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キラキラ 308

 僕も足を止めた。疲れの色にまみれている奈月は、それでも瞳だけは黒々としている。
 どうした? と僕が話しかけるより前に、彼女は瞳を閉じて、キスをせがんできた。僕は彼女の乾いた唇に、自分の唇を押しつけた。もはや、危ない、という声すら聞こえない。
 ただその瞬間、これからも奈月と一緒に歩くことができるという思いが、ぐらぐらと傾いた。キスをしながら僕はそんな不安を覚えていた。いや、絶望感と言った方がいいのかもしれなかった。
 ただ、それにしても、さっきまでとは違い、静かな、そして、自然なキスだった。僕たちは、もう、大学時代までの関係ではない。次第に強さを増す陽光が、じりじりと竹林に照りつける香りがほのかに立ちめるのを感じた。
 ホテルに戻ってきた時には、背中は汗でぐっしょり濡れていた。部屋に入ってもう少しゆっくりしていこうと強く提案したものの、奈月は黙って笑いながら首を振るばかりだった。
 僕たちは、タクシーを使って京都駅に戻ることにした。
「楽しかった」と窓の外を見ながら奈月はつぶやいた。まだ朝が早いために、嵐山の町には人通りはない。陽光だけが、存分に降り注いでいる。
 気安く言葉をかけることができないくらいに、奈月の横顔は物憂げだ。昨日よりも首筋が細く見える。この旅をするうちに、奈月はぐっと年齢を重ねたように映る。
 いや、昨日までの奈月とは、別人になったのかもしれないとさえ思う。奈月の抜け殻に、誰かの魂が宿っているのではないだろうか? そう疑った途端、陽光が顔面に照りつけ、すべてをくらました。
「そんなに急いで帰る必要はない」と僕は、目を細めながら、さっきから何度も言っていることを改めて口にした。だが奈月は、その言葉には何ら反応せず、ただ、乾いた笑顔を窓の外に投げかけるだけだった。奈月との距離は触れることができるほどに近いのに、とてつもなく遠く感じられた。
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Author:スリーアローズ
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