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キラキラ 311

 奈月は、薄っぺらなシートに深くもたれながら、車内の空間上における任意の1点のみをぼんやりと見つめている。そこに舞う微細な埃でも追いかけるように。
 僕も奈月に倣ってシートに深く腰かけると、この旅におけるさまざまな場面が、次々と浮かび上がってくる。僕は思わず、昨日奈月がくれたうちわに描かれたバルーンを連想した。色とりどりの熱気球が空に向かって次々と舞い上がってゆくように、昨日からの風景が思い浮かぶ。須磨、明石、そして京都。思えばずいぶんと長い旅だったように感じられる。
 それで僕は、足下のリュックからうちわを取り出そうとした。ところが、いくら探しても見つからない。ひょっとして、ホテルの部屋に忘れてしまったのかもしれない。
「奈月は、昨日、旅が始まったら寂しくなるって言ってたな」
 部屋に置き去りになったうちわがどんどん遠ざかってゆくように感じながら、僕はそう言った。あれを見つけた清掃係はどう思うだろう。何も考えずに無造作にゴミ袋に放り込むかもしれない。そう考えると、寂しいのは、僕の方かもしれなかった。
 すると奈月は、「始まりは、終わりでもありますからね」と抑揚なく返してきた。その後で、「完全に終わってしまったら、楽になるんですかね。諦めがついて、想い出に変わるんでしょうかね」と僕が昨日奈月に向けて話した経験則を、ここで僕に投げかけてきた。
「すべては、想い出に変わるんです。そうして、哀しみとか喜びとか、そんな心をかき乱すような感情が取れて、自然な落ち着いた気持ちになれるんです。でも、そこまでいくには、時間がかかる」
 奈月は自問自答するかのようにそうつぶやいた。「奈月」と僕はまた、次に言うべき言葉を持たぬまま彼女の名前を呼んだ。だが彼女は、そんな僕の声さえ聞こえないかのように、「でも、一生かけても想い出として、心に落ち着かないこともあるかもしれません」とつぶやいた。僕は、さらに寂しくなった。
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
旅に出ましょう
それも
とびっきり寂しい旅に・・・

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