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キラキラ 303

「先輩」と奈月は言った。かすれた声だった。僕は思わず彼女の肩を抱いた。つい今まで裸のまま抱き合っていた時とは別人のような、華奢な肩だった。
「最後に、もう1回だけ、キスしてもらえませんか?」
 奈月は僕の顔を見上げて、わざわざそう頼んできた。
「最後?」とだけ、僕は問い返した。奈月はそれに対しては何も答えぬまま、強引にキスをしてきた。
 彼女の唇の熱を確かめながら、もはや僕たちは、学生時代の間柄ではなくなっていることを真に実感した。
 唇を話した時、奈月はうつむいて下唇を噛んだ。彼女が何を考えているのか、自分のことのように分かる。心がひとつになったような感覚は依然として心の中にある。
 それで僕は「最後なんかじゃないよ、また会おう」と自分の問いかけに自分で答えた。それから「新幹線の便をもう少し遅らせることはできないの?」と再度聞いた。奈月は何も答えないだろうと思ったところに、意外にも彼女は口を開いた。
「用事があるんです。それに、これ以上先輩と想い出を作ると、寂しさが増すばかりです」
 僕は何も返せなかった。僕の方も、昨日までの僕ではなくなっている。このまま奈月を連れて東京に戻ることができればどれほどいいだろうと思い始めている。だがそれを実行に移すには障害が多すぎる。なにしろ彼女はもうじき結婚を控える身なのだ。地元の市役所で働く誠実な婚約者が奈月を待っている。奈月のことだ。きっと心から可愛がられていることだろう。しかも、奈月の結婚を誰よりも喜んでいるのは、彼女の両親だ。一家の主の重病を乗り越えて、やっとのことでたどり着いた幸せの構図を僕が壊すことなどできない。
 奈月はすっと顔を上げて、杉の木立の間に顔をのぞかせている空を見上げた。その疲れの見える横顔は、「虫が鳴いていますね」と言った。それから奈月は風と対話するかのように、こう続けた。
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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