スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

キラキラ 317

 タクシーは「七条堀川」と記してある交差点の赤信号で止まった。ここからは京都タワーの姿はうかがえない。目の前にある銀行のビルに隠れている。つまり、それほど京都駅に近い所にまで来たわけだ。
 エンジン音は老犬のうなり声のように車内にこもる。運転手は左手で冷房の温度を下げた。
 奈月は「やっぱり、嘘っぽいですね」と自己評価した。僕が彼女の方を見ると、彼女も僕の方を見た。無表情に近い顔だった。おそらく僕も同じような顔をしているだろう。
「本当に大切なことは、言葉では説明できないんです」と奈月はさっき言ったことを反復した。
「でも、言葉は、れっきとした力をもつこともある。でなければ、俺たちはあの大学のあの研究室には入っていないよ」と言った時、本の匂いのする、狭苦しい研究室が思い出された。そこにはジーンズにパーカを着た奈月がシャープペンシル片手に調べ物をしている。
「たしかに、そうですね」と奈月は苦笑いを浮かべた。「言葉の力を否定してしまったら、それは生きることを否定するのと同じことだって、先生はよくそんなことを言っていましたね」
「じつに風変わりな教授だったけどね」
 僕がそう言うと、奈月は目を細めて空間を眺めた。まるでそこに教授の姿が浮かんでいるようだ。その時、運転手がギアを入れて、タクシーは再び動き始めた。奈月は肩の力をふっと抜いて、こう言った。
「とにかく、言葉にするとすべてが嘘っぽくなることがあります。そして今、私が言った先輩への思いも、きっとそのパターンなんです」
 大丈夫だよ、奈月の思いはちゃんと伝わってるから、と僕は返そうとした。だが、その言葉を口から出す直前になって、どうもその言葉も、なんだか薄っぺらいもののような気がしてきた。少なくとも、今の奈月には届かないように思えた。それでも、ただ黙っているよりはましだろうと考えて、つばを飲み込んだ瞬間、奈月の方から、そっと僕の手を握ってきた。
 とても温かい手だった。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
旅に出ましょう
それも
とびっきり寂しい旅に・・・

最新の文章
リンク
みなさまの声
カレンダー
10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
目次
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。