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キラキラ 315

 彼女は、しおりを伸ばす手をふと止めて、横目でこちらを見た。僕は「もう少し、京都にいよう。まだ話したいことがあるんだ」と心の底から頼んだ。
 その時、ルームミラーに映るタクシーの運転手の目が、一瞬僕の方を見た。だが彼はすぐに視線をフロントガラスの方に戻した。
「野宮に行って、新しい想い出ができて、それで、いろんなことを考えたんだ」
 僕がそう言うと、奈月は「新しい想い出?」と小さく語尾を上げた。
 野宮での奈月のぬくもりが染みついている。もはや奈月は、昨日までの奈月ではなくなっている。このまま別れるなんて、麻酔なしで身を切り刻むのと同じようなことだ。
「これまで気づかなかったことに、たくさん気づいたんだ」と僕は婉曲的に続けた。運転手には僕の言葉が聞こえているに違いない。でも、もうそれはどうでもいいことだ。
「野宮に行って、良かったですか?」と奈月は聞いてきた。僕には、良かったのか、悪かったのか、その判別がすぐにはつかないところがある。それでも、「もちろんだ」と力強く答えた。
「野宮で先輩が質問したことに対して、答えになっていましたかね?」
「質問?」と思わず返した。僕はすぐに、野宮で奈月に投げた2つの質問のことを思い出した。奈月は野宮で僕に何を伝えようとしたのか、それから、どうして奈月は六条御息所の言葉を、あたかも自分の言葉のように語ることができたのか。
「少しでも分かってもらえましたか?」と奈月は再度聞いてきたが、僕にはまだ、分からない部分もある。
 すると奈月は、僕の心に寄り添うように、「たとえば、私が六条御息所の言葉を話した理由なんて、分かるはずもないですよね。だって、正直なところ、私にもうまく言えないんですから。私、思うんですけど、ほんとうに大事なことって、言葉では説明できないんですよ」と言ってきた。
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Author:スリーアローズ
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