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キラキラ 309

 その時、奈月は、ふと思い出したかのように、自分の白いトートバッグの中に手を入れた。彼女の細い手がいったい何を取り出すのだろうかと注視していると、出てきたのは、東山が作った旅行のしおりだった。それは、驚くほどにくたびれて、しわくちゃになってしまっていた。
「昨日はまだ新しい感じだったけどな」としおりを見ながら率直なところを述べると、奈月は「そうでしたかね」と、どこかとぼけたかのように返しつつ、まるで、自分で焼いた器でも眺めるかのような、いとおしげな視線をしおりに向けた。
「この旅で、何度も引っ張り出して読んだからな」と僕は言いながらも、たった1日でこんなにも古めかしくなるものだろうかと不思議に思いもした。
「これまで、つらいこととか、独りぼっちになった時には、このしおりを見て、いろんなことを思い出して、それで何とか頑張ってきたんです」と奈月はしみじみと回想した。「教員試験にチャレンジしている時も、これを見ると、やる気が出てきたものです。旅行に行ったみんなも頑張ってるんだから、私だけ弱音を吐くわけにはいかないって」
「奈月は、十分頑張ってきたよ」
 そう言った直後に、この旅の中で奈月が話してくれたことが思い出された。東山のこと、麻理子とのこと、お父さんの病気、それから、僕のこと。彼女はこれまで必死で生きてきた。弱音など吐かずに。
 だが奈月は僕からのねぎらいに応えることなく、やはり薄く笑いながら、しおりに目を落としている。
 すると、タクシーは車折神社の前で止まった。そういえば、ここは昨日バスで来る時に、工事中だった地点だ。今はまだ朝が早いということで、簡易式の信号機が建てられているだけだ。赤信号の下には待ち時間がデジタル表示されている。そこには赤い文字で「1:39」とあり、そこから1秒ずつ減っている。
「このしおりは、私が私らしくあるための、よりどころみたいなものでした」と奈月はつぶやいた。
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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