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キラキラ 314

 まもなく、窓の外には、朝日をたっぷりと浴びた西本願寺が現れた。絢爛豪華な造りの唐門の近くには、この時間にもかかわらず人の姿が見られる。本堂を見上げると、太陽を反射した屋根瓦が黒い鱗のように輝いている。伽藍全体が、まるで黒くて大きな蛇のような印象を与える。そういえば、昨日ここを通るバスの中で、東山が「京都には迫力がある」と言っていたという話を奈月の口から聞いた。
 あれから半日しか経っていないということが嘘のようだ。それから、隣に腰を埋めているこの女性と、もうすぐ会えなくなってしまうということも、信じられない。
 だが、タイムリミットは刻一刻と近づいている。奈月は本願寺とは反対の風景を眺めている。そこには古くからの商店街があるが、人通りはない。彼女の首筋は、か弱くやつれている。僕は今すぐにでも、彼女を抱きしめたいという衝動に駆られる。せめて、その手に触れたいと思う。だが、どうしてもできない。少し手を伸ばせば届くのに、まるで魔法にかけられたかのように、手が動かない。
 それで、しかたなく、僕はただ彼女の横顔を見た。振り向いて話しかけてくれるのを待ったのだ。だが、奈月の顔も動かない。
 左前方に見えていた京都タワーが、いつの間にか大きくなってきているのに気づいた時、奈月は再び手をトートバッグの中に伸ばした。そうして取り出したのは、ついさっきしわくちゃにしたしおりだった。彼女はしおりに対して申し訳なさそうな顔をして、それを手で優しく伸ばしはじめた。
「何も、捨てることはない」と僕は言った。
 すると奈月は、「これを持って帰るわけにはいかないです」と返した。「今捨てとかないと、一生捨てることができなくなります。それに、佐賀に帰って捨てるんじゃなくて、京都に捨てて帰りたいです」と奈月は続けた。
「奈月」と僕は呼びかけた。今度ばかりは、明確に伝えるべきことがあった。
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Author:スリーアローズ
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