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キラキラ 313

 すでにくたびれていたしおりは、さらに奈月の手によって、何の主体性も持たない雑巾のようになってしまった。東山がパソコンで作成した「『源氏物語』を巡る旅」という元気のいいゴシックの文字が無残にもゆがんでいる。それから、かなりの時間と労力をかけて制作したと見られる多くのページも無造作にめくれあがった。そういえば、奈月も制作を手伝ったということだった。
 危険な恋に落ちてしまい都にいることができなくなってしまった光源氏は、自ら須磨へと下った。そこは古くから、貴族たちにとっての流離の地だった。哀感を背負う海女たちが、海藻を浜辺に打ち上げ、焼き塩を作る。塩水が垂れ、投げ木がされた火はめらめらと燃え上がる。それが須磨の風景だ。
 だが、須磨を越えたところにある明石には、そのような哀情は感じられない。日差しが燦々と照りつけ、街は賑わっている。光源氏は、明石の君という女性と出会い、再び都へと戻る運気と活力を得ることができた。
 その一方で、流離によって、妻である紫の上は都で1人待ち続け、そして六条御息所は物語から退出させられることにもなった。新たな出会いは、古いものとの別れを必然的にもたらした。消滅と再生。東山はそんなことをこのしおりの中に書いていた。
 僕と奈月は、このしおりを頼りに、須磨と明石を歩いた。『源氏物語』の旋律に乗って、僕たちは2人だけの旅を続けた。
「なにも、捨てなくてもいい。もしよかったら、僕がもらっとくよ」と僕はしおりを見ながら言った。だが彼女は、「京都駅に、捨てて帰ります」と言い、それを白いトートバッグに収めた。
 奈月は目を閉じたたまま薄く微笑んでいる。
 それから僕たちには、沈黙が訪れた。タクシーは信号での停車と発車を繰り返しながらも、徐々に京都駅に近づいている。遠くを見ると、左手には、陽光を受けた京都タワーの先端が、ちらほらと見え隠れしている。
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Author:スリーアローズ
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