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京都物語 428

 僕たちは小1時間のドライブの末に、瀬戸内海に出た。目の前には湾に架かる大きな橋が延び、そのたもとがちょっとした公園になっている。車を停めた後、2人で公園の端まで歩き、海のほとりに立った。
 春とはいえさすがに夜風は冷たく、結花はデニムジャケットの中に肩をうずめた。僕は海を眺めながら、京都からの帰りに、新幹線で瀬戸内沿岸の街を通過したことをふと思い出した。この海は、ここ山口で日本海と1つになる。そう考えると、こうやって海と対峙することにすら特別な感慨を抱く。
「やっぱり、癒されるね、海は」と結花は言い、肩を寄せてきた。京都に思いを馳せていた僕は、結花のぬくもりを身近に感じた。
「おまけに今日は満月」
 空を探すと、彼女の言う通り、橋の上に真ん丸な月が夜空を照らしている。
「ほんとだ、今まで気づかなかった」と僕はつぶやいた。すると結花はふっと笑って、「私もよ」と答えた。「1時間も車を運転してたのにね」
 それから僕たちはベンチに腰掛け、潮風にさらされながら、静かに月を見上げた。
「どうしようと思ってるの、これから?」と結花はだしぬけに聞いてきた。
 僕は結花の横顔を見て、それから再び視線を月に戻して答えた。
「これまでと何にも変わらない、普通の生活を送るよ」
 それについて結花は考え込んでいるようだった。
「ただ、結花と、前のように付き合うことはできない。僕は1人で生きてゆく」
 結花は少し間を置いてから口を開いた。
「もちろん私もよ。前みたいに、タっくんと付き合うことなんて、とてもできないよ」
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作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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