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キラキラ 217

 さっきまで窓の外にあった月がいつの間にか見えなくなっている。その代わりに、山と空の境目はほんのわずかだけ金色がかってきている。どうやら記憶を追いかけているうちに深い眠りについてしまったようだ。部屋は深海のように静かだ。
「奈月」と僕は言った。海底にいる割には、声は乾いた感じで響いた。それでも返事はない。僕は布団から起き上がり、彼女を探した。その瞬間、僕はTシャツを着てショートパンツをはいていることに気付いた。僕たちは裸のまま抱き合って寝ていたはずだった。しかも僕の短パンを脱がすように促したのは奈月の方だった。だのになぜ僕は今服を着ているのだろう?
 頭の奥で何かがよじれたような気がした。それと同時に、さっきの奈月の言葉が聞こえた。
「今がいったい今であるのか、そして自分が誰なのか分からない」
 たちまち不安に襲われた僕は、もう一度奈月の名を呼んだ。声は悲痛の色を帯びて、部屋に響いた。すると、玄関の方で物音が聞こえた。戸を開けると、オレンジの白熱灯がやわらかく照らされて、洗面台の前に立った奈月が髪の毛を後ろにまとめるところだった。
「奈月」と僕は歩み寄りながら言った。安堵のあまり声が裏返った。奈月は両手を後ろ頭に回したまま僕の方を見て、「起きてこられたんですね」と小さく言った。
 彼女は花柄のワンピースを着ている。昨日着ていたマリンボーダーのワンピースと同じ丈だ。
「いったい、どうしたんだよ。まだ、夜も明けてないぞ」と言うと、彼女は「朝一の新幹線で帰らなければならないって、昨日言いませんでしたっけ?」と返してきた。頭の奥がよじれたままでは、奈月が昨日何を言っていたのかを思い出すことすらできない。
「先輩が起きる前に出るつもりでしたけど、やっぱり、そうはいきませんでしたね」と奈月は薄く笑った。まるでこの展開を予知していたかのようなゆとりのある笑みだった。
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あとがき

 一昨年の冬のことでした。『源氏物語』を読み直してみようと、ふと思い立ちました。理由はよく覚えていません。ということは、そんなに大した理由でもなかったのでしょう。
 すると、不思議なことに、物語の言葉が、以前読んだ時よりも迫力をもって私に語りかけてくるのです。私の人生経験が、年齢の数ほど積み重なったからなのかもしれません。とにかく、私は『源氏物語』の世界に引き込まれてしまいました。
 京都にも何度か訪れました。現地には『源氏物語』にまつわる場所が今なお数多く残っています。私は自転車に乗って、数多くの史跡に足を運びました。
 そのうち『源氏物語』は架空の物語とは思えなくなっていました。光源氏をはじめとする登場人物たちが生きた証は、物語の言葉と共に、今なお時を超えてしっかりと刻まれている、そんな感想をもちました。
 生きとし生けるものは必ず消滅しなければなりません。あたりまえの事実ですが、それがやがては己の身にも起こることを想像した途端、並々ならぬ恐怖へと転化します。そうして、今を生きることの意味を、必死に模索するようになります。そんな時、千年以上も前に生きた人の心に共感することで、恐怖が和らぐ気がします。
 世界は1つの物語ともいえましょう。古典を読む喜びは、自らもその大いなる物語に含まれていることを実感することにほかなりません。そして、そのことが、今という瞬間を精一杯生きることの意味へとつながってゆくものだと考えます。

 最後になりましたが、ここまで『京都物語』にご同行くださいましたことに対して、心より御礼を申し上げます。皆様からの心温まるご支援があったからこそ、書き続けることができました。
 これからも、皆様に少しでも喜んでいただける文章に挑み続けたいと考えております。
 どうぞ、よろしくお願いいたします。

京都物語 448 (最終回)

 パソコンを閉じ、部屋の明かりを落として、窓の外に浮かぶ月を見上げる。今夜の月は、どこか形而上的な色合いを帯びている。月光の中に、誰かが何かを語りかけてくるかのようだ。
 音楽が聴きたくなったので、リュックからipodを取り出し、スピーカーに接続した。すると、小野リサの『ドリーマー』の終わりの部分が流れてきた。京都から帰る時、新幹線の中で聞いたままになっていたのだ。その曲が終わると、今度は『フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン』の静かな前奏が部屋に響きはじめた。
 叙情的なメロディに聴き浸りながら、改めて月を見上げる。月は哀しく、そして、やさしい。すると、どうしようもないほどに、さみしくなってきた。気がつけば涙が溢れ出していた。小野リサの歌声の中に、レイナの声を聞く気がした。レイナ、いったい君は僕をどこへ連れて行くつもりなんだ?
 涙が止まらない。フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン。できることなら、このまま僕も、月の光の中に昇華してしまいたい。だが、僕は現実を生きなければならない。過去に生き、時の中に消えてしまった明子とは違って、僕は今という時を歩まなければならないのだ!
 始まったばかりの僕の物語がどこへ向かおうとしているのか、予測もつかない。ただ、目の前に続いているのは、結花と一緒に生きてゆくという一筋の道だけだ。
 僕は携帯電話を手に取り、明日も仕事が終わった後に会いたいというメールを打った。それを送信する直前に、紫式部が『源氏物語』の執筆を祈願した時の言葉が、ふと胸にこだました。
「今宵は十五夜なりけり」
 この部屋のどこかで、紫式部のため息を聞いた気がした。
 その声を感じながら、僕は結花へのメール送信ボタンをそっと押した。

(京都物語 了)      
                               

京都物語 447

 たった今アップロードされたばかりの記事のタイトルは「濃~い1日」となっている。僕は3本目のビールをゆっくりと飲み込んでから、画面に目をやる。
「ついに住みかを見つけました! ちと古いけど、味わいのある部屋。場所は大好きな嵐山。鈴虫寺の近くの静かな住宅地。でも、昼間は鈴虫寺に参詣する人たちの列ができて、けっこう騒がしいんだな、これが。でも、人が集まってくるっていうのは悪いことじゃない。
 引っ越しはあっという間に終わった。っていうか、私にはスーツケース1つ分の荷物しかない。で、さっそく昨日から、ちゃぶ台にパソコンを置いて、小説を書いてる。
 時折、窓の外に広がる青い空を見上げる。そういえば、浅茅しのぶという昔の小説家が、やはり、青空を見上げながら執筆を進めたという話を読んだことがある。空には自分の心が映し出されてるみたい。その時間が、けっこう、いい気分転換になったりする。
 それにしても、今日は恐ろしいくらいにはかどった。原稿用紙にすると、ざっと30枚は書いた。しかもほとんど一息に。
 主人公の男の人が、彼をずっと待ち続けていた女性と久しぶりに再会する場面。濃厚なラブシーンに発展してゆく。書きながら私も興奮しちゃった。でも、その男の人には、他に愛する女性がいる。彼はどうしていいのか分からない。
 この後2人はどうなるんだろう。実は私にさえ、明確な構想がない。それで、夕方、大学の図書館に行って、『源氏物語』を借りてきた。きっとこの古典物語が私に何かを囁いてくれるはず。第6感がそう伝えるの。
 とにかく今日は疲れちゃった。小説が完成するまで、ブログの更新もしばらくお休みするかもしれません。
 では、おやすみなさーい (∪。∪*)=3=3=3 」

京都物語 446

 この日のブログはそこで終わっている。読み終わった後で長いため息を吐くと、頭の奥で氷がきしむような音がした。
 冷蔵庫から3本目のビールを取り出す。ダイニングテーブルの上に置いたデジタル時計は0:32を表示している。いつの間にか日付が変わっている。
 再び居間に戻り、パソコンの画面をぼんやりと眺めながら、今日自分の身に起こったことを静かに振り返る。
 あまりぱっとしない職場で帰り支度をしているところに、突然結花から電話が入った。頭が真っ白になった状態で外に出ると、本当に彼女はそこに立っていた。思い出の染みこんだ黄色いマーチに乗って、僕たちは「トチの木」に行き、ハンバーグを食べた。タイムスリップしたかのようだった。
 食事の後、結花は僕をドライブに誘い、海を見ながら、僕への変わらぬ思いを打ち明けた。罪悪感に囚われている僕は、どう応えていいのやら分からなかったが、結花は僕に待つ時間さえ与えずに積極的に求めてきた。彼女のぬくもりは今なおはっきりと残っている。
 人生が動いている。この先どんなことが起こるのか、まるで予測がつかない。
 明子は真琴氏の作った言霊の世界に連れ込まれ、時の中に溶け込んでしまった。そうして今、レイナは新たな物語を書いている。どうやら主人公は僕のようだ。彼女は言霊の世界を信じている。さっき結花が、自分がドラマに出演しいるような気がしていると言ったのを思い出す。レイナは僕をどこへ連れて行こうとしているのだろう?
 すると、突然パソコンの画面が動いた。レイナが新しい記事を更新したらしい。
作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
旅に出ましょう
それも
とびっきり寂しい旅に・・・

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