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キラキラ 67

 奈月はわずかに口を開けたまま、どこか神妙な顔をしてこっちを見ている。まるで僕の顔に古代人の彫った碑文でも刻まれていて、それを解読しているかのようだ。
「どうかした?」と若干身をのけぞらせながら聞くと、「そういえば、小早川先生の授業で、今先輩が言ったのと同じような話を聞いたことがあります」と奈月は答えた。
「神話に関する話?」
「いえ、神話っていうよりは風土にまつわる話でした。昔、近畿に住む人々にとっては、明石は異郷の地だったっていうようなことです」
「異郷?」
「ですね。明石って、畿内の外側に接しているために、独立した経済活動を発展させてきたらしいですよ。海産物や塩もとれるし、海上交通だって発達していたわけでしょ。おまけに、先輩が言うように、気候も良かったみたいですね。当時はずいぶんと賑わってたはずです」
 奈月はそう言って、後ろにまとめた髪に軽く手を当てた。窓の外に流れる風景の光と影が、彼女の身体の上を、走馬燈のように滑っている。
「たしか東山君から聞いた話だと思いますが、京都から見れば、須磨は畿内で一番遠い土地だったようです。比較的軽い罪を犯した貴族たちが流される地だったのは、そんな地理的条件があったのかもしれません。そう考えると、明石って、その須磨をさらに外へと踏み出した、まさに異郷への入り口みたいな場所だったんじゃないでしょうか」
 明石海峡大橋を過ぎた瞬間に何かの境界線を越えた気がしたのは、古くからこの土地に染みついている風土も関係しているのかもしれない。そんな想像を巡らせていると、「異郷の地って、なんだか竜宮城みたいですね」と奈月は付け足してきた。
「竜宮城は浦島太郎の世界じゃなかったのか?」と返すと、奈月はくすくすと笑いはじめた。その弾みで、彼女の小さな肩が何度も僕の腕に触れた。
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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