もう細かいことは考えない。ただひたすらに、奈月のことだけを考えることにする。今という瞬間は、もう2度と戻ってはこない。そんな当たり前の事実が、やけに哀しく感じられ、その反動としてますます強く彼女の中に入り込んでいった。
 射精の予兆はまもなくやってきた。奈月の方もそろそろ限界が近いようだった。僕たちは何から何まで息が合っていた。

キラキラ 298

「大学生の頃から、先輩と、こうなりたかった」と奈月は、僕の知っている奈月らしい口調でこう言った。それなのに、僕には何ひとつ、気の利いた言葉が返せなかった。
「先輩には絶対に分かってもらえないだろうけど、1日も忘れたことはなかったです。電話もメールもしなかったし、手紙も書かなかったですけど、先輩のことを毎日思ってました。そうして、いつかはこうなりたいって、憧れてました」と奈月は続けた。彼女の言葉は、僕の心を強く揺さぶった。心に突風が吹き込んできたかのようだ。
「もちろん、こうなっちゃいけないとも思ったんですよ。先輩は私にとっては、すごく大切な人ですから。先輩とはこれまでのままの関係でいた方がいいという考えもあったんです。でも、先輩を思う気持ちは止められなかった。先輩は、これまでで一番好きな男の人だし、これからも、これ以上好きになる人は絶対に出てこないと思っています。だから、どうしても諦められなかったです」
 僕は奈月の腰に手を遣った。そこは汗で濡れている。僕の汗か奈月のものか、判別のつかない汗だ。
「だから、私だけ佐賀に帰ることは、やっぱりできなかった。それがベストだったかもしれないけど、私にはできなかったです。心ではだめだと思えば思うほど、かえって身体は反対の方向に動いていくんです」と奈月は声を小さくしてそう言った後、「思い通りにならないようで、じつは思い通りになっているのが人生なんですね」と自嘲気味に笑った。
「だから先輩、これが最初で最後だと思って、私を抱いてください」
 奈月はそう結論づけるように言った。
「これが最後だとは限らないよ」と僕は返したが、奈月は何の反応もしなかった。心の中の突風は弱まり、冷たくゆるい風に変わった。これからも奈月とは会える、と心の中で叫んでみたが、そう思えば思うほど奈月は遠ざってゆくようで、どうしようもないほどにやるせない気持ちになってきた。

キラキラ 297

 そんな僕の心の声が聞こえているかのように、奈月は顔を半分こちらに向けたまま言った。
「ホテルを出る前まで、私もずっと悩んでました。楽しかった昨日の旅行でやめとこうと思ったんです。一生忘れられない想い出になるのは間違いないです。つらかった大学時代の思いがすべて消えてなくなるくらいの時間を過ごすことができました。だから、先輩が寝ている間に佐賀に帰っても、私は十分だったんです」
 僕は腰の動きを止めた。だが奈月は、今度は懇願してこない。僕の性器はまだ十分に固く、奈月のぬくもりがひしひしと伝わってくる。
「あのまま佐賀に帰ってたら、きっと、それはそれで、ハッピーエンドだったんでしょう。先輩は怒っちゃうかもしれませんが、それでも、トータルで考えたら、誰も傷つかなかったはずです。だけど、それは、できなかった」
 奈月はそう言いながら、自分の性器を僕に押しつけるように何度かゆっくりと腰を動かした。そうして、子猫の鳴くようなかすかな声を時折上げた。
「もし先輩を置いて、私1人だけ佐賀に帰ったとしたら、大きな心残りを心のど真ん中に空けたまま生きていかなきゃならない。たぶん、まともな結婚生活なんて送られないかもしれないなって、心のどこかで思ったんです。ホテルの洗面台で身支度を調えながら、これからの苦しみが異様にリアルに想像できました。そしたら、いきなり先輩が起きてきて、洗面台の鏡の中に現れたんです。あの時私は、ああ、やっぱりなって、正直安心しました」
 奈月の話を聞いているうちに、再び冷静さが体内に入ってきた。どうすればいいのかまた分からなくなる。いろんな魂が入れ替わり立ち替わり入ってくる、さっきの奈月と同じようなことが、僕にも起こっているのかもしれない。

キラキラ 296

 奈月の訴えを聞き、僕は動きを緩めざるをえなかった。すると奈月は、「やめないでください」と別の訴えをしてきた。
「いってしまいそうなんだ」と僕は、とにかく今の状況を伝えた。
「だから離さないで。そのまま、いってください」と奈月は声を震わせた。
「何を言ってるんだ?」と僕は聞いた。知らないうちに汗が噴き出し、奈月の背中の上に滴り落ちている。彼女は首を少しだけ僕の方に向けて、「いいんです、中でいってほしいんです。そのために私はここへ来たんですから」と答えた。
「子供ができてしまう」と僕は、思いのままを返した。だが奈月は、意外な答えを口にした。
「大丈夫です。子供はできませんから」
 下半身の力を完全に抜くと、「お願いだから、やめないでください」と奈月はまた懇願してきた。そうして、再度「大丈夫ですから」と念を押した。
「私たちの間には、子供は産まれません。私たちの関係は、そんなものじゃないです」
「言うことがよくわからない」
「そういうふうに決まってるんです。私たちは、今だけの関係なんです。でも、だからこそ、私は、絶対に忘れたくないんです。永遠に忘れたくないんです。だから、私の中でいってください。私も一緒にいきますから」
 奈月はそんなことを言ってきた。
 快楽に満たされている僕ではあるが、いろいろと細かいことを考えてしまったがゆえに、さっきよりも冷静になっている。この期に及んで、改めて、これまでの奈月との関係が崩壊してしまうのを怖れた。だが、現在、彼女の中に入っていることを実感した途端、すべてが手遅れだという事実がずっしりとのしかかってきた。 
作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
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