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キラキラ 283

「その和歌の意味を、もう1度教えてくれないかな」と僕は言った。その時、口の中が不気味に湿っているのを自覚した。
 すると奈月は穏やかな言いぶりで教えてくれた。
「和歌の最初にある『うきめ刈る 伊勢をの海人(あま)』というのは、六条御息所が自分のことをそう言ってるんです。伊勢に下って、憂き目、つまりつらい思いをしている私のことを想像してくださいと光源氏に訴えかけてるんです。昨日も言いましたが、海人とは、海に潜って海産物を取る女性のことですよね。でも、当時、伊勢の海人たちは、神に献上する海産物をとっていたために、神聖な職業人だったんです。その海人に掛けられている言葉があります。世をはかなんで出家した女性である『尼(あま)』です。つまり六条御息所は、源氏への和歌の最初に、伊勢神宮に仕える神聖な身であるということと、人知れずつらい思いをしているという自らの2つの境遇を同時に詠み込んだんです」
 次第に解きほぐれていく僕の頭の中に、昨日見た須磨の海の情景がよみがえってきた。浜辺に吹く松風、照りつける太陽、磯の香り。それから瀬戸内海とは思えないほどの広い海。
 奈月は僕の反応を気にするふうでもあったが、すぐに和歌の説明に戻った。
「それから、和歌の後半部分ですよね。私の心に引っかかったのは、まさにこの部分なんです」と前置きをし、右手に持った榊の枝を両手で包み込むようにした。
「『もしほたるてふ 須磨の浦にて』というところに、秘密が隠されていることに、私は気づいたんです。そしてそれは、六条御息所が意図的に仕組んだ秘密だと直感しました。何のために? それは、彼女の心の一番深いところで悩ませている光源氏に、その秘密を打ち明けるためにです」
 奈月はそう言い、咳払いをした。だがそのほんの小さな音は、僕の心の真ん中に落ちた。
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キラキラ 282

 その瞬間、僕は、あらゆることを考えた。あまりに多岐にわたることを1度に考えたために、しかもそれが僕の頭の中という限定された中で起こったために、あらゆる考えは瞬間的に圧縮され、それ自体得体の知れない塊となって僕の頭を内側から押し上げた。それゆえ僕には、自分の頭がずっしりと重くなったような感覚があった。
 奈月は手の届きそうなところまできて、止まっている。
「佐賀に帰る前に、東山君のしおりを読みながら心に刺さった部分があるんです。昨日須磨を歩きながら話したところなんですけど」と奈月はいくぶんか声を低くして言った。
 依然として頭を重くした僕は、奈月がどの言葉に惹かれたのか、もちろん想像などつくはずがない。そもそも今の頭の状態で、奈月の言葉が入ってくる余地すらない。すると彼女は、和歌を口ずさんだ。

うきめ刈る 伊勢をの海人(あま)を 思ひやれ もしほたるてふ 須磨の浦にて

 奈月はそれを2度繰り返した。その後で「伊勢にいる六条御息所が須磨の光源氏に向けて詠んだ歌ですね」と付け加えた。
 不思議なことに、奈月が口ずさんだその和歌は、ぎゅうぎゅう詰めに固くなった僕の頭の中にもすんなりと入ってきた。同時に、硬直した思考もしだいに解きほぐされてゆくように思えた。
「それまで、大学の授業とか、東山君との話の中で、何度かこの和歌に触れてきたのでしょうが、どういうわけか、佐賀に帰る前に、しかも東山君が書いたしおりを見て先輩たちとの旅行のことを思い浮かべながら改めて出会うと、それまで感じることのなかった特別なものがこみ上げてきたんです」
 奈月は低く、それでいて饒舌にそう語った。

キラキラ 281

 その時、さっきの奈月の言葉が僕の脳裏を鋭く横切った。
 犯される場所・・・
 この野宮は六条御息所と光源氏の2人によって「犯される場所」となった。神にさえ背くことによって手に入れる愛もある。逆に、神は犯されることによってより完全性を身にまとうことができる。 
 奈月がそんなことを語ったのはほんの数十分前のことだ。だが僕にはそれが信じられない。ここに来てからの時間が、とてつもなく長く感じられるのだ。
「伊勢に下ってもなお、御息所には、この野宮の光景が焼きついていました。彼女は光源氏に抱かれながら、とめどなく濡れて、大きな声を出した。その恍惚感は身体から離れることはなく、その時の声はいつまでも耳の奥に残っていました。この聖域におけるすべての経験が彼女の永遠になっていたのです」と奈月は、僕が今思ったことを補足するかのようにそう言った。ここで話が一段落ついたと見える奈月は、呼吸すらしていないかのように、静止している。地表を這うわずかばかりの風が、杉の木立の間へと静かに吸い込まれていく。
「今日、先輩と一緒にここに来たのが『宿世』なら、私は何も思い残したくはない」と奈月はつぶやいた。そうして、そのままの口調でこう言った。「六条御息所は光源氏とこの場所で出会うのを心待ちにしていた。それと同じように、私も先輩とここで会うのを楽しみにしてたんです」
 僕の中でまた、危ない、という声が聞こえた。その後で、地殻変動の前触れであるかのように、何かがゴトゴトと音を立て始めた。僕にとって奈月は大切な後輩だ。僕の人格を形成したとさえ言える大学時代を思い返す時、決して欠くことのできない存在なのだ。彼女を失ってはいけない。僕は金縛りから逃れるかのように自分に言い聞かせた。だが、そう思えば思うほど、身体は反対の方向に動こうとする。
「六条御息所は、毎晩濡れていた・・・」と奈月は言い、僕の方に歩み寄ってきた。

キラキラ 280

「六条御息所は毎晩のように御簾の中で自分を慰めました。光源氏の身体を思い出すだけで彼女はすぐに濡れてしまったんです。伊勢に仕える前、この野宮で潔斎の日々を過ごす身になっても、心の中は何も変わらなかった。神の前で源氏の身体を想像することへの罪悪感も、日ごとに薄らぎました。そのうち彼女は、この野宮で源氏に抱かれたいと願うようになった。その瞬間を想像すると、どうしようもなく濡れた。彼女は掘っ立て小屋のような仮の神宮の中で自分の声を押し殺すのに必死でした。こんなところに来てまでも『人笑へ』になってはならないという羞恥心さえも、源氏への憧れには勝てなかった」
「奈月」と僕はまた彼女の名前を呼んだ。奈月はそこで話をすっとやめた。
「もう帰ろう」
 すると彼女はふっと笑い、「もう少しだけ待ってください」と言ってきた。
「もういいよ。奈月がどんなことを考えて生きてきたのか、何となく分かってきたから」
 僕がそう言うと奈月はほんの少しだけ間を置いてから、「何となく、ですか?」とつぶやいた。
「これまで私は自分のことをここまで話すことはなかった。たぶんこれからもないです。さっきも言いましたが、心の一番深いところにある秘密を打ち明けるということは、ごく限られた機会にしかできないことなんです」
 奈月の静かな迫力に、僕の心の底で揺れている感情がさらにぐらついた。動揺する僕を気にかけるふうもないまま、奈月は話を再開した。
「毎晩光源氏のことを考え続けて1年半。その瞬間はようやく訪れました。再会して間もなくのよそよそしい時間を経験した後、2人は抱き合います。源氏の胸に身体をうずめながら、御息所は長年の思いが叶ったことを実感します。そうして彼女はこれまでにないほどの恍惚に包まれるのです」
 奈月はそう言い、今まで左手に持っていた榊の枝を右手に持ち替えた。

キラキラ 279

「そんな中、六条御息所は、車争いの日に、葵の上側の人たちから屈辱を受けます。大衆の面前で、光源氏への叶わない愛に苦しむ姿をさらしてしまった。彼女が最も怖れた『人笑へ』になってしまったのです。思い通りにならないようで、思い通りになっているのが人生って、昨日から何度も言っているけど、最も避けたい事態に陥ってしまうのもまた人生なんですね」
 奈月はまるで自分の痛みのようにしみじみと語った。
 そういえば、たしか麻理子も同じようなことを言っていた。物事に執着することは怖い、と。
 奈月から真相を聞かされた今、その言葉は僕に向けられたものだったのかもしれないと思う。大人の女性は心の一番深いところで自分を悩ませる張本人にだけ秘密を打ち明けるもの。直接的に伝えることもあるし、間接的な時もある。
 そんなことを考えていると、奈月が、いきなりこんなことを言ってきた。
「物事に執着することは、怖いです」
 その言葉を聞いて、僕は再び眩暈に襲われた。しばらくしてそれが収まった後、今度は背筋がぞっとした。
「執着することは、いろんな意味で怖いんです」と奈月は小さな声で追い打ちをかけるように続けた。
「屈辱を受けた六条御息所の魂は『あくがる』状態になって、ついに葵の上を呪い殺します。もちろん、そのことによって御息所自身もひどく苦しみました。彼女は何度も『憂し』と言っています。東山君が言うとおり、六条御息所はただの悪女として切り捨てられないんです。苦しい恋に落ちた女性なら誰でも体感する宿命を背負っただけなんです。でも当の本人は、そう考えることはできなかった。伊勢に下るしかなかったのはそのためです。とにかく彼女は、光源氏のことを思い続けた。光源氏の何を? そうです。彼の身体を想像したんです」
 僕の心の深いところでまた、危ない、という声が雷鳴のように上がった。

キラキラ 278

「伊勢に下った六条御息所が一番つらかったのは、夜でした。平安朝の女性にとって、夜とは好きな男の人と会える限られた時間だったんです。まだ源氏が訪ねてきてくれた頃、月の夜は、特に燃えた。初めて源氏を受け容れてからというもの、御息所は彼がほしくて仕方なかった。彼は、肉体的にも、すべてを包み込んでくれる唯一の男だったんです」
 奈月は溢れ出る感情を抑えようとしているかのように話した。
「平安朝の男って、『にほひ』とか『けはひ』とか、はっきりとは目に見えない雰囲気にこそ魅力があったとされます。でも、月明かりに映し出された光源氏の裸ほど、六条御息所の心を満たすものはなかった。彼女はずっと、自室にいる時も、それから宮中に上がっている時も、光源氏の裸を思い浮かべました。そうして、光源氏が彼女の中に入った瞬間の、すべてを揺さぶられるようなあの恍惚がどうしても忘れられなかったんです」
 奈月は呼吸が早くなってきたようだ。それでもつとめて冷静に、自分の言葉を丁寧にかつ的確に紡ぎ出すかのように語りを続けた。僕は奈月の話に思わず惹きつけられていることを自覚した。
「恋人に対して心からの愛を求めるのは当たり前のことです。でも、時に、心は身体にかなわないこともある。身体でしか癒すことのできない心があるんです」と奈月は声を荒げた。
「だのに、そのうち光源氏は葵の上という有力者の娘と結婚し、義母である藤壺を愛し始めたという噂が宮中でささやかれるようになりました。そして、それがただの噂ではないことを裏付けるかのように、彼はぱったりと訪ねてこなくなりました。かくして六条御息所は、1人ぼっちの夜を過ごすことになったのです。特に月夜はつらかった。彼女を抱く光源氏の幻影に苦しめられる毎日が続きました。彼女は毎晩御簾の内側に身を隠して、自分で自分を慰めるしかなかったのです」
 奈月はそこまで言った時、小さくため息をついた

千里の道も一歩から

 風薫る5月の日曜、みなさまどのように過ごされましたか? 
 私はというと、いつものとおりのロングドライブでした。ハンドルを握り、時折外から入ってくる新緑の香りを感じながら、お気に入りの音楽を口ずさみました。
 それにしても、この1ヶ月で走行距離は6,000㎞にも及びました。このままいくと1年で72,000㎞ペース、地球1周が約40,000㎞ですから、軽く1周するほどの距離になる計算です。買ってまだ2年しか経っていない愛車がどうなってしまうのか、心配です・・・

 ところで、車のメーターを見てよく思うことですが、知らず知らずのうちにかなりの距離を走っていますよね。学生時代に必死にアルバイトをして買ったゴルフワゴンも10年で20万㎞走ってくれましたが、今思えば地球を5周も走ったことにちょっとした驚きを感じます。

 それを思うと、日々の積み重ねは偉大なものです。何気ないことでも、繰り返しによってとてつもなく大きな力になることもあるんですね。なかなか気づきにくいですけど。
 子供の頃、地球とは想像を超えたとてつもなく大きなものに感じられましたが、自分の愛車で何周もできるとなると、意外に身近に感じられたりもします。
 
 だとすれば、日々の勉強や仕事も、積み重ねによって地球を1周するほどになればどれほど素敵だろうと想像を巡らしたりもします。
 ほんのちっぽけな自分だけど、今生きているということは本当に幸せなこと。誰にも気づかれないことだとしても、この地球上に何かを残すことができればなおも幸せだと、帰宅して愛車を洗いながらしみじみと考えました。

キラキラ 277

 榊の葉に目を落としながら奈月がそう言った瞬間、僕はまた、わけもなく、危ない、と感じた。
 昨日の夜から、奈月はさまざまな人格を、ローテーションするかのように入れ替えている。いや、それは彼女の意図的な仕業ではなく、きっと瞬間瞬間にさまざまな感情が入り込んでくるのだろう。少なくとも僕にはそう見えてしまう。
 すると奈月は「でも、」といきなり声を小さくした。そうして、その後で、唾を呑み込み、こう言った。
「六条御息所にとって、一番の想い出は、光源氏に抱かれたことでした」
 さっきから僕を深いところで揺さぶっているある感覚が、あたかも電流でも走ったかのごとく、びくりと震えた。その直後に背筋を寒気が駆け上がった。
「六条御息所はその思いを決して表には出さなかった。大人の女って、自分の心の一番深いところにある感情は絶対に表には出さないもの。といっても、特別な場合もあるんです。心の一番深いところで彼女を悩ませる、その秘密の張本人にだけ、それとなく打ち明けるのです。直接打ち明けることもあれば、間接的な場合もある。麻理子さんみたいに、それをうまく使い分けて打ち明ける人だっている」
 そう言って奈月は、榊を持つ手にぐっと力を込めた。
「秘密の感情を打ち明けるということは、呼吸をすると同じようなこと。ずっと心にしまっておくことなんてできないんです。吐き出さないと、死んでしまう」
 僕の根底を揺さぶり続けている感覚が、僕に軽い眩暈を引き起こさせた。何度かまばたきをして瞳を凝らすと、目の前の女性が再び奈月には見えなくなっている。だが、これまでとは違って、おぼろげながらに、誰なのかが分かりそうな気がする。いや、特定の誰かではないのかもしれない。奈月のように見えるこの女性は、奈月であり、麻理子であり、あるいは幸恵でもあった。もしかしたら、さっきから彼女が申告している通り、六条御息所なのかもしれない。

キラキラ 276

 すると、再び風が吹いてきて、境内の全ての草木を揺らした。僕と奈月の前に茂る榊の枝も、乾いた音を立てはじめた。さらさらさら・・・と。
 そのうち、それは、まるで榊の枝が僕の心を撫でている音のようにも聞こえた。僕の心がその音になにがしかの反応を示したようだ。奈月は目の前に垂れ下がる枝にそっと手をあてがい、やさしい手つきでそれを折った。その瞬間、風がぴたりと止んだ。
「六条御息所は、源氏に未練を残したまま、娘と一緒に伊勢へと下りました。でも、そんな御息所にも救いがあった。同じく須磨へと退去した源氏からの手紙です。長いこと会うことがなかった2人の関係が、文通できるまでに復活したのは、この野宮での一晩があったからなんです」と奈月は言った。風が止んだばかりの境内はどこかひんやりとしていて、ここへ歩いてくるのに少し汗ばんだシャツをいつのまにか乾かしている。
「伊勢に下った六条御息所は、斎宮として神に仕える娘の横で、もちろん源氏のことを思っていました。彼女たちの住居のあった場所は内陸に入ったところでしたが、神への供え物として海女たちが獲った魚介や海藻が頻繁に送り込まれていましたから、常に磯の香りに包まれていました。六条御息所は、その香りを感じるたびに、海でつながった、須磨にいる光源氏のことを思い出したのです」
 奈月はそう言い、榊の葉をいとおしげに撫で始めた。そうして、そこに何かが透けて見えるかのように、物思いに耽っている。
「六条御息所には、源氏とのいろいろな想い出がありました。琴を弾き合ったり、和歌を読み合ったり、それからさまざまな話題で盛り上がったりしたこと。彼女にとって、亡くなった夫である前の皇太子も含めて、源氏ほど話していて熱い思いが込み上げてくる人はいませんでした。六条御息所にとって源氏は、たった1人の、すべてを包み込んでくれる男性だったんです」

キラキラ 275

 奈月は実感を込めてそう言った。
「で、そうやって毎晩しおりを読んでるうちに、他にもいろんなことが思い浮かんできたんです。何かと濃かった大学時代が終わって、私は佐賀に帰ろうとしている。私なりに勉強もしたけど、それよりも、恋をして、初めて男の人と付き合って、それから先輩と出会って、麻理子さんを恨んだりした。そんな私の大学時代が、フォトムービーみたいに次々と頭の中に浮かんでは消えていきました」
 旅に出る前になると故郷が恋しくなる。それと同じように、おそらく死ぬ前には、たとえどんなにつらい人生であってもすべてが恋しくなつかしくなるだろう。僕と奈月が所属しいていた研究室の教授が、退官パーティーの時の挨拶で語ったことを今でも覚えている。
「思えば、瞬間的に発生した竜巻のような、いえ、真夏のスコールのような、とにかくそんな大学時代でしたね」と奈月はつぶやいた。「それと、しおりを読んでいくうちに、『源氏物語』の場面もたくさん出てきました。そこに引用してある話はもちろんですが、旅行中に東山君が夢中になって語っていたこぼれ話みたいなことも、次から次へと思い出しました」
 奈月はまた、僕の知っている彼女の姿に戻ってきたようだ。立て板に水のごとく、滑らかに言葉が出てくる。だが僕には、彼女がいったい何を伝えようとしているのか、依然としてはっきりとしない。
「私が六条御息所と重なるところが多いなってしみじみと感じたのも、実はこの時、しおりを読みながらなんです。おそらく、4年間の大学生活に別れを告げるということによって、感傷的になったりしたんだろうと思うんです。で、そうやって、六条御息所に引き込まれるようにして読むようになってから、私は、東山君のしおりじゃ足らなくなって、部屋に置いてあった『源氏物語』を読み込むようになっていました」と奈月はいくぶんか深刻さを帯びた声でそう言った。
「原文に書かれた御息所の言葉で、どうしても引っかかるところがあったんです」

キラキラ 274

 つまりあの頃の僕は、全くの固定観念の中で生きていたわけだ。しかも、そのことによって、気づかぬうちにいろんな人たちを困らせていた。しかも、僕にとっては身近で大切な人たちを。
「先輩とは決して結ばれないっていうことも、『宿世』だったのかなって、考えたりもしました」と奈月はむしろ明るく言ってのけた。
 思わずため息をついた時、「自分を責めすぎちゃだめよ。人は常に『状況』の真ん中に立たされてるんだから、失敗もあるわ。誰も自分のことで精一杯なのよ」という幸恵の声が横切った。それは幾分かの慰めにはなったが、根本から励ましてはくれなかった。幸恵の口から発せられた言葉だからだ。
 とにかくこれ以上奈月の話を聞くのがうとましくなってきた。自分の愚かさをますます思い知るだけなのは分かりきっている。とはいえ、さっきから僕の深いところを揺さぶっているある感覚がこの場所にとどまらせている。僕はここで奈月の話を最後まで聞かなければならないのだ。それこそ『宿世』によって定められているのだ。そんな、声にならない声が聞こえてくる。
 僕の心の半分以上を知らない奈月は、穏やかな口調で、回想を再開した。 
「私が佐賀に帰るために荷物の整理を始めた頃、大学の授業で使ったファイルの中から東山君が作った旅行のしおりが出てきたんです。なんだか、それが偶然には思えなくて、毎晩寝る前に読むようになりました。みんなで行った旅行が思い出されて、すごく懐かしかった」
 わけもなく、もう1度ため息が出てきた。奈月には僕のため息の理由など分かるはずもない。当時の僕が奈月の苦悩に気づかなかったのと同じことだ。因果応報ともいえるかもしれない。
「しおりを読みながら、旅行の一コマ一コマが鮮やかによみがえってきたんですけど、ずっと先輩と一緒だったっていうことが、夢のようでしたね。あの頃はまだ麻理子さんからのプレッシャーもなかったし。私の大学時代の、最高の時間だったんです。永遠っていうか」

キラキラ 273

「そんな罰当たりな自分に取り憑いた悪運を振り払うには、私はまた誰かのために生きなければならないんだって直感しました」と奈月は話を進めた。
「それは、私を育ててくれた家族の手助けをするということでした。それでも、私は、先輩から声がかかることを待ったんです。電話で相談している時、私はその瞬間を期待しました。でも、先輩は、とにかく私と東山君のことに心を砕くばかりで、本心には気づいてはくれませんでしたね。話と話の間で沈黙になると、切り出そうかどうか、ドキドキしました。だけど、私の運気がどん底にあることを考えるとどうしてもためらってしまいました。無理にそんな話を持ち出しても先輩は戸惑うだけだろうし、最悪の場合、嫌われてしまうかもしれないと怖れたんです。もしそんなことになってしまえば、私は2度と立ち直れなかったはずです」
 その時、杉の木立の上の方で小鳥が鳴いた。ずいぶんと甲高い鳴き声だった。さっきから鼓膜を震わせる超音波のノイズのような虫の声の音量も、心なしか大きくなっているような気もする。
「それでも、どうしても我慢できずに、『先輩のことが好きなんです』って言ったこともあるんですよ。しかも、1度や2度じゃないです。でも先輩には全然届かなかった。まあ、一生懸命になって私の進むべき道を考えていてくれてたのはうれしかったですが、あの時は、けっこうヘコんでたんですよ」
 奈月がそんなことを言ってきた記憶はうっすらと残っている。だが、「好き」という言葉ほど、様々な意味で用いられるものはない。あの時僕は、カジュアルな意味でしか彼女の「好き」を捉えなかった。
「でも、先輩の反応は、後になってみると、感謝してるんです。どう頑張っても先輩にはまともに相手にされないんだって、早くに気づくことができたわけですからね。あぁ、私はやっぱり先輩と離れて行ってしまう運命なんだってあきらめた瞬間、佐賀に帰ろうって決心がつきました。そしたら、清々しい気持ちになれました」

キラキラ 272

 僕に甘えるような奈月の喋りに慣れてゆくうちに、心はますます揺れだした。波打ち際の海水のように寄せては返しながらも、制御しがたい感覚はじわじわとこっちに近づいてくる。
「それから1年近く待った時、麻理子さんはアメリカに行ってしまいました。それで私はほっとしました。長いこと苦しめられてきた胸のつっかえが取れたような爽快感がありましたね。できれば、あの人のことはそのまま忘れてしまいたかった」と奈月は言った。
 その頃の僕はというと、麻理子の消滅によって、それまで気づくことのなかったさまざまな問題に直面していた。まず、彼女への罪悪感は薄れるどころか大きくなっていた。それは全く予期せぬ心の動きだった。その後ほどなくして、些細な衝突から幸恵とも関係が途絶えてしまうわけだが、それももしかすると麻理子の消滅が影響したのではないかとさえ思われた。
 これまで当たり前すぎて存在のありがたみに気づかないでいた人が突然目の前から消える。その際、死別であろうと生き別れであろうと、初めて胸に突き刺さる後悔がある。そんな、僕のような人間を、きっと愚かだというのだろう。賢明な人間なら、別れる前に感謝を形で返すことができるはずだ。
 愚かな僕は麻理子のいないアパートの部屋にこもり、胸の真ん中にできた空洞を1人見下ろす日々を送った。すべてが後の祭りだった。
「麻理子さんが旅立った後、先輩が声をかけてくれるのを期待したんですよ。でも、やっと運が私にも向いてきたと思った時、いきなりお父さんが病気になったんです。あの時、罰が当たったんだとまず思いました。麻理子さんのことをあれほど憎んだわけですから。私が佐賀に帰ろうと考えたのは、自分自身に不吉なものを感じ、自粛しなければならないと悟ったからなんです」
 もちろん僕には、当時の奈月の心理を洞察することなどできなかった。お父さんの介護のために佐賀に帰るという選択肢を設定したこと自体、頭の下がる思いだったし、奈月らしいとも感じたまでのことだった。だからこそ、東山の仕事が落ち着くまでは、故郷で家族の手伝いをしつつ試験勉強に励んではどうかと気安く助言できたのだ。

暑い1日でしたね・・・

 私は、日々こうして『静かな散歩道』に物語を書き込んでいるわけですが、その一方で、普段は大きなイベントのプロジェクト・チームの一員として仕事をしています。今日もそのPRで、朝から多くのちびっこたちに風船を配ったり、キャラクターのシールをあげたりしました。
 かき氷に長蛇の列ができるほどに暑かったですが、昨日、髪を思い切ってカットしたのが功を奏したのか、身も心も思った以上に軽快でした。

 去年までの仕事は自分1人である程度対応できるほどでしたが、今の仕事はとにかく規模が違います。自分はプロジェクトの中の、一部でしかありません。
 でも、そのことは、かねて想像していたよりも、つまらないことでもないです。たしかに自分は一部でしかないけど、ならば、輝く一部でありたいと思っています!

 私に与えられた仕事はいくつかあるのですが、どの仕事においても、文書やメールで済ますのではなく、相手と直接会って、顔を見ながら話を盛り上げるというのが、私のスタイルです。そのためには「動く」ことを大切にしています。たとえそれが車で2時間離れた山間部であっても、会うべき人がいれば足を運びます。
 独りぼっちのドライブになりますが、その間、窓を開けて風を感じながら、いろんなことを考えます。そうして、人と会って話をした後には、必ず心地よい気分をもらって戻ってきます。

 たとえば、イベントに10万人の方が参加してくださるとします。その10万人を構成するのは、1人ひとりです。私の仕事は、10万人という数にとらわれずに、1人の方に喜んでいただけるかということに価値があるのだと思っています。もちろん『静かな散歩道』も同じ考えです!
 1人ひとりと出会うことが、「輝かしい一部」になってゆくのだろうと思いつつ、毎日車と筆を走らせています。

キラキラ 271

「奈月?」と僕は尋ねた。この野宮へ来てから何度彼女の名前を呼んだことだろう。だが彼女は、これまでとは違って、僕の声など聞こえていないようだ。
「私は、先輩が私に会いに来てくれる日を夢見て、ずっと待ってたんです。そのことによって、麻理子さんが怒り出そうが、東山君に殴られようが、全然かまわなかった。先輩が私の名前を呼んで、私の手を取って、どこかへ連れて行ってくれれば、すべての問題は解決できたんです」
 僕の心に海水のように染み込んできた感覚が、僕を深いところで揺さぶり始めた。頭では、それは危ない揺れだということは分かっている。だがそれは、僕の意志で制御できるようなものでもなかった。僕は、頭の中で鳴り響く警告音を聞きながらも、ただ流れに身を委ねるしかできなかった。 
「でも、先輩は、来てくれなかった。麻理子さんを選んだんです。いえ、もしかしたら、麻理子さんが東山君に耳打ちしたように、他に愛する人がいるのかなって思ったこともありました。だって、私がどんなにメッセージを発しても、先輩は全く気づいてくれなかったんです。まるで、大きな岩のように動かなかった。でも、だからこそ、私は憧れたんです。いつか先輩が私の方を向いてくれることを」
 奈月の洞察通り、あの時僕の心の中にいたのは、他でもない幸恵だった。僕は麻理子と一緒にいながら、幸恵のことを考えていたのだ。だから僕は麻理子と同じ布団で寝ながらも、彼女を抱くことはめったになかった。それでも僕の隣にいたがる麻理子に対して、罪悪感を感じていた。でも、僕はどうしようもなかった。もちろん、その事実を奈月が知るよしもないし、今さら伝える必要もない。
「私は毎晩、東山君の隣で、先輩のことを考えていました。先輩と2人で生活することができたら、どれほど幸せだろうかと思いました。それに、これはあまり言えないことですが、麻理子さんを見返してやりたいという思いもありました。ひょっとしてあの人に殺されるかもしれないとも思いましたが、先輩が私を選んでくれたなら、怖くはありませんでした」

キラキラ 270

 奈月は急に声色を変えた。呪われたような、おそろしい声だった。本能的に背筋をのけ反らすほどだった。奈月は、僕の方にまっすぐな視線を向けている。さっきまでの、別の魂の宿った奈月に逆戻りしてしまったかのようだ。
 すると奈月は、今度はうって変わって、甘くやさしい声で「先輩」と話しかけてきた。僕は返事すらできなかった。
「ずっと、待ってたんですからね」
 その言い方は、親しげだった。
「私は麻理子さんに、身も心もボロボロにされてしまったんです。苦しさで胸が引き裂かれそうになった時、私の隣にいたのは東山君でした。あの人は、なぜ私が寂しそうにしているのか、その理由を知っていました。すべては麻理子さんの思惑通りでした。東山君は、きっと私よりも、もっと傷ついていたことでしょう。とにかくもう、めちゃくちゃだった」
 過去のことを話しているはずなのに、あたかも現在の苦悩を語っているのかのように聞こえる。
「だから私は待つことしかできなったんです」
 その時、僕の心の知らない部分で、何かがぐらりと動き始めたような感覚があった。たった今感じた目の前の女性に対するおそろしさが、少しずつ形を変えているような気がする。危ない、と僕は心の中で声を出した。でも、その感覚は、まるで砂にしみこむ海水のように、じわじわと確実に勢力を広めていった。
「問題を解決する方法は、たった1つだけありました。だから私は、そうなるのをひたすら待っていたんです。長かった・・・」

キラキラ 269

「俺はやさしくなんかないよ」と思わず言葉がこぼれた。奈月は「やさしいですよ、先輩は」と繰り返した。今の僕の言葉と同じくらいに実感の重みのある言葉だった。僕は、これ以上何も説明する必要はなかろうと思った。真実を知らない方が幸せなこともある。むしろ、何でも言葉を尽くして説明すればいいというわけでもない。
 すると奈月は「えっと、さっきどこまで話しましたっけ?」と言った。僕もすぐには思い出せなかった。すると彼女は「前回、東山君と2人でここへ来た時のことでしたね」と小さく言った。
 僕は、内心、これ以上奈月の話を聞くのが怖かった。彼女がまだ何か、重大な秘密を隠しているのではないか、もちろんそこには僕も絡んでいる、それを聞くのが怖かったのだ。奈月がこの長い話をし始めたそもそものきっかけは、僕がした2つの質問だった。1つめは、なぜ奈月は六条御息所の言葉をまるで自分のもののようにはっきりと覚えているのか、それから2つめは、奈月はこの野宮に来て何をしようとしているのか。奈月は、2つの質問を個別に答えるのではなく、彼女自身の方法で答えたいと言ったが、今の話は、僕の質問が踏まえられているのだろうか?
 そんなことを考えていると、奈月は「前に東山君とここへ来た時、私は胸が塞がるように苦しかったんです」と深刻な声色で話し始めた。「先輩が私からどんどん離れていくようで、それがすごく怖かったんです。その頃、毎晩のように、先輩と麻理子さんが楽しそうに夜を過ごしている光景を想像しました。東山君はそんな私を見て、ますます機嫌を悪くしました。たしかに私はあの人のことが好きでした。でもその思いは、あの人が私に手を上げて以来、脆いものだったんだと気づいていました。私はただ、東山君が逆上しないように、偽っていただけです。あの日、竹林の道を歩きながら、頭の中は先輩のことでいっぱいでした。そうして、私から先輩を引き離して優越感に浸っているであろう麻理子さんを殺してやりたいと思っていました」

キラキラ 268

 僕は幸恵のそんな考え方に心地よさを覚えたものだ。そういえば、彼女はこんなことも言っていた。自分を責めすぎてはいけない。なぜなら、自分は常に「状況」の中心に立たされているから。後で悔やむような言動をついしてしまうのも、そのせいなのだと。
 僕は、大きく深呼吸した。夜明け前の緑の香りが鼻の奥にまで入り込んでくる。
 僕と奈月の孤独な魂は、これまでは決して理解し合うことはなかった。だがそれはお互いに自分のことで精一杯だったからだ。あの頃僕たちは、それぞれの「状況」に立たされていた。幸恵の文脈に沿って捉え直すと、そんなふうに解釈することもできる。
「でも、結局、東山君の方から、別れ話を持ちかけてくることはありませんでした。今思えば、彼もいろいろと悩んでいたんでしょう。とにかく、あの人とのことは、過ぎ去った思い出ですよ」と、僕の心を知らない奈月はさらりとそう言った。彼女も少しは落ち着いてきているようだ。
「お父さんが病気で倒れた時も、もちろん東山君も心配してくれたけど、私が一番に頼って相談したのは、やっぱり先輩でした。あの時はもう麻理子さんはアメリカに渡っていたので、以前よりは相談しやすくなってましたしね。でも、先輩と麻理子さんの関係がどうなったのかは知らなかったし、何というか、トラウマみたいなものも残っていたので、深入りしすぎちゃいけないなって、ずっと言い聞かせてたんですよ。だけど、実際、先輩のアドバイスは的確だったから、どうしても頼ってしまったんです」
「そうだったかな?」と僕は久しぶりに言葉を口にした。
「そうですよ。先輩は私の話をちゃんと聞いてくれて、私の置かれた状況を踏まえた上で、考えを尊重してくれました。自己解決に導いてくれたんです。先輩は、本当にやさしい人です」と奈月は言った。
僕は、あれっ、と思った。僕は奈月の本当の苦しみを理解していなかったのだ。しかもその時は自分のことで精一杯だった。だのに今、奈月は僕のことを「やさしい」と言ったのだ。

キラキラ 267

 あぁ、これで僕と奈月の仲も終わりだな、と僕は悟った気がした。僕は何も知らないまま麻理子や奈月と過ごしてきたのだ。そうしてその途上において、たくさんの大切なものを見落としてきたのだ。もはや奈月に合わせる顔などない。
 これまで僕は何度も絶望感にさいなまれてきた。恋のこともそうだし、仕事のことも、それから今後の生き方のことも、考えれば考えるほど迷宮にはまり込み、逃げ場のない人生という強風に背中を押されながら、どこかへたどり着くしかないのだというあきらめの中に自らを投じてきた。なおかつ、それらの苦しみを僕独自のものだととらえることで、ささやかな慰めを得てきた。
 だが、奈月の口から真実を聞いた時、僕は自分という立方体の狭い部屋に閉じこもっていただけだったということを思い知った。そして、自らの悩みにとらわれるあまり、身近な存在だった奈月の苦しみにすら気づかなかった。
「でも、人間って、そんなものなのよ」
 突然声が聞こえた。他でもない幸恵の声だった。いつだったか、幸恵は、彼女の運転する赤いBMWのセダンの中でそう言った。
「どうしてあの人はやさしくないんだろうって、心底がっかりすることってあるでしょ? でも、それって、その人がやさしくないというわけじゃないと私は思うの」
 幸恵は2人きりになると、よくそんなたぐいの話をしてきた。
「もちろん、やさしさを完全に忘れてしまった人間もいるわ。でも、私たちは、そんな人にははなからやさしさなんて期待しないでしょ。がっかりさせられるのは、やさしさを期待できる人に裏切られた時よね。じゃあ、どうしてその人がやさしくしてくれないのかっていうことなんだけど、その理由は意外と簡単なの。その人に、他の人にやさしくするだけのゆとりがないのよ。つまり、自分のことで精一杯なのよ。そして、それが人間っていうものなんだって、私は思うわ」

春の嵐でした・・・

 私の住む町では、ものすごい雨と風でした。
  
 農業高校の先生から特別に譲っていただいた野菜の苗は吹き飛ばされ、買ったばかりのスーツと靴もずぶ濡れになってしまいました。
 みなさんの町はいかがでしたか?

 私事ですが、今年から大きなイベント関係の仕事に就き、今は毎日のように様々な場所を巡っています。車の走行距離もとんでもないことになっています。

 毎晩この時間にはフラフラになってしまいますが、それでも各地の風景をこの目で確かめるというのは、なかなかできない経験だと思い、自分なりに楽しませてもらっています。

 日本という国は狭いようで広く、逆に広いようで狭く感じることもあります。都市もあれば山間地域もある。
 各地を渡り歩いてみてはっきりと気づいたのは、みなさん、それぞれの場所で、こだわりをもって生活していらっしゃるということです。

 そんな各地の風景に、毎日励まされます。

 明日も遠距離を渡り歩くことになりますが、少しでも多くの人が忘れられない想い出を作っていただけるように、そうして、みなさんの町がより好きになってもらえるように、自分の仕事を丁寧に行いたいですね。そのためにも、まずはくたびれたスーツを部屋干しして、きちんとプレスし直そうと思います!

 もしかすると、明日、みなさんにお会いできるかもしれません。

 直接会えないにしても、ぜひこのブログでお会いしましょう。

キラキラ 266

 奈月がそう言った後、榊の木はまた静かになった。風が吹いているわけではないのに、いったい何が枝を揺らしたのだろうと一瞬不思議に感じたが、これ以上そんな現象に執心するほどのゆとりはなかった。
「麻理子さんが憎かった」と奈月は首を左右に振りながら言葉を絞り出した。「あの人は私と先輩を引き離したんです。私は、もはや気安く先輩に近寄るどころか、先輩の方を見ることすら許されなくなりました。でも、そんなことを知らない先輩は、大学で会っても、普通に接してくれました。私は、油断したらその場で泣き出してしまいそうだったんですよ。そして、あの旅行の後、東山君とここへ来た時、先輩と絶望的なくらいに離れてしまったような気がして、胸が引き裂かれる思いだったんです」
 奈月はそう言って、ため息をついた。草むらに隠れる虫の声が、超音波のノイズのように鼓膜に響く。
「昨日、明石の無量光寺で、1週間前に東山君も来ていたことを知った時、じつは、すごく嫌な気持ちを思い出したんです。偶然の陰に、麻理子さんの存在を感じたんです。私と先輩が2人で歩いているのを、この期に及んで麻理子さんに監視されているような気がして。麻理子さんは東山君の存在を思い出させ、私を混乱させようとしたんじゃないか、そんなことを考えました」
 依然として僕には口に出すべき言葉が見つからない。とりあえず今できることは、奈月を傷つけないようにしながら、時が過ぎるのを待つのみだ。僕はさっき、奈月が佐賀に帰った後も僕たちは会うことはできると言った。それに対して奈月は寂しそうに笑うだけで、何も返さなかった。だが今となっては、この先奈月とは会わないほうがいいように思う。
「東山君は、元々はマイペースで、私のことを気にかけるようなタイプじゃなかったですけど、それでも2人で京都に行った間の私の笑顔が偽りのものだってことには気づいていたと思うんです。でも、もしそうなら、私にとっては都合が良かった。彼の方から別れ話を持ちかけてくれれば話はすんなりといったはずでした」
 頭のとても深いところで、何かが裂けるような音がした。

キラキラ 265

 奈月は冷淡な調子で声を震わせた。そういえば、手に持っていた榊の枝はいつの間にかなくなっている。彼女の足下の暗がりを見回しても、そこには落ちていないようだ。
「東山君に殴られた痛みは、体にではなく、心に残りました。あの時のことがとにかくショックで、人間が信じられなくなってしまったんです。東山君も、それから麻理子さんもです。もはや東山君に対しては恋心みたいなものを感じなくなってしまいました。でも、だからといって別れるまでにはなりませんでした。うまく言えないんですが、私には『別れ方』が分からなかったのです」
 僕は奈月の人間不信のグループの中に、自分が含まれていないことにまず安堵した。その直後に、自分のずるさに落胆した。今が現実だと思いたくはなかった。夢であってほしいと願った。さっき奈月が言っていた「限りなく現実的な夢」であってほしいと。だが、風は僕の前髪を揺らし、緑の香りも鮮烈に立ちこめている。そうして目の前で奈月の涙をすする音がはっきりと聞こえる。これは、夢ではない。
「東山君への愛情は枯れてしまったのに、私は彼と付き合い続けました。彼は、何事もなかったように私と接し、前よりも積極的に話しかけてくるようにもなりました。そうして、私たちは、先輩たちと旅行をした何ヶ月後に、再び京都に行きました。東山君は、そのために一生懸命になって工事現場のバイトをしました。そこまでして、彼は私と旅行に出たかったんです。で、その時に、竹林の道を歩き、この野宮を訪ねました。東山君は、『源氏物語』の話をたくさんしました。この野宮は源氏と御息所の別れの舞台となっているのに、今では縁結びのパワースポットとして有名なんだということを何度も強調していました。あの時、私は、表向きは楽しそうにしていたけど、心の中では泣いていました」
 奈月がそう言った時、彼女の目の前の榊の枝が揺れた。だが風は吹いていないようだった。
「麻理子さんは先輩と一緒にいるだろうと思うと、はらわたが煮えくりかえりそうでした」

キラキラ 264

 だが僕にはあの頃の東山の態度を詳しく思い出すゆとりさえない。麻理子が僕と幸恵の関係を知っていたという事実が、目の前に立ちはだかる巨大な氷山を見上げる時のような絶望感をもたらしていた。
「もちろん、作り話ですよね?」と奈月は気を遣った言い方をした。僕は「もちろんだ」と平静を装って答えはしたものの、その後でどうしようもなく惨めな気持ちに襲われた。
 そんな僕を前に「麻理子さん、ひどすぎます」と奈月は声をさらに落とした。「あの人は私を先輩から引き離しただけじゃなく、東山君さえも巻き込んだんです」
 もはや僕は何も返すことができない。
「話は戻るんですが、その夜東山君は、麻理子さんからの話を打ち明けた後で、急に狂ったみたいになって、私に殴りかかってきたんです。もう、私、びっくりして、怖くて、声も出なかった。そうやってうずくまってるところに、今度は上から踏んづけてきました。サッカーやってた人が、女の子を蹴っちゃだめでしょ。もうこの人とは付き合えないって、本気で思いました」と奈月は涙ながらに訴えた。
 まさか、2人の間にそんなことがあっただなんて、想像すらしなかった。しかも、すべての発端はどうやら僕にあるらしい。僕は苔の大地に両手をついて、謝りたい衝動に駆られた。
「でも、その後で、東山君は急に素に戻って、体を丸めて倒れ込んでいる私を抱きかかえてきたんです。そうして、今度は、全く別の人格が宿ったみたいにやさしくなって、『大丈夫か、本当に悪かった』って、泣くんです。もう、私は訳が分からなくなりました。だけど、それからというもの、マイペースだった東山君は私のことを気にかけてくれるようになったのです。あの日さんざん殴りつけられたことがまるで夢だったんじゃないかって思うくらいの変わりようでした」と奈月は言った。もう、涙をすする音は聞こえない。
 依然として僕は、何をどうすればいいのか分からないでいる。
「だけど、そんなことをされても、私の心は何ひとつとして癒されませんでした」

キラキラ 263

「東山君じゃなくても、麻理子さんみたいな人に本気で話をされたら、それが本当なんだと信じ込んでしまいますよ。それに・・・」
 奈月はそこまで言った後で、微細な咳払いをした。
「それに?」と僕は彼女の次なる言葉をせかした。
「それに、だまされてるのは東山君だけじゃなくて、麻理子さんも、それから私もなんだって言ったらしいんです」
 僕は「どういうことだ?」と聞いた。声が喉にぴったりと貼りついたようだった。
「これは、正直話しにくいことなんですが、でも、すでに時効がきてるので問題ないですよね」と奈月は前置きとも断りともとれる言葉を挟んでから、「麻理子さんが言うことには、先輩にはじつは他にも付き合ってる人がいるっていうことなんです。何でも、私たちよりもずっと年上で、ずいぶんとお金持ちの方で、しかもその人には夫も子供もいるって言うんです」と打ち明けた。
 その話を聞いた僕は、今度は空気の塊が胸を塞いだようだった。呼吸はたちまち苦しくなり、心拍が胸の皮膚を押し上げるのが感じ取られた。
「先輩、大丈夫ですか?」と奈月は言った。ついさっきまでの冷淡な彼女とはまるで別人の、思いやりのある奈月に戻っている。おそらく今なら1人で勝手に佐賀に帰るとは言わないだろう。だが僕にはそんな質問をするような心のゆとりなど、あるはずがなかった。
「もちろん、私は、そんなこと信じなかったです。でも、東山君にはリアルに聞こえたみたいで、彼は嘘だとは思えなかったんです。だから彼は、私が先輩と付き合っているっていうこともきっと嘘じゃないんだろうって捉えたんです」
 そう言われれば、旅行が終わってから、東山とはあまり話をしていないような気もする。

キラキラ 262

「それで、東山は、いったいどんなことを言ったんだろう?」
 僕がそう聞いた途端、奈月は声を噛み殺すようにむせび泣いた。境内を吹き抜ける風は僕の前髪を揺らし、同時に緑の鮮烈な香りを運んできた。これ以上奈月の話を待つのは酷かもしれないと思い始めたとき、彼女は鳴き声の中から、訥々と言葉を紡ぎ始めた。
「見えないところで、私と先輩は付き合っているって、麻理子さんは言ったらしいのです」
「それはまた、見え透いたでっちあげだな」と僕はすぐに返した。心の中は十分に落ち着いている。
「私たちは、もう、かなりの仲で、研究室の中でも皆から承認されていると」と奈月は続けた。僕は「それで、東山は、そのたわごとを信じたのかな?」と素朴な疑問を投げかけた。
「もちろん、信じなかったと思いますよ。ちょうどそれは、前回みんなでここに旅行した直後のことだったんで、旅行中、私と東山君は、ずっと一緒にいたじゃないですか。で、先輩の方は、ホテルに入った後はけっこう自由に動かれてたので、あやしいことはなにもなかったですよ」
「じゃあ、いいじゃないか、麻理子が何と言おうと、まともに相手にするまでもない」
 僕がそう言うと、奈月は声のトーンを落としてこう続けた。
「でも、麻理子さんはその後も、東山君に畳み掛けたんです。あることないことを、時にはものすごく切なそうな顔をして、彼に話したようなのです。2人で秘密のメールを交わしているとか、先輩が毎日つけている日記をこっそり読んでいるとか、私と先輩のツーショットの写真を見せたりしたんです」
「そんな写真あったかな?」
「私たちの写真、けっこうありますよ。しかも撮影したのは麻理子さんなんです」
 僕の心は依然として落ち着いている。麻理子の作り話に心を乱されることはなかった。だが、次の話を聞いた瞬間、僕の心は瞬く間に凍てついた。

キラキラ 261

「仕打ち?」と僕は言った。
「いくら私が麻理子さんから離れたところで、あの人は私の情報をちゃんとつかんでたんです。大学にいる間、私が先輩にくっついてることを知ってたんです」
 その情報を麻理子に流したのは、もしかしたら僕かもしれない。何も知らなかった僕は、何も考えずに奈月の話を麻理子にしたのだ、きっと。
「授業が終わって、私がバイトの準備をするためにアパートに帰った時、東山君が部屋にいたんです。彼は合いカギをもってたので、いつものことだったんですが、その日ばかりは何か様子がヘンだったんです。私が部屋に入ると、いつもなら東山君は私の方を向くんですけど、あの日はあぐらをかいたまま、ずっと窓の外を見てたんです。『ただいま』って言っても、彼は無視しました。それで私はものすごく嫌な予感がしたんです。
 結局、彼は何も言わないまま、私はお寿司屋さんのバイトに行って接客したんですが、心の中は嫌なことばかり考えてました。バイトが終わって部屋に帰った時、東山君は、夕方とまったく同じ格好で座っていました。私がどうしたのかと聞いても、何も応えないんです。私は予感が的中していたことを思い知らされて、泣きそうになりました。
 しばらくして、東山君が話し始めたのです。その日の昼に、たまたま麻理子さんと学食で出会って、一緒にお昼を取ることになったらしいんですが、その時に、麻理子さんは最近私の様子で変わったところはないかと聞いてきたようです。特にないと東山君が答えると、麻理子さんは、それはひどい話だ、東山君がかわいそうだって、言ってきたんだそうです。それから麻理子さんは、私への恨み辛みを語り出したということでした。東山君から聞かされたその内容は、ひどくデフォルメされたものでした」
 奈月はそう言い、ふたたび涙をすすり始めた。

キラキラ 260

 奈月はそう言い、空の低いところを見上げた。それにしても、夜は明けそうで明けない。夜も奈月の話に聞き入っているかのようだ。僕にとって、これまでで一番長い夜になるだろう。
「私は、なるべく麻理子さんに近づかないようにしました。麻理子さんの姿を見るだけで、怖くって、動悸がしたんです。それから、先輩ともなるべく距離を置こうって自分に言い聞かせました」
 奈月の話を聞きながら「俺って、本当に何も分かってなかったんだな」とつぶやいた。暗闇の中の奈月はこっちに視線を向けたが、僕の言葉に対しては何も返してはこなかった。
「でも、先輩と会わないっていうのは、すごく難しかったですよ。私の大学生活は先輩との接点だらけでしたからね。私はすごくつらかったんです。研究室の中にいながら、できるだけ先輩の方を見ないようにしても、かえって逆効果でした。何にも知らない先輩は、やさしく声をかけてくれたし。そのうち、私はあきらめました。先輩の方を見ないっていうのは無理だって。
 で、そうやって開き直ると、今度は麻理子さんのことを忘れ始めたんです。人間って、面白いですね。目の前にすごく嫌なこととすごく好きなことが2つある時、好きなことの方を考えてしまうんです。人間の頭って、同時に2つ以上のことを考えることができないって、その時知りました。これって、私だけですかね?」
 奈月はそう問いかけてきた。僕はそれについて少し考えてから、「いいや、奈月だけじゃないと思うよ」と答えた。つまり表現を変えると、「人間は目の前の欲望には勝てない」っていうことだと胸の内で言ったが、それは口に出さずにいた。
「そんなこんなで、私は麻理子さんから逃げることによって、普通の生活を取り戻すことができたんです。まあ、アパートに帰れば東山君もいたんで、いい気分転換にもなりましたし。でも、そんな私の生活が、根底からズタズタに切り裂かれる出来事が起こったんです。麻理子さんからの仕打ちでした」

キラキラ 259

 何も言葉が返せない。日常的に彼女たちと関わっておきながら、全く身に覚えのない話なのだ。
「あの時はまだ、麻理子さんがアメリカに渡るっていう話も出てなかったと思います。私の目には、先輩と麻理子さんは本当に仲が良く、理想的な2人として映っていました。それが、いつの間にか、麻理子さんは、陰で私にプレッシャーをかけてくるようになりました。たぶん、私が先輩に話しかけたり、いろんな相談をしたりすることが、麻理子さんにとって目障りなんだろうと気づきました」
「そんなことはないよ。俺と奈月は研究室もサークルも同じだったわけだし、話をするのは当たり前だ。おまけに後輩なんだから相談だってするよ。麻理子が奈月の文句を言ったことなんてもちろんない」
 僕がそう返すと、「ですから、麻理子さんは、そういう感情を表には出さない人だったんです。その意志ときたら、巌のように固いんです。私たちのレベルじゃないです」と奈月は口調を強めた。
「先輩はもう忘れたでしょうけど、『ジョルジュ・ムスタッシュ』に3人でお酒を飲みに行った時、私の前で、麻理子さんが先輩にキスをしたんです」
『ジョルジュ・ムスタッシュ』といえば、サークルの仲間がバイトをしていたショット・バーで、僕たちはよくそこに通ったものだ。3人で行ったことも何度かあるが、僕にはその時の記憶はない。というか、麻理子はアメリカンなところがあって、酔って人前でキスをすることなど珍しくはなかったのだ。
「そんな、ものすごいキスじゃなかったですけど、麻理子さんは私を横目で見ながら、先輩の耳元に口をつけたんです。あの時、私は、すごくショックだったんです。絶対に見たくないものを見てしまいました。おまけに、あの後麻理子さんは、私に向かっていろいろと話を振ってきました。私が、何も話したくはないことを知っておきながらです。あの日『ジョルジュ・ムスタッシュ』に行ったのは、麻理子さんが私にそんな思いをさせたかったからなんです。始まりの狼煙みたいなものだったんです。だって、あの頃から、私への仕打ちは、どんどんエスカレートしていったんですから」

手に汗握る瞬間

 世界卓球、ご覧になりましたか? 
 すごいゲームでしたね!
 3月まで卓球のコーチをしていたので、打法とか球の回転とか、そんなところについつい注目して観戦しましたが、最後はやはり、メンタルの部分で勝敗はつきましたね。

 4月から仕事が変わり、新たに大きなイベントの準備に携わるようになったのですが、この1ヶ月は本当に長く感じられました。車で長距離の移動が増え、これまで出会わなかったような人たちと一緒に仕事をするようにもなりました。
 車内の時間が増えるということは、必然的にラジオを聞くようになります。それにしても、ラジオって、いいですね。もちろん、いろんな分野の最新情報も入ってくるわけですが、やはり私は音楽が好きです。
 不思議なことに、自分のipodに入っている曲でも、ラジオで流れるととてもうれしい気分になります。普段は感じないのに、ラジオで聞くと、その曲の良さが引き立つように思うのは、なぜでしょう?

 運転しながら、ふと、その理由を考えてみました。
 まず、ラジオの曲って、自分の意志で止めたり早送りできないのがいいんですね。それは、決して戻ってはこない「今という時間」を感じさせてくれます。
 それから、自分と同じ曲を不特定多数の人々も聴いているという感覚もいいのでしょう。今流行の「共有」ってやつですね。
 つまり、ラジオの曲は、「2度とは戻らない今という時間を、今を生きる多くの人と共有することができる」というわけです。

 そう考えると、さっきの世界卓球のライブ中継も同じようなことがいえますね。遅くまでテレビの前で観戦された方も多いはずです。もちろん、私も、その中の1人でした(笑) みなさん、本当に楽しかったですね!

キラキラ 258

「俺たちは『宿世』で結ばれてここにいるんだろ?」と言うと、奈月は、ふっと、風のような笑い声を上げ、「やっぱり、先輩はやさしいですね」とささやいた。
「その先輩のやさしさがあったら、私はここまでこれたんです。先輩のやさしさを恨んだことも何度かあります。先輩がもっと私につらく当たっていれば、こんなにも悩むことはなかったかもしれないって思ったんです。でも、そうなったらきっと、別の意味でもっとつらくなっただろうし、やさしくない先輩なんてありえないです。だから、結局は『宿世』だと前向きに受け入れるしかないんです」と奈月は言い「まあ、それが『前向き』なのか『後ろ向き』なのかは、分かりませんけどね」と付け足した。
「前向きだと捉える方が、奈月らしいよ」という僕の言葉に、奈月は何も応えなかった。彼女はただ、榊の葉に置いていた手を頬にあてがい、涙を拭いた。
「麻理子さんは、最初から気づいていたのかもしれません」
 奈月はそう言い、涙をすすった。
「でもあの人は、私よりもずっと大人だから、決して表には出さなかったです。そのへんは、本当にすごいと思います。麻理子さんは私のことが大嫌いだったのに、先輩といる時には微塵も感じさせなかった。いや、私でさえも、2年くらいは全く気づかなかったほどです。私は、麻理子さんのことを、実の姉以上に、姉として慕っていたんですから」
 学生時代の記憶が徐々に頭の内側に広がってゆく。
「だから初めて麻理子さんにつらく当たられた時、ショックと言うよりは、ギャグかと思ったほどです。でも麻理子さんの目は、それまで見たことのないくらいに本気で、迫力があって、まるで底なし沼のように恐ろしかった。その時私は、ああ、やってしまった、って本能で悟りました。何がいけなかったのかは分からなかったです。ただ、私が何やら大きなミスをやらかしてしまったことだけは確かなようでした」
作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
旅に出ましょう
それも
とびっきり寂しい旅に・・・

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