スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

キラキラ 301

 昨日、須磨で奈月から聞いたばかりの『源氏物語』の場面が、まるで実際に体験したことのように鮮明に浮かび上がる。この世のものとは思えぬほどの光景だ。雷鳴が轟き、大荒れの海からは海竜王が現れた。海神として伝えられる住吉の神の化身だ。何が何やら分からない光源氏は、這々の体で自分の屋敷に避難する。だが雷光は連日連夜、空を切り裂くばかりで、ついには屋敷に落ちる。源氏の枕元には尊敬する桐壺院が現れ、須磨にとどまっていてはならないというメッセージを告げる。
 その亡き父の示唆に従って須磨の浜へ出たところに、明石の入道が船で現れる。入道もまた、住吉の神の導きによってここにたどり着いたという。かくして光源氏は、明石の君と出会う。まさに神がかり的な「縁」の仕業だった。
 だが奈月は「縁」という言葉を好まなかった。彼女の人生において、縁に見放されてしまったと実感しているからかもしれないし、もしかすると、明石の君の登場と引き替えに、六条御息所が物語から退出され、やがては死へと追い込まれたということがあるのかもしれない。東山がこよなく愛した六条御息所という女性を、奈月もことのほか身近に感じている。
 絶頂を終えた僕は、奈月を後ろから抱きながら、そんなことを考えた。散り散りに砕け散った単色の世界は、すでに僕の前から消え去り、目の前には、さっきまでの野宮の光景が、何事もなかったかのように広がっている。
 僕に抱かれたまま、奈月は空を見上げた。僕も彼女に倣って同じ方向を見ると、いつの間にか、東の空が明るくなっている。奈月はまぶしそうな目をした。
 それから彼女はそっと僕の腕から離れ、建物に近い榊の木まで歩き、黙々と服を身につけはじめた。さっき奈月が折った榊の枝が、地面に落ちている。その葉は思った以上に濃い緑をしている。空が明るくなったことによって、すべてのものに色彩が与えられてゆくようだ。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
旅に出ましょう
それも
とびっきり寂しい旅に・・・

最新の文章
リンク
みなさまの声
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
目次
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。