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京都物語 310

 ベッドの中は寒々としていた。僕は布団をはぐり、そこにレイナがいないことを正式に確かめた。次にシャツを羽織り、明かりをつけて部屋中を見回した。だがどこにも見あたらない。数時間前に2人で飲んだビールの空き缶は床の隅にきちんと並べられ、僕が脱がした彼女のバスローブは折り目正しくテレビの横に畳んである。ベッドに組み込まれた時計は6:06を指している。窓の外はまだ十分に暗く、渉成園の緑も黒々と沈んでいる。
 ジーンズを穿いてから廊下に出て、彼女の部屋をノックした。おそらく僕たち以外に宿泊客はいないだろうから、強く叩いた。だが返答はない。仕方なく自分の部屋に戻り、ベッドに腰掛けて目を閉じた。
 鎌倉での朝、ベッドの中に明子の姿はなかった。だが僕には彼女の行く手が分かっていた。それで、ホテルを飛び出し、早朝の鶴岡八幡宮に向かった。案の定明子はそこにいた。彼女をホテルに連れ戻し、朝食を取った後、2人で長谷寺に参詣した。鶴岡八幡宮も長谷寺も、原発事故で亡くなった夫との想い出の場所だった。僕たちはその地で魂を共有したはずだった。にもかかわらず明子は旅から帰ってまもなく、僕の元から消えた。
 今回レイナがいなくなったことは、あの時の経験と重なる。ただ、決定的に違うのは、レイナの居場所は全く想像がつかないということだ。
 部屋の中に手掛かりとなるものが残されていないか、改めて入念に目を通した。しかし、レイナに関するものは何1つ見えない。ため息をついた時、昨夜彼女が吐き出した言葉が脳裏をかすめた。「なんだか、すべてが嘘みたいね」
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京都物語 309

 僕たちは知らず知らずのうちに眠りについていた。真夜中に目が覚めた時、僕は肩にびっしょりと汗をかいていた。お互いに裸のまま布団にくるまっていたのだ。
 僕はいったんベッドを抜け出し、バスタオルで全身を拭いてから、改めて布団に入った。レイナは安らかに瞳を閉じている。僕は彼女の小さな乳房を手のひらに包み、寝顔を眺める。まるで子供の頃からずっと一緒にいるような親近感が胸を温かくする。
 いつしか僕はレイナのことを好きになっている。そうしてまた彼女も同じように僕を思っている。だが、そのことを心の底から歓迎できない。デジャブのような感覚が再び心をぐらつかせるのだ。似たような胸の痛みをどこかで抱えたことがある。
 それは結花との別れの記憶だ。ここへ来る前、僕は彼女を愛していた。僕の半生において、唯一のまっとうな恋だったと言えるかもしれない。彼女と2人で生きる道を選ぶことができたなら、今頃は何の問題もなく平凡で幸せな日常を送っていただろう。だが僕は結花と別れてまでも京都へ来た。すべては明子を見つけ出し、僕の過去を取り戻すためだ。
 だから僕はレイナと愛し合うことはできない。だが一方で、彼女と別れることも難しい。単なる感傷の問題ではない。真琴氏の家に行ってからというもの、僕たちは決して抗うことのできない絆で結ばれているように思えてならない。あるいは真琴氏の描く言霊の世界に支配されているのかもしれない。
 何も考えたくなかった。それで僕は彼女の乳房に手をやったまま眠りの世界に堕ちた。
 次に目が覚めた時、今度は脇の下に嫌な汗をかいていた。
 レイナはベッドから消えていた。

京都物語 308

 1回目の射精を終えてまだ間もないうちに、レイナは次を求めてきた。少女のような乳房とは不釣り合いな積極性だった。僕は改めて彼女のぬくもりの中に入ったうえで、小さく尖った乳首に口をつけた。ハスキーな声が、天から聞こえるようにベッドの上で震えた。
 その時、窓の外に広がる渉成園の黒々とした緑がたまたま視界に飛び込んできた。それと同時に軽い眩暈を覚えた。重なっている。そう思った。デジャブの感覚に近かった。同じような場面を過去に経験したことがある。
 それを思い出すのに、さほど時間はかからなかった。きわめて象徴的な場面だったからだ。
 僕は3年前に明子と鎌倉へ行った。テレビの旅番組を見ながら、突然旅に出たいと珍しく明子の方から言いだしたのだ。
 その日僕たちはまず北鎌倉の禅刹を巡り、昔の幕府が切り開いた道を歩いて街の南側に抜けた。途中、寿福寺に立ち寄った後、湘南海岸を望むペンション風のホテルに入った。そこで夜の海を見ながら心ゆくまで抱き合った。
 今浮かぶのは、あの時の情景だ。鎌倉への旅を最後に、明子は僕の元から消えた。だからこそベッドの上での抱擁が、象徴的な記憶としてよけいに訴えかけてくるのだ。
 再び渉成園に目をやる。あの時広がっていた湘南の海とはまるっきり違う光景だが、僕の目にはどこか共通点があるように映る。
 2回目の射精を終えた後、レイナは僕の腕枕の中ににうずくまった。片方の手で彼女の乳房を撫でていると、「最初からこうなることは分かってたんだ」とささやいてきた。「あたしの第6感がそう言ってたからね」
 その言葉は、なぜか寂しげに聞こえた。

京都物語 307

 レイナはバスローブを着たままベッドに腰掛け、さっきの缶ビールの残りを最後まで飲み干した。身体からはシャワーを浴びた後の火照りが放射され、頬はほんのりと赤らんでいる。そんな横顔を見ていると、今まで明子のことを考えていた僕の心の鎖があっけなくほどけたのを感じた。
 僕はレイナの隣に移動して、ソバージュの髪を撫でた。まだ髪は濡れていた。彼女の亜麻色の瞳は戸惑うほど近くにあった。ふと気がついた時、僕の舌はレイナの舌の上を縦横無尽に這い回っていた。そのまま僕は彼女のバスローブを肩からずり下ろした。新山口駅で出会った瞬間からずっと心を引きつけ続けてきた彼女の乳房が、ついに目の前に露わになった。それは予想よりもさらに小さく、まるで少女の乳房のようでもあった。淡い桜色の乳首は小さく尖っている。
「恥ずかしい」とレイナは乙女の声を上げ、咄嗟に両手で胸元を隠した。僕は部屋の明かりを落とし、彼女の両手をどけて、小さな乳房に頬をあてがった。彼女は猫が鳴くように喘いだ。
 その後のことはよく覚えていない。まるで夢の中の出来事のようだった。レイナと抱き合いながら、昼に真琴氏から聞いた光源氏と藤壺の逢瀬の場面が思い浮かんだ。愛する人との抱擁は、いつの時代でもこうして夢のように感じられるのかもしれない。
 するとレイナは僕のペニスをいかにも大事そうに両手で包み込み、そのうえで口に含んできた。彼女は、繊細で献身的だった。そうやって十分に温められたペニスを彼女の中に入れた時、この女性と真につながり合ったのを全身で実感した。
 それから僕たちはベッドの上で時間をかけて絡まり合った。窓の外に広がる渉成園のことなど完全に忘れて、お互いの身体を確かめ合った。レイナの身体は、どこかなつかしくさえ思われた。

京都物語 306

 昨日の夜、僕はレイナと同じベッドで寝た。彼女は2月の京都を自転車で巡ったせいで風邪気味だったが、昨日1日ホテルで療養した甲斐あってすっかりよくなっていた。 
 レイナはベッドの中で、だしぬけに、あたしとセックスしたいかと聞いてきた。僕も男だからそんな気が起こらないことはないが、今は君の様子を静かに観察しているところだと答えた後、髪を撫でているうちに、彼女は眠りについた。その寝息を聞いていると、どうもうまく眠れず、冷蔵庫の上のアーリータイムズのミニボトルを開け、椅子に座ってから、グラスに注いで飲んだ。そのうち音楽が聴きたくなって、ipodの「ドリーマー」を再生した。レイナと出会った新幹線の中で聴いた、小野リサの歌声だった。心が落ち着いた僕は、そのまま朝まで眠りについた。それが昨日の夜の記憶だ。
 そんな回想をしている横で、レイナは冷蔵庫の中から新しいビールを取り出し、1本目と同じように、じっくりと味わうように飲んだ。彼女は少し酔いが回ったようで、シャワーを貸してほしいと言い出し、バスルームに入って水道の蛇口をひねった。彼女がシャワーを浴びる音を聞きながら、僕は3本目のビールに口を付けた。
 もはやレイナは、僕にとってはなくてはならない存在になっている。3週間前に出会ったはずの僕たちだが、実は1年以上の時間を共有していることになる。彼女の存在感を思うと、真琴氏の家にいた時間が1年の重みをもつということが納得できる。
 だが、その考えは、僕の胸にかすかな痛みを与えることにもなる。明子への思いが、レイナを心の深奥にまで入り込ませることをためらわせた。
 すると、シャワーの音がぴたりと止まり、まもなくしてバスローブに身を包んだレイナが出てきた。
作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
旅に出ましょう
それも
とびっきり寂しい旅に・・・

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