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キラキラ 305

「光源氏が感じたことなんて、俺には分からない」と返した時、今度は自動車の音が早朝の空気を震わせた。ふと奈月を見ると、涙を流している。僕は思わず彼女を抱きしめた。
「つらいです」と彼女は声を震わせた。
「だから、もう少し一緒にいよう」と僕は提案したが、彼女は何も答えぬまま、やつれた肩を僕の腕の中で震わせるばかりだった。
「生きることって、こんなにつらいんですか?」と奈月は、僕の胸の中で声を大きくした。僕は「そんなことはない。きっといいこともあるはずだ」と答えた。ほとんど必死だった。
「だから、もう少し一緒にいよう。今すぐ帰ることはないよ」
 僕がそう言っても、奈月はむせび泣くだけだ。それはいかにも哀しそうな泣き声だった。これまで聞いたことのないくらいに。
 それからしばらく僕たちは抱き合った。そうするより他になかった。だが、さっきまで1つに溶け合っていたはずの僕と奈月の心は、ほんの少しだけズレが生じたような感覚があった。それで僕はより強く彼女を抱きしめた。奈月も、おそらくは僕とは違う思いを秘めながら、強く抱き返してきた。
 なんとかして、心のズレを埋めたかった。だが、最初はほんの小さな差だったのが、時間の経過とともに徐々に大きくなってゆくのを感じざるをえなかった。つまりは、奈月に、自分に対して素直になってほしかった。だがそれを直接口に出すことがどうしてもできない。
 そのうち、彼女を抱けば抱くほど、むなしさがしみわたりはじめた。今僕が抱きしめているのは奈月じゃなく、ほんとうは何かの抜け殻のような気がしてきた。あまり強く抱きしめると、壊れてしまうのではないかと思ったとき、境内に竹箒の音が聞こえた。見ると、白い装束を着た神官が境内を掃きはじめている。
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Author:スリーアローズ
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