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キラキラ 256

「ちょっと待ってくれ」とたまらず僕は口を挟んだ。「それって、冗談なのか、それとも本当なのか、まずはっきりしよう」
「これが冗談に聞こえるんですか?」と奈月はさらに声を震わせた。
 もちろん、冗談に聞こえる。奈月が麻理子に殺意を抱いたと言っているのだ。冗談と言うよりは、コメディだ。ただ問題は、奈月の姿からは冗談を言っているようにはとうてい思えないということだ。僕の頭の中でもつれていた糸はぐちゃぐちゃになって、ついに大きな1つの塊になった。
「ほんとうに、ごめんなさい」と奈月はさらに声を小さく震わせ、鼻をすすった。僕の頭は完全に混乱しているが、どうやら奈月が冗談を言っているのではないということを信じてやらなければ始まらないようだ。そう考え直した途端、脇腹からの流血が止まった。
「奈月は麻理子のことを、姉のような存在だっていつも言ってたじゃないか」
 僕がそう言うと、奈月は泣きながら「麻理子さん、私のことを見抜いてたんです」と返してきた。
「何を?」と僕が問い返した瞬間、さっきから奈月が何度も言っている「僕は彼女のことを理解できない」という台詞が頭に浮かんだ。僕は奈月のことを理解していなかったが、もしかすると麻理子はすべて理解していたのではないかと想像した。その時、胸の真ん中にもう一発ピストルを撃ち込まれたような感覚に陥った。今度は出血はない。だが、その衝撃はさっきよりも鋭く、冷たかった。
「女の勘って、ほんとうに鋭いものなのです」と奈月は続けた。「麻理子さんは、私の心の中をすべてお見通しだったのです。もちろん、あの人は、本当に優しくて、憧れの女性だったんです。だから、何も知らない子供の私は、麻理子さんに心を開きました。優しい麻理子さんは、私を妹のように可愛がってくれました」と奈月は言った。すべては僕の知っている奈月と麻理子の関係だった。
「でも私は、女の恐ろしさというものも、麻理子さんから教わりました」 
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キラキラ 255

 それからしばらく、僕たちの間には沈黙が横たわった。その沈黙の中においても、心の内側はざわついていた。たとえばボクシングの試合で相手との間合いをとりながら出方を探り合っている時の静けさを想像させた。もっとも、僕にはボクシングの経験などないが。
 すると、「先輩」という奈月の声が僕たちの沈黙を破った。その声に呼応するかのように、木立の間を風が通り抜け、境内の草木を揺すった。草むらの虫や遠くのセミの声は、草木の揺れるさらさらさらという音にすべて包み込まれた。
 僕は奈月の顔を見た。口元はわなわなと震えている。まるで、この境内のすべてを統括するほどの重要な言葉が蓄えられているように見えた。
「私、麻理子さんのことを殺してやりたいと、本気で思ったことがあるんです」
 奈月は静かにそう言った。
 僕はまったく予期せぬ方向からピストルで撃ち抜かれたような感覚に陥った。痛みなど感じない。いったい何が起こったのか、すぐには判断できない。だのに、血だけはどんどんあふれだしてくる。
「ごめんなさい。そんなこと思っちゃいけないって、何度も自分に言い聞かせたんですよ。中学の時から、人のために生きるように教えられてきたのに、どうしてそんなことを考えるんだろうって、自分で自分が恐ろしかった」
「奈月が何を言いたいのか、俺には全く分からない」と僕は言った。脇腹からは依然として出血が続いている。ふと顔を上げると、奈月の頬には涙が伝っている。
「でも、頭では分かっていても、どうすることもできませんでした。いや、麻理子さんを殺してやりたいと考える自分を責めれば責めるほど、かえって、魂がいうことをきかなくなるんです。今思えば、あの時の私の魂は『あくがる』状態だったのかもしれません」

キラキラ 254

「でも、無量光寺を出る時には、ものすごい寂しさに襲われたんですよ」と奈月はいきなり声を落とした。
「ほんの1週間前に、東山もあそこに行ったことを知らされたからだね」と僕が問うと、彼女はうんざりしたふうにため息をついて「だから先輩、東山君とは関係ないんです」と今度は語気を強めた。
「東山君のことなんかじゃなくって、この旅が終わったら、すべてが終わることが哀しかったんです」
 僕は「終わりじゃないよ」と彼女の言葉をかき消すように答えた。「これからも、互いに連絡しあうことはできる。奈月さえよければ、会うことだってできるよ」
 すると奈月は哀しげに小さく笑い、その後で何かを言いかけたが、結局その言葉は彼女の無気力の中に埋もれてしまったようだった。そうして彼女は、話題の矛先を少しずらした。
「よく考えれば、私が『宿世』を感じた無量光寺って、光源氏と明石の君が初めて出会った場所じゃなかったんですよね。2人はあそこから離れた『岡辺の宿』で出会ったんでした。明石の君は、たしかに源氏を愛することによって苦悩を味わうことになったけど、最後には妻になることができたわけです。幸せといえば、幸せだったんですよ」と奈月は他人事のように言い、「私にはつかむことのできない幸せです」と付け加えた。
「でも、奈月は、それ以上の幸せをつかむかもしれない」と僕は言葉をかけた。「明石の君よりももっと満たされた幸せを、奈月はつかむことができるかもしれないよ」
 奈月は一瞬だけ動きを止めた。その直後に、あたかも風船がしぼんでゆくように、少しずつ全身の力を抜き始めた。その姿からは落胆の色が感じられた。力が抜けきった後で、彼女は口元を動かし、言葉を絞り出した。
「さっきからずっと言っている通り、私の人生は、六条御息所と重なるところが大きいんです」

キラキラ 253

 奈月はそう言い、さらに歩み寄ってきた。もはや彼女は僕の手に届くところにいる。表情だけでなく息づかいさえも近くに感じることができる。
「無量光寺は光源氏の屋敷跡でしたよね。つまりあそこは明石の入道が用意した浜辺の宿だったわけです」と奈月はしみじみと続けた。その話を聞いただけで、シャワーのように降り注いでいたクマゼミの鳴き声を耳の奥に思い出した。
「じつは、あのお寺の参道を歩きながら、夢が叶ったことを心の底から実感したんです。東山君と竹林の道を歩きながら願った風景が、あのお寺の中に、ぱぁーっと広がりました」と奈月は言った。
武家屋敷のような佇まいに溶け込むように造られた無量光寺の参道には、ソテツをはじめ、多くの緑が生い茂っていた。そう言われれば、たしかに竹林の道のミニチュア版のようでもある。
「先輩は、私がそんなに感激していただなんて、もちろん気づかなかったでしょ?」と奈月はいきなり話をこっちに向けた。僕は「ごめん、気づかなかった」と正直に答えた。すると奈月は「大丈夫ですよ。先輩には、私のこと、絶対に理解してはもらえないって、分かってますから」と、意地の悪い手品師のような言い方をした。もちろん、僕には返すべき言葉などなかった。
「私、無量光寺で先輩と歩きながら、ああ、私の大学時代は、この瞬間のためにあったんだって、ほんとうにそう思いましたね。あの大学のあの学部に入ったこと、それからサークルに入って、東山君と出会ったこと。彼とはいろんな思い出ができたし、楽しかったこともあれば、泣いたこともありましたけど、そういうことも含めたすべてが、先輩とあのお寺を歩くためにあったんだって妙に納得したんです」
 僕には、奈月が話をデフォルメしているようには見えなかった。また頭が混乱し始めた。
僕が投げかけた2つの質問はどうなったのだろうと思う。奈月は彼女のやり方で答えるとは言ったものの、僕には今のこの話が、質問の答にはどうしても聞こえないのだ。

キラキラ 252

 奈月はそう言った後で、僕の方に近寄ってきた。苔を踏む音が、3回ほど暗闇を刻んだ。
「須磨はとにかく暑かったですね。久しぶりに先輩に会って、実はドキドキだったんですよ。何を言っていいのか、言葉に詰まってしまいました。須磨寺まで歩いた時は、汗だくでした。いろんな汗をかいちゃいました。でも、すごく楽しかった。海浜公園の近くで食べたうどんもおいしかったです。これまで食べた中で、間違いなく、いちばんおいしいうどんでした」
 奈月は、完全に本来の彼女に戻っていた。
「須磨から明石に行く列車の中で、先輩とたくさん話をしましたね。『源氏物語』の話でした。光源氏が、須磨でわびしい生活をしたこと、そうして、突然暴風雨が来て、海竜王やら桐壺院やら住吉の神やらが総出で光源氏に激励のメッセージを送る話でした」
 あの列車の中は十分にクーラーが効いていて、僕は話を聞きながら窓の外に広がる瀬戸内海を見ていた。内海なのに、とても雄大な海だった。そうだ。ちょうど明石海峡大橋を過ぎたところで、僕は何かの境界を越えたような気がしたのだ。その時ちょうど奈月が、明石海峡の辺りで畿内が終わり播磨の国に入るのだと教えてくれた。しかも、そこに浮かぶ淡路島は、古代から神話の舞台になっているという話も聞いた。奈月と過ごした昨日の光景は、まるで何年も前のことのように、急速に遠ざかっている。
「明石は日差しが降り注いでましたよね。もう、すべてが夢のようでした。光源氏が明石に入ってから人生が好転したというのも、うなずけますよね。明石の入道の屋敷跡に行くのに、ずいぶん迷いましたね。でも、全然苦じゃなかったです。行き先はどこでもよかったんです。先輩と一緒に歩くこと自体が幸せだったんです。明石を歩きながら、私はデジャブの感覚にとらわれたんですよ。東山君とこの野宮神社に来た時、竹林の道を歩きながら、先輩と一緒に歩けたらどれほど幸せだろうって思ってました。その光景が実現したような喜びを感じながら、明石を歩いたんですよ」

キラキラ 251

 奈月はそう言った後で、一瞬言葉を詰まらせた。そうしてその次に「この気持ちは、私がどれだけ一生懸命に話しても、それから、何回同じことを繰り返しても、絶対に先輩には分かってもらえないんだろうって思います」と、さっきから何度か言っていることをまた強調した。
 僕はすぐに「そんなことはないよ」と打ち消したかったが、もしかしたら僕は本当に奈月を理解していないのではないかと思うところもあるので、軽はずみは言えなかった。
「そんな中で、今回、先輩と旅行ができたのは『宿世』だと思うんですよ。これまで何度も夢見てきたけど、実現するだなんてとても考えられなかった。思い描くことはできても、実行するだけの勇気自体、弱気な私にはなかったし、それにもし先輩に断られたりしたら、立ち直れないくらいに傷つくだろうから、何よりそれが怖かったです」と奈月は打ち明けた。
「うれしかったよ」と僕は、それが軽はずみとして聞こえないように、心を込めて言った。「奈月が電話をくれて、正直、すごくうれしかった」
 すると奈月は「ありがとうございます」と答えた。淡々とした口調ではあったが、うれしさはちゃんと伝わってきた。再び彼女は、僕の知っている奈月に戻ってきたようだ。どうやら奈月は、2つの人格を行ったり来たりしているように映る。
「今私は『宿世』って言いましたけど、これまでは先輩にメールすらできなかったのに、どういうわけか、今回だけは自分でも不思議なほど自然に電話できたからそう感じるんです。何があっても絶対に電話するんだって、勝手に体が動いてました」
 その時僕は、奈月がもうじき結婚を控えている身であることを久しぶりに思い出した。
「あの日から、旅行が楽しみで、もう、どうにかなりそうでした。そして、昨日、先輩と久しぶりに会って、2人で須磨と明石を歩いていると、すべてが夢のようで、旅が終わるのが哀しくて仕方なかった」

キラキラ 250

 僕がそう言い終えた後、少しだけ間を置いてから奈月はこう言った。
「質問はそれだけですか?」
 僕はほとんど反射的に「それだけだ」と答えた。それからまたしばらく時間が止まった。
 すると奈月は、ぽつりと口にした。
「2つの質問を、1つずつ、順序に従って答えなければいけませんかね?」
 僕には彼女がそう言う意図が理解できなかった。だから、彼女に対して、何をどう返せばよいのやら、当然分からなかった。そうしていると、奈月の方から話をつなげてきた。
「今の質問に対して順序通りに説明すると、二度手間になって、かえってまどろっこしくなるような気がします。なので、私は、私のやり方で話したいんです。その方が、先輩にも、きっとうまく分かってもらえるはずです。ただし、だいぶ後になってからのことでしょうけど」
 奈月はそう言ったが、ますますわけが分からなくなるばかりだ。とはいえ、それはそれで大した問題でもない。僕の頭の中でもつれている糸をほどいてもらえるのであれば、方法などどうでもよい。
 奈月は僕が何も言わないうちに、さっそく話にかかった。
「私、長いこと、いつからなのか思い出せないくらいに前から、先輩と一緒に旅行することを夢見てたんです。『思い通りにならないようで、思い通りになっている』のが人生かもしれませんが、『ずっと思い続ければ、何らかの形で叶う』というのも人生なのだと私は思って生きてきました」
 たしかにそうだ。僕の知っている奈月は、そうやって前向きに生きる女の子なのだ。その話を聞いただけで、僕の中のもつれが1つほどけたようだった。
「私は、どこでもいいから先輩と2人で外に出たかったんです。もしそれが、遠くに行って、できれば一緒にお酒を飲んだり、一緒に寝たりできたら、どんなに幸せだろうって、ずっとずっと心の底で思ってました」

キラキラ 249

 奈月は表立った反応を何一つ見せず、「どうぞ」とやさしく語尾を上げた。僕は勢いにまかせて話した。
「まず1つめの質問だ。今僕は、すごく驚いたんだ。というのも、六条御息所の言葉をよくそんなにも覚えているなって、感心したというか、不思議に思ったよ。だって昨日までの奈月なら、『源氏物語』の話をするのに、東山のしおりを見なけりゃならなかった。おまけに、今の朗読ときたら、完全に板についてた。まるで奈月の思いをそのまま言ったというふうに聞こえた。それはいったい、どうしてだろう?」
 すると奈月は、やはり目に見える動きをしなかったが、それでも何かを考え込んでいるふうでもであった。そうして、しばらくしてから、「で、もう1つの質問は、何ですか?」と聞いてきた。
 意外な切り返しに一瞬穿たれたが、すぐに僕は、自分が今何を聞きたかったのかを思い出しにかかった。言葉は口をついて出てきた。「さっきからずっと不可解に思うことがあるんだ」
 奈月は、いかにも穏やかな口調で、「何ですか?」と返してきた。
「さっき、ホテルで目が覚めた時、奈月は別人のように冷たくなって、しかもいきなり佐賀に帰ると言い始めた。昨日の夜、僕たちは一緒に寝て、裸のまま抱き合ったんだよ。覚えてるよね?」
 僕の問いに、奈月はゆっくりと首を縦に振った。その反応は僕を安心させた。昨夜の布団の上の出来事も、「きわめて現実的な夢だった」ともし奈月に跳ね返されたら、今の僕にとってそれ以上寂しいことはないと怖れたからだ。安心した僕は、次に出すべき自分の言葉を慎重に選んで、こう言った。
「わけも分からずに冷たくなった奈月だったけど、どうしても僕と一緒に行きたいところがあると言って、ここに来たんだ。おまけにまだこの時間だ。夜も明けてない。これって、一般的なものの見方からすると、明らかに不自然だと思うんだけど」
 奈月は僕の話をちゃんと聞いてくれている。
「いったい、奈月は、ここで何をしようと考えてるんだろう?」

キラキラ 248

「女は思いの外にてもの思ひを添ふるもの・・・」と僕は頭の中で今奈月が言った六条御息所の言葉を一言ずつ唱えてみた。だが、意味が分かるはずもない。それでも、この言葉が、御息所の最期の言葉にふさわしい、ただならぬ重みをもっているということだけは、不思議と伝わってくる。
 奈月は、さらにこう続けた。

 うたてある思ひやりごとなれど、かけてさやうの世づいたる筋に思し寄るな。うき身をつみはべるにも、女は思ひの外にてもの思ひを添ふるものになむはべりければ、いかでさる方をもて離れて見たてまつらむと思うたまふる。

 その流麗な語りは奈月の声でありながら、別の女性の声にも聞こえた。僕が先入観の中で六条御息所の声だと聞いたのかもしれない。いや、それとも、特定の誰かの声ではないような気もする。いずれにせよ、意味が分からないなりに、その言葉が心の奥を震わせたのはたしかだ。
「六条御息所は、光源氏に向かって、娘である前斎宮のことを託しておきながらも、その直後にそんなことを言ったのです。『不快な取り越し苦労かもしれないですけど、決して娘を、男女関係の対象に思わないでください。不幸な私の身を例に考えても分かるように、女っていうものは、思いがけないことで傷つき、物思いを重ねるものなのです。ですから、どうか、娘を女として見ないでくださいね』と、光源氏に釘を刺したのです」
 奈月はそう説明した後で、再び僕の方を見た。それと連動して彼女が手に取った榊の枝が暗闇の中で揺れた。僕は瞬間的に頭に浮かんだことを口にした。
「奈月に聞きたいことがあるんだ。それも、2つほど」

キラキラ 247

 奈月が僕に何を分かってもらいたいと考えているのか、それから、どうしてこの野宮に来たのか、なぜ彼女は今のような姿になっているのか、不可解なことだらけだ。そう考えると、たしかに僕は彼女のことを分かっていないのかもしれない。
 僕はふと、杉の木立の間から空の様子をうかがった。夜は明けそうで明けない。空だけ時間が止まっているみたいだ。発光ダイオードのように青白く鋭い光を放つ月も、空の端で輝き続けている。まるで月に監視されているようでもある。
 奈月は、もう1度つばを飲み込んでから、話を進めた。
「光源氏が明石の君のことで胸を塞いでいるちょうどその頃、伊勢から帰ってきた六条御息所にはもはや源氏と再会する気力すら残っていませんでした。源氏の方も、彼女と無理をして会うには地位が上がりすぎていました。やはり、野宮での別れが、2人の最後だったのですね」
 奈月は、まるで自分の過去を回想するかのように、しんみりと語った。
「伊勢では、仏を崇めることが禁じられていたということもあって、都に帰った御息所は、出家をします。その知らせを聞いた源氏は、さすがに彼女を慰問します。対面した時、あまりに急に弱った御息所の姿を見て源氏は驚きます。彼女の魂は死んでしまっていた。もはや消滅の寸前だったわけです。源氏は、こだわりを残したまま御息所と死別をするのではないかと思い、涙を流します。彼女の方も自分の命が終わろうとしていることは十分に承知していたし、それ以上に、源氏の気持ちもよく理解していました。
 それで、御息所は娘である前斎宮のことを源氏に託します。もちろん源氏もその願いに応えようと意気込むのですが、その時、御息所は、源氏に向かってこんなことを言います。

 女は思ひの外にてもの思ひを添ふるもの・・・

キラキラ 246

「つまり、奈月の魂も、消滅してしまったと?」と僕は訊いた。無意識のうちに出てきた言葉だが、決して軽はずみというわけでもなかった。
 奈月は僕の質問にも動揺することなく、それでもつばを1つ飲み込んで、こう応えた。
「昨日から先輩は、『思い通りにならないようで、思い通りになっているのが人生』って、何度も言ってます。『源氏物語』の中の人物も、藤壺も、紫の上も、明石の君も、光源氏を愛した女性たちは、その恋の苦しみに翻弄されながらも、最後にはそれぞれの人生にたどり着いてるように見えます。だから、先輩の言葉は、あながち間違いでもないのだろうと思えます。ただ、私の場合、どうしてもそんなふうにうまく割り切ることができないんです。このまま私の魂は消滅してゆくんじゃないかって、本気で恐ろしくなることが多々あるんです」と奈月は声を震わせた。
 実は僕は少し安心していた。暗闇に立つ目の前の女性は少しずつ体温を取り戻し、僕のよく知っている奈月の姿になってきたように感じるのだ。そういうこともあって、僕は「大丈夫だ」と声をかけた。「奈月の魂は消滅なんかしないから」
 すると彼女はふと僕の言葉に耳を傾け、「何が大丈夫なんですか?」と聞いてきた。
「奈月は今生きている。まだ若い奈月は、もちろんこれからも生き続ける。生きる以上、魂は消えないよ。消えるわけがない」
 僕がそう答えた後、彼女の全身から力がふっと抜けたのがうかがえた。
「先輩には、私のことなんか、絶対に分からないんです」
 僕にとっては、全く意外な返答だった。やはりこの女性は奈月ではないのだろうか?
「これまでは、どうせ分かってもらえないって、投げやりになっていました。でも、いつの間にか時間は確実に過ぎて、私もいろんなことを真剣に考えなければならなくなってきました。私には時間がありません。このまま終わりたくないんです」と奈月は声を振り絞った。

キラキラ 245

 その奈月の言葉は、知人が急死した時のような衝撃を僕に与えた。
「東山君のしおりにも書いてあったことですが、都に帰った光源氏と離ればなれになった明石の君が、姫君を抱いて住吉神社に行った話をしましたよね。そこで彼女は、偶然にも光源氏の壮大な行列を目の当たりにして、あまりの身分の差に深く傷つきました。従者からその話を聞かされた源氏も、自分のことで苦しんでいる明石の君を思うと胸が詰まりました。でも、お互いに苦しみを共有したことが、源氏と明石の君を引き寄せたわけです。六条御息所が亡くなったのは、その直後でした」と奈月は言った。
 源氏物語は消滅と再生の物語でもあると奈月は昨日言っていた。六条御息所が物語から消滅してゆくのと引き替えに、異境の地で出会った明石の君が源氏に愛されるようになる。つまり、六条御息所の消滅は、皮肉にも明石の君の再生をもたらしたというわけだ。
「作者である紫式部は、なぜ六条御息所にそんな運命を与えたのでしょう。単に、物語をおもしろくするため? いや、それだけじゃないと思うのです。六条御息所という女性の心は、すごく生々しく描かれています。そういう意味で、この女性は、『源氏物語』の中でもまれな存在だって、東山君は何度もそう言っていました」
 さっきまでのナレーターのような口調とはうって変わり、奈月は自分の声で語り始めている。
「六条御息所の魂は、誰もがもっているのだと思います。当然紫式部の中にもあっただろうし、私の中にもあります。六条御息所は作り上げられた人物かもしれませんが、彼女の中に宿る魂は、決して作り物なんかじゃないのです」と奈月は静かに語気を強めた。
「そして、その魂は、悲しい運命に遭って、最後には消滅してしまう。でも、それも、六条御息所だけの話じゃないと私は思うのです」

キラキラ 244

「でも、運命は、六条御息所に、つらい結末をもたらします」
 その瞬間、強い風が吹き抜けて、境内のすべての草木を揺らした。
「御息所は死んでしまいます」
 奈月はそう言い、手首を使って、手に持った榊の枝の角度を少しだけ上げた。
「光源氏と腹違いの兄弟だった朱雀帝が退位して、新たに冷泉帝が即位したことによって、伊勢の斎宮の任期も切れて、六条御息所は都へ帰ってきます。その直後のことでした。ちなみに、冷泉帝は、この時すでに崩御している桐壺帝と藤壺との子供だとされていますが・・・」
「本当は、光源氏と藤壺の密通によって生まれた不義の皇子なんだ」と僕は奈月の後にそう続けた。
「この時点ではまだ、冷泉帝本人は自らの出生の秘密は知らないんですけどね」
「ということは、いずれはそれを知ってしまうわけだな」と僕が推測すると、奈月は「藤壺が、秘密をどうしても心にしまっておくことができずに、彼女の信頼する僧都だけに打ち明けていたのです。そして、冷泉帝が即位した時、今度は僧都の方が心の内に封じ込めることができなくなってしまったというわけです。さっきの六条御息所の話もそうですが、恋心にしても密かに犯した罪にしても、それを自らの心の中に封じ込めておくことがいかに難しいかということです。それほど人は、弱くて、もろい」と奈月は言葉を切断するように言い、その後で視線を僕に向けた。暗闇さえ突き抜けるほどの視線に、はからずも僕は気圧されてしまった。
「光源氏の皇子が即位すると同時に、六条御息所は娘の斎宮と一緒に都に帰ってくる」と彼女は繰り返した。
 僕は、奈月の迫力を感じながら、物語全体が『宿世』によってつながっているような感覚を覚えていた。そうして、不思議と、そのつながりの中に自分も含まれているような気がした。怖かった。
「六条御息所はやっとの思いで帰ってきたのに、源氏に会えたのに、死という形で物語から退場させられます」

キラキラ 243

「永遠の恋」と思わず僕の口から漏れた。それは、言葉の体裁をとったため息だった。僕の知っている奈月は、そんなことを言うような深刻な女性ではない。目の前に立っているのは、いったい誰なのだろう?
 僕が戸惑っているところに、彼女は今までよりも悲しげな口調で話を続けた。
「つまり、六条御息所にとっては、源氏は神よりも強い存在だったのです。娘と一緒に伊勢に下るという決断も、忘れようにも忘れられない、苦しみの種になっている源氏から遠ざかるための機会にすぎなかったわけです。だのに、旅立ちの前に源氏は現れ、彼女を抱いた。そうしてその充足感の中で、彼女は自らの思いを源氏にぶちまけた。心に封じ込めていた恋心を相手に伝えた瞬間、魂は目を覚ますのです。言わずに堪え忍んでおけば、何とか切り抜けることはできたかもしれません。だけど、そうは言ってもそれも難しい。恋心が強ければ強いほど、外へ吐き出すにはいられなくなるものですから」
 奈月はそう言った。話が深くなればなるほど、彼女の意図を洞察するのが難しくなる。同時に、六条御息所が架空の人物だとは思えないほど身近な存在に感じられる。頭の中は混乱するばかりだ。奈月は、さらにぐいぐいと話を先に進める。
「ただこういうふうにも考えられます。六条御息所が、この野宮で封じ込めていた恋心を源氏に吐き出したのも、運命のしわざであると」
 僕は暗闇の中の奈月を見た。彼女の瞳も僕を捉えているのが分かる。
「最終的には、六条御息所は心を鬼にして伊勢へと下るわけですが、野宮での源氏との再会と別れは、とても重要な意味をもつことになります。この経験があったからこそ、その後源氏が須磨に流れたのちにも、2人は文通でつながることができたのですから」と奈月はどこか安心したように言った。
 だが、その直後に、彼女の声はたちまち暗転した。

キラキラ 242

 奈月は「特別な関係」という部分を低く言ったような気がした。それが意図的かどうかは分からなかったし、ひょっとしたら僕の耳がそう聞いただけなのかもしれない。だが、その「特別な関係」という言葉は、僕の心の井戸の中にポチャリと音を立ててゆっくりと沈んでいった。
「六条御息所は、少なくとも源氏と出会うまでは、道徳的な枠の中にきちんとはまって生きてきました。身の程をわきまえ、世間体を気にし、余計な物思いに煩わされないようにと細心の注意を払っていました。でも、そういう人間であればあるほど、特に恋の窮地に立たされた時には、道徳の枠を超えようとしてしまうんだと思います」と奈月は続けた。「それほど恋は、おそろしい」
 彼女の全身からは、再び危険な空気が感じられ始めた。だが、さっきのように話の流れを変えたいとは思わなかった。ここまでくれば、目の前に立つ女性の話を最後まで聞かなければならないと思った。
「ということは、日頃はおちゃらけているような人は、恋をした時には案外道徳的だってこと?」と僕は聞いた。すると奈月は「あくまで一般論ですけどね」とだけ答えた。そうして、また話を再開した。
「六条御息所だけではなく、光源氏だって実は道徳を重んじる人たっだんですよ。何より彼は、父や先祖を大事にします。それから、周りの人間に、完璧とも言えるくらいに気配りができる人間だったんです。女性たちが彼に惹かれるのには、ちゃんとした理由があったわけです」
「光源氏には『性』と『癖』があった」という東山の話を奈月がしてくれたのを思い出す。普段は女性に見向きもしないが、いざ恋に落ちてしまうと何を捨ててでもそれを手に入れようとしてしまう。光源氏とはそういう男らしい。
「六条御息所は、この聖域にいながら、自分をきちんとわきまえていた。でも、だからこそ、彼女の魂は騒ぎだし、彼女を興奮させたのかもしれません。そうしてタブーを犯すことで、光源氏と特別な関係を結ぼうとした。神にさえ背くことによって、永遠の恋に溺れたかったのではないでしょうか」

キラキラ 241

「彼女たちは、もしかすると神を恨んだかもしれません。当時は『神仏習合』と言って、神と仏を調和して崇拝する風習はありましたが、それはあくまで俗社会での話であって、伊勢神宮に仕える人間は、仏を崇めることは固く禁じられていました。神は彼女たちに決して自由を与えなかったのです」
 奈月はそう言い、手に取った榊の枝を再び顔の前に掲げた。その瞬間、僕はまたどきっとした。榊の枝は彼女に驚くほどよく似合っていたのだ。彼女自身が神に仕える身であるかのようにさえ見えた。花柄の白いワンピースも、暗闇の中では、神聖な着物のように映る。
「つまり、完全であるということは完全ではない。完全であることによって誰かが自由を奪われ、傷つき、そこから恨みの感情さえ生まれるのです」と奈月は言った。
 僕は彼女の話の意味を、できるだけ具体的に理解できるように頭の中で咀嚼してみた。
「完全であるということは完全ではない」
 だがそれは、まるで論理学のゲームみたいに、不毛な調子で頭の中をぐるぐると回るだけだった。
 すると奈月は「もちろん、六条御息所と光源氏は、そんなことまで考えてはいません」と言ってきた。「久しぶりに再会した2人は、魂の赴くまま、本能の導くままに、この場所で結びついただけなのです。でも、『源氏物語』の読者である私は、この場所が2人を引き寄せ、タブーを犯させたと解釈します。そうして、この聖域が犯される場所となることにより、完全性を崩壊させ、その割れ目から、新たな意味の完全性が芽生えることになったのです」
「つまり、神は2人を許した、というわけだな」と僕は自分なりの解釈を述べた。だが奈月は僕の言葉が耳に入っていなかったかのように、すぐさま次の言葉を発した。
「でも、今日ここへ来てみて、ひとつ気づきました。六条御息所は、この聖域でスリルを感じた。そうして、神に背いてまでも、源氏ともっと特別な関係を結びたいと願ったのです」

キラキラ 240

「完全性?」と僕は言った。奈月は僕の反応を気にもかけずに、あくまで彼女のペースで話を続けた。
「そもそも、この世の中に完全なものがあるのでしょうか? もしあるとすれば、それは完全であるという意味で完全ではないと思うのです」
 彼女の言うことは、すんなりと理解できるようなものではなかった。
「伊勢神宮へ仕える女性たちは、この野宮で潔斎をして、俗世にけがれた心身を清めました。でも、彼女たちは、そのことによってすべてが清められたわけではなかった。なぜなら、彼女たちは常に寂しさと隣り合わせだったからです」
 奈月は再びナレーターのような語り口になっている。その声は、夜明け前の森の静寂に、不気味なくらいに調和している。
「彼女たちは、寂しかった?」と僕は口にした。
「斎宮に選ばれる女性は、天皇の血筋をひいていることが条件でした。六条御息所は、主人が皇太子だったわけですから、娘が候補に挙がったわけです。そして、斎宮の最終決定は亀の甲を使った占いで行われました。つまり、彼女たちは本意ではなかったのです」
「でも、斎宮は光栄な役職のように思えるけどね」と僕が言うと、彼女は「伊勢へ行くには、今でも京都から特急で3時間近くかかります。それが平安時代には、斎宮は御輿に乗せられて、500人ともいわれる群行を従えるわけです。何日がかりで、ようやくたどり着くほどの距離がありました」
「都に帰ることは許されたの?」
「天皇が交代するまで、帰京は許されませんでした。だから、斎宮たちは、この野宮で潔斎の生活を送りながらも、旅立ちに不安を覚え、都やそこに残してきた人たちに未練を感じるのです」
 須磨に流離した光源氏の心情と重なるところが多いと、まず僕は思った。

キラキラ 239

 六条御息所はそうすることでカタルシスが得られたわけだ、と僕は言おうとしたが、口先で止めた。思ったことをつい口に出すことに、ためらいを感じてしまう。この場所の神聖さが僕の体内に浸透してきているのかもしれない。
 すると奈月は意外なことを言った。
「でも、この神聖なはずの野宮は、犯される場でもありました」
 僕は暗闇の中の奈月を見た。それは依然として、奈月の姿をしたある女性、と表現する方がよさそうだった。
「六条御息所と光源氏はこの聖域で着物を脱ぎ、裸になり、深く抱き合い、交わったのですから。『源氏物語』の中では細かくは描かれていませんが、そのことがかえって想像を駆り立てます。おそらくは、お互いに経験したことのないほどの濃密な愛が交わされたことでしょう」と彼女は言った。
 僕は改めて境内を見回した。静謐な空間に、木々や草むらに隠れる生物たちの密やかな息吹が感じられる。緑の薫りが立ちこめ、湿った大地の匂いは夜明けを予感させる。
「2人は、神に仕えるための禊ぎの場であるこの場所で、タブーを犯したのです。ただ、それは2人が歩んできた人生の象徴でもありました。元皇太子の妻である六条御息所は、主人の甥に当たる光源氏を愛したわけです。源氏の方も、父帝の妻である藤壺と愛し合い、不義の子供を産むという過去があります。御息所も光源氏も、世間体を気にし、高貴に生きようとしてきたのに、2人とも、自らの本能には打ち勝つことができなかった。野宮はそんな2人を引き寄せて、犯される場所になったわけです」
「犯される場所」と僕は言った。だがそれは、決して軽はずみで出た言葉ではないような気がした。
「私はこんなふうに考えます。つまり、野宮という聖域は、犯されることによって、より完全性を与えられたのだと」

キラキラ 238

 奈月はそう言った後で、細く長く息を吐き出した。杉の木立の間に顔をのぞかせている月は、青い光を放ち続けている。奈月は闇の中で一度髪をかき分けた。僕は背中に汗をかいているのを自覚した。木立を吹き抜ける風が、野宮を満たす空気を揺らしている。
「さっきの話の続きですが」と奈月はだしぬけ気味に言った。どの話の続きなのだろうと僕は思った。
「1年と半年ぶりに再会した六条御息所と光源氏。2人はぎこちないながらも、徐々にお互いの距離を縮めてゆきます。特に御息所は、こんなに長い間自分を待たせたことの恨みもあって、そう簡単には心を許したくなかったのですが、やはり自分に嘘はつけませんでした」
 奈月がそう言った時、頭の中には再び千年前の想像が広がった。平安朝を代表する男女の最後の夜。それはこの野宮が舞台だった。
「光源氏が詠んだ和歌を聞いた六条御息所は、頑なに閉ざしていた自らの心が解けてゆくのを感じずにはいられませんでした。それを自覚した途端、これまで『あくがる』状態だった彼女の魂は、ようやく元の自分の中に収まり、目の前の光源氏へと向けられたわけです。源氏の方も彼女の心の中が手に取るように分かりました。源氏は御息所の近くにまで歩み寄り、彼女を抱きしめます。もはや御息所は抵抗などするはずがありませんでした。それから2人は深く愛し合います。会えなかった長い時間を埋めるかのごとく、お互いに求め合いました。なつかしい光源氏の体を自分の中に受け入れた御息所は、堰が切れたように、つらさや恨み言を源氏にぶちまけます。光源氏への計り知れない思い、過去に経験した葵の上への嫉妬。でもそれは決して本意ではなかった。なぜなら彼女は世間の『人笑へ』だけにはなりたくなかったから。にもかかわらず源氏は、苦しんでいる自分を顧みてはくれなかった。長いこと味わった生き地獄のような苦しみ。そのようなことを御息所は源氏に話したのです。すると、彼女は、自らの心の変化に気づきます。すべてをぶちまけた後、源氏をあっけなく許してしまっている自分がいたのです」

キラキラ 237

「ここは、ほんとうに神聖な場所です。自分の魂の声がはっきりと聞こえてくるようです。・・・私、場所には『力』があると思っています。たとえば、私は佐賀に生まれたわけですが、たまたまそれが佐賀だったというのではなくて、佐賀という場所が私をこの世に導いたのだって、これはずいぶん前からですけど、そんなことを感じてきました」
 そう言って奈月は目の前にそびえる杉を見上げた。まるで極楽浄土を仰ぐかのようだった。
「光源氏が須磨に流れたのにも、やっぱり須磨という土地自体に求心力があったのでしょう。それから、その後明石に移ったのも、これはもちろん、表向きには明石の入道をはじめとする人たちの導きもあったわけですが、根源的には明石という場所に力があったのです」
「独自の観点だな」と僕は言った。だがそう言った後で、何やら見当違いのことを口にしたような気がした。それを裏付けるかのごとく、奈月は僕に頓着することなく話を進めた。
「須磨から明石に移る時に、海が荒れて海竜王が出てきましたよね。あれは、住吉の神の導きによるものだと光源氏は感じ取るわけですが、神々でさえも、その土地に由来しているわけです」
 奈月は、見上げていた視線を今度は足下に向けた。左手には榊の枝を持っている。
「そう考えると、この野宮にも、力があるわけです。ここは六条御息所と光源氏との最後の場面になるべくしてなった、つまり、この場所が2人を引き寄せた」
 ということは、この場所が僕たちをも引き寄せたわけだ、という言葉が頭に浮かんだが、口には出さなかった。ひんやりとした空気の中、緑と土の臭いだけがかすかに漂っている。
「この野宮には、神聖な空気が感じられます。ここは、斎宮に選ばれた女性たちが、伊勢神宮に仕える前に禊ぎをする聖域。この空気は、人によって作られるようなものではない。だからこそ六条御息所は、源氏から離れるためにここに逃げ延びたのです。でも、源氏は追いかけてきた」

キラキラ 236

 すると奈月は、「分かってます」とやさしさのこもった口調で言った。「なぜ今、私がこんな話をしてるのか、先輩はよく分からないのでしょう?」
 その問いかけに対して何も答えられぬまま、暗闇に立つ彼女の姿を見た瞬間、僕はどきっとした。目の前に立っているのは、奈月ではなかったからだ。見た目はたしかに奈月に違いない。だが、奈月のように見えて、実は奈月ではない。ここに立っているのは、孤独に震える1人の女性だ。
 思わず「奈月?」と声をかけた。だが彼女は、あたかも何かの象徴のようにそこに立ちすくんでいるだけだ。混乱している僕を気にかけるふうもなく、彼女は話を続けた。
「なぜこんな話をしているのか、実は私にもよく理解できないんですよ。でも、1つだけ確かなのは、今この瞬間、先輩とこの野宮にいるのは、『宿世』によって定められていたということです」
 木立の高いところで、また鳥が鳴いた。初めて聞く鳴き声だ。それは木管楽器のように野太く、高らかに響き渡った。
「私は、この野宮で先輩と2人きりになるように宿命づけられていたんです。今、はっきりと悟りました。今のこの瞬間は、きっと、永遠になります」
 彼女はそう言い、一途に僕の方を見た。暗闇の中でも、彼女の視線はまっすぐに伝わってきた。
「大切なことは、後になってみないと分からないんです。さっきから何度も出てくる、『思い通りにならないようで、実は思い通りになっているのが人生』っていう思想も、きっと同じことを言っているのだと思います」
「もし、奈月が言うように、今という時間が『宿世』によって決められていたのなら」と僕は口を挟んだ。「今のこの瞬間は、いったいどんな意味があるのだろう?」
 すると、奈月はふっと力を抜き、続きを話し始めた。 

キラキラ 235

 僕は奈月に話しかけたかった。何か言うべきことがあるというわけではない。奈月の語りを聞くうちに、どこか違う世界に引き込まれてしまいそうで、おそろしくなったのだ。とにかくリズムを変えなければならない。とはいえ、彼女のどこにも気軽に割り込んでゆく隙などない。
 目の前の闇に立つのが本当に奈月なのか、どうしても疑わしい。たとえば彼女はスピーカーとしての役割を果たしているだけで、どこか別のところにCDプレーヤーとアンプが隠れているのではないかとさえ思うほどだった。
「光源氏は、自分が六条御息所を抱いたことで、彼女がどうしようもないほどの泥沼にはまっていることにすら気づかず、彼女の元に通わなくなってしまったのです。男って、そんな勝手なものなのでしょうか? 一度女を抱くと、満足してしまうのでしょうか? でも、女は違う」
 そう言って奈月はさっき折った榊の小枝を鼻の前まで持って行った。そうして、それと対話するかのように話を続けた。
「御息所はずっと待っていたんです。まさか自分は遊ばれただけじゃなかろうかと怯えたりしながら。それでもやはり源氏は会いに来てくれない。その結果、どうしようもなくなって、賀茂祭にひっそりと出かけます。遠くからでもいい、愛する人の姿を一目見たい、そう思い立ったのです。でも、あろうことか、御息所の牛車は、光源氏の妻である葵の上の親族が乗った牛車から乱暴に扱われて、壊されてしまい、彼女は大衆の面前で赤っ恥をかかされてしまうのです。『人笑へ』となることを何よりも恐れた御息所です。その車争いの日から、葵の上への嫉妬はますます燃え上がり、魂が『あくがる』ようになるのです」
「なあ、奈月」と僕は言った。すると彼女は話を一時停止して僕の方を見た。表情を確かめることができないほどに、辺りはまだ十分に暗い。
 だが僕には、その「なあ、奈月」の後に続くべき言葉など何もない。
 木立の間からは丸い月の姿が見える。発光ダイオードのように鋭く光っている。

キラキラ 234

 奈月はなおも境内の奥へと歩を進めた。苔むした地面から、おそらくは杉と思われる大木がまっすぐに突き出て、空に向かって伸びている。僕たちはそれをよけるように、ゆっくりと歩いた。緑の臭いが鮮烈に鼻をついてくる。
「頭では分かっていたんです。私は東山君のことが好きなんだって。私は彼と付き合ってるんだから、この人以外の人を好きになっちゃいけないとまで思っていました。でも、あの時ばかりは、魂がいうことを聞かなかった。そして、その魂がいったい何を求めてるのか、私にはよく分からなかったんです。私が自覚していたのは、ただ魂が体を離れてさまよい始めているということと、その状態は私にどうしようもない痛みをもたらしているということだけでした」
 木立の高いところから聞こえてくる鳥の声の種類が増えてきた。おそらくは小鳥だろうと思うが、突っつくようなさえずりが空へと抜けてゆく。夜明けが着々と近づいていることだけは感覚で分かる。
「六条御息所は皇太子の妻として、将来は皇后の地位を約束されていました。でも、皇太子は若くして亡くなってしまった。娘を1人残して。御息所は世間の『人笑へ』だけにはならないようにと、慎み深く生きていました。しかし、光源氏と出会ってしまった。それはもしかしたら、『宿世』として運命で定められていたのかもしれません。いずれにせよ、忘れかけていた彼女の恋心に再び火がついたのです。いいえ、それは、彼女にとっては、初めて知る本物の恋の味だったのかもしれません」
 奈月はひときわ大きな木の前で足を止めた。ここだけ空気がひんやりとしているように感じられる。
「光源氏は、御息所がこんなにも本気なのを知ることなく、彼女を抱くのです。女って、憧れていた男に抱かれてしまうと、もう、夢と現実の区別がつかなくなって、絶対に止められなくなるんです」

キラキラ 233

「それは?」と聞くと、奈月は「榊です」と答えた。そうして、今手に取ったばかりの枝を、暗闇に透かすようにいとおしげに見つめてから、話をさらに先に進めた。
「止められないほどに思いがあふれた源氏は、御息所に対して、和歌で応戦します。

少女子(おとめご)が あたりと思えば 榊葉の 香をなつかしみ とめてこそ折れ

 この神聖な榊の枝をあなたに捧げるのは、決して間違いなんかではありません。神にお仕えする方のいらっしゃるあたりに、あなたもいるだろうと思って、榊の香りをたよりに、ここにたどりついたのです。そんな思いを源氏は和歌に詠んだのです」と奈月は言い、榊の枝を持った手をゆっくりおろした。
「あの時、東山君がした話はだいたいそんな感じです。私はそれまでに『源氏物語』を少しかじっていましたし、六条御息所の話も何度も聞かされていましたから、すんなりと入ってきました。ただ、東山君は、私に向けて話してくれたようで、実は私を喜ばせようと思っていたわけではなかったのです。要は、彼の自己満足だったんです。長いことつきあっていれば、それくらいのことは分かります。でも、私は、それでよかった。彼のことが好きだったし、話を聞くことで彼の心が満足するのであれば、それはそれで立派な役割を果たしていると納得していましたから。だけど、あの日ばかりは違いました。私は、彼の話を聞きながら、ものすごく悲しくなったのです。もう少し言うと、なんで私がここにいなければならないのか、その意味すら分からなくなっていました」
 奈月はかすかに息を荒げながらそう話した。それでも、落ち着きは失われていない。目の前の女性が本当に奈月なのか、ますます疑わしく感じられるほどだ。
「そして私は、ふと気づきました。こんなにも悲しいのは、私の魂が勝手にさまよい始めてるからだと」

キラキラ 232

「私は、この野宮に来て、魂の声を聞きました。それは、まさしく、本当の私の声でした。そして、その声を聞いた瞬間、心から悲しくなりました。竹林の道で、胸の1点に刺さった痛みが、徐々に広がってゆくのが自分でも分かりました」
 奈月はそう言って、境内の奥に広がる森の方に目をやった。
「あの日、礼拝を終えた後、私と東山君は神社の中を歩き回りました。彼は自分の好きな六条御息所にゆかりの深い場所とあって、すごく興奮していました。写真を撮ったり、私に『源氏物語』の説明をしたり。野宮は、光源氏と御息所が1年と半年ぶりに再会した場所なのだ。源氏がやっと訪ねてきてきれて、御息所は、内心では胸が破裂しそうなほどうれしかった。でも、それを素直に表現するほど彼女は子供ではなかったし、何より長らく無沙汰であったことの憤りもあって、簡単に心を許さなかった。源氏の方も、その空気を察して、一気に詰め寄ることはしなかった。それで彼は、境内の榊(サカキ)の枝を折り、そっと御息所に差し出した。御息所は、源氏に対してこう返した

 神垣は しるしの杉も なきものを いかにまがへて 折れるさかきぞ

 あなたの折ったその神聖な榊の枝は、私に対してなのですか? 何かの間違いじゃないのですか? あなたには他に愛する方がいらっしゃるのでしょう?」
 奈月はそこまで話してから、不意に歩き始めた。僕は彼女について行った。2人の足音が静寂を刻む。
「御息所のつれない態度に、源氏は必死になって彼女への変わらぬ思いを語った。その思いを口にした途端、源氏はさらに本気になってきた。御息所に会いに来なかったことを悔やみ始めるほどだった」と奈月は続けた。そうして、奥の院の手前で足を止め、そこに茂っている木の枝を折り、香りをかいだ。

4月の雨ですね・・・

 4月の雨は、どこか生ぬるく、その分切ないですね・・・
 みなさま、いかがお過ごしでしょうか?

 さて、この雨で感傷に浸っているのか、PCのご機嫌がよろしくないようで、ネットワークにうまく接続してくれません。雨音だけがむなしく響いています。

 というわけで、本日の文章は明日公開いたします。

 せっかくの週末ですが、この雨で桜も散ってしまうのでしょうか・・・

『世の中に 絶えて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし』(在原業平)


 それでは、また明日、『静かな散歩道』でお会いしましょう。

キラキラ 231

 それから彼女は黒木の鳥居の真下に立ち、「あぁ、やっぱり、ここへ戻ってきたんですね」と実感を込めてつぶやいた。そして、ゆっくりと、踏みしめるような足取りで鳥居をくぐった。
 境内は思ったよりも奥が広いようで、木々も生い茂っている。しかもかなりの大木のようだ。とても高いところから、聞いたことのない鳥の声が夜明け前の聖域の空気を揺らしている。「何しに来たのだ?」とも聞こえるし「ずいぶん待っていたぞ」とも聞こえる。
 奈月は、本殿の前に頭を下げ、賽銭を投入した後で両手を合わせた。たぶんそれは、神社を参拝する際の正式な流儀ではないが、むしろそちらの方が正しいと思わせるほどにこなれた所作だった。
 彼女が礼拝を終えた後、僕も両手を合わせた。とてもパンパンと拍手をするような雰囲気ではないので、僕も奈月の流儀に倣うことにした。本殿は小規模で、朱色で塗られているようではあったが、そのことすら確かめられないくらいに辺りはまだ暗い。
 すると奈月が「声が聞こえてきますね」と後ろで言った。きびすを返すと、僕と奈月の間を風が吹きすぎた。遠くではセミが鳴き始めている。
「魂の声?」と僕が問うと、彼女は闇の中でうなずき、「ここは本当にスピリチュアルな世界です。東山君と来た時に、私はそのことに気づきました」と言った。
「この神社は、今は縁結びのパワースポットとして、たくさんのカップルが訪れるんです。あの時も、境内は人であふれかえっていました。東山君は、私の隣でお祈りしました」
 僕はこの場所に立つ、学生時代の奈月と東山を思い浮かべた。驚くほどに鮮明に想像できた。
「東山君がどんなことをお祈りしたのか、私には分かりませんでした。でも、それ以上に、東山君には、あの時の私の心がどういう状態だったのか、絶対に分からなかったと思います」
 奈月は不吉なほどに落ち着いている。

キラキラ 230

 今奈月が言ったことが、まさか彼女の口から出てきたとはとても信じられない。奈月が東山と一緒にいながら、誰か別の人のことを考えていた?
 まだ頭の中を整理しきれないうちに、奈月は話を続けた。
「あの時私は、たしかに東山君を思っていたんです。間違いなく、あの人のことが好きでした。でも、今言ったように、胸のある1点にキリが突き刺さったような痛みを感じたのです。しかもそれは息がふさがりそうなほどの、本当に苦しい痛みでした。油断したら泣いてしまいそうでした」
 2つ目の外灯を通り過ぎたところで、小道は右に折れ曲がっている。道なりに進むと、その先に神社が現れた。薄暗い木々に囲まれた、ひっそりとした佇まいだった。
「ここが野宮神社なんだな」と僕は言い、鳥居の前に立った。
「黒木の鳥居ですね」と奈月は秘密を打ち明けるような声で解説した。辺りの暗さが鳥居を黒く見せているのかと思いきや、近づいて確かめると、本当に黒い木で作られた鳥居だった。
「この鳥居は『源氏物語』の本文にも書かれてます。娘の斎宮と一緒に伊勢に下るために野宮で禊ぎの日々を送っていた六条御息所を源氏が訪ねる場面です。源氏は身をやつして、信用のおける従者だけを連れて、お忍びでここを訪れるのです。そうして黒木の鳥居をくぐる」
 闇に透けて見える奈月の横顔に目をやると、彼女はこぢんまりとした鳥居を見上げている。彼女の顔の遙か彼方の空には月が出ている。月明かりはその周辺を金色ににじませている。空と山との境目はわずかに明らみ、もうすぐ夜も終わりを告げようとしていることを伝えている。
「野宮とは、野原の中に立てられた仮のお宮です。ですから、平安時代にはこの辺りにいくつかあったので、ここが源氏と六条御息所との別れの場所だとは特定できません。でも、そんなことは関係ないです。要は魂の問題なんです」と奈月はやはり冷淡な調子で意味不明のことを言った。

キラキラ 229

「物の怪」と思わず言葉がこぼれた。
 その不吉な言葉は、六条御息所の人生と重なり合う。御息所の魂は物の怪となり、光源氏の妻である葵の上に取り憑き、最後には絶命させたのだ。
 だが今は、僕の目の前を歩く奈月の背中にも重なり合うような気がする。僕の知っている奈月は、天真爛漫で優しく、しかも慎み深い女性だ。彼女と「物の怪」という言葉が結びつくはずがない。奈月が昨日の姿から急変してしまったがために、勝手に嫌な予感を抱いているだけなのだ。
 広大な墓を通り過ぎた僕たちの両側には、再び深い竹林が生い茂っている。2つ目の外灯が近づくにつれて、あと少しでこの道も終わることが分かる。竹たちは相変わらず「さらさらさら・・・」とざわめいている。依然として、おそろしさを感じながら、僕は奈月の少し後ろを歩いている。
 すると、「やっぱり、この時間帯は、いいですね」という奈月の声が暗闇を突き抜けた。
「前に東山君と来た時には、昼下がりの時刻で、しかも秋の紅葉の季節だったから、この道は観光客でいっぱいでした。でも、私は、胸騒ぎがしたんです。そして、さみしくなりました。胸の真ん中に、ものすごく細くて鋭いキリで穴を開けられているかのように、心のある1点だけが、異様に痛みました」
 いつの間にやら、奈月は僕の真横を歩いている。僕の歩く速度が上がったのか、それとも奈月の速度が落ちたのかは分からない。
「東山と一緒だったのに、さみしかったの?」と僕は聞いた。すると彼女は「すごくさみしかったです」と言い切った。「あの時、東山君と歩きながら、私はいったい何をしてるんだろうって、ずっと思ってましたよ。私は本当に私なのかって、何度も自問自答しました。結論からすると、あの時の私は、本当の私じゃなかった。私は、東山君のために自分を犠牲にしていただけでした。あの時、私の中には、別の人がいました。この道を歩きながら、私はずっと、その人に会いたいって、胸を痛め続けてたんです」

キラキラ 228

「普段は目に見えないもの?」と僕は聞いた。奈月は歩く速度を保ったまま「そうです」と答えた。
 竹林は風に揺らされて、さらさらさらと音を立てている。「さらさらさら・・・」
 さっきホテルの窓を開けた時、大堰川から流れる風が草木を揺らしていたのを思い出す。あの時奈月は「待つ人のいる方から吹く風のことを、平安朝の貴族は『松風』として、それとなく和歌に詠み込んだのです」と教えてくれた。そして、大堰川のほとりにも松が茂っていると指さした。この風こそが、まさに松風なのだと。僕は風に吹かれながら、平安時代と今との間に、大して時間の差はないように感じた。
 だが、その瞬間の記憶は奈月にはない。彼女は僕の記憶を、後になって「現実的な夢」だと一蹴した。
 とはいえ、「さらさらさら・・・」という音だけは鮮明に残っている。大堰川のほとりの草木の揺れる音と、野宮神社に続く道に生い茂る竹の音は、僕の心の中で完全に一致している。
「普段は見えないものって、具体的には、何だろう?」と僕は奈月の背中に向けて問いかけた。すると彼女は、ためらうことなく「魂の声です」と答えた。僕にとっては全く意外な回答だった。
「魂?」
「はい、魂です。この道を通ると、魂の声が聞こえるのです。それは普段は聞こえない。でも、ないわけじゃない。魂は心の中に絶えずくすぶっています。そうして、私たちを根底から突き動かしているのです」と奈月は続けた。その時、僕たちの左側の竹林が突如として途切れ、その間から広大な墓地が見えた。小道の間に2つほどある外灯の1つが、その光景を他人事のようにぼんやりと照らし出している。
「でも、時に、何かの弾みによって魂が勝手に動き出すことがあります。六条御息所はその状態のことを『あくがる』と表現しました。魂が身体から抜け出して、宙をさまようという意味です」
 昼間に電車の中で、東山のしおりを見ながら奈月が解説したことだ。六条御息所は、源氏を激しく思い、妻に嫉妬するあまり、『あくがる』状態になった。そうして、最後には物の怪と化して取り憑いた。
作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
旅に出ましょう
それも
とびっきり寂しい旅に・・・

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