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キラキラ 319

 これまで彼女が1人で抱え込んでいた苦悩の数々が、すべて溶け合い、1つの混沌となって、僕の手の中に染み込んでくるようだった。
 僕の心の中で「ごめんね」という言葉が漏れたのが聞こえた。その時、顔を上げたままの奈月が静かに微笑んだような気がした。
「お父さんの病気や東山との別れよりも他にも苦悩があっただなんて、俺には気づかなかったよ」と僕は心の中で弁明した。それは、弁明と言うよりは、紛れもない本音だった。今でも思う。僕はどこまでもマイペースで、鈍感な男なのだ。
「じつは、ちょうどその頃、俺にも苦悩があったんだ」と僕は、奈月の手を撫でながら、心の中でそう続けた。「あの時俺は危険な恋に落ちていた。もちろん、危険だということは百も承知だった。でも、時間が経つにつれて、危険であることが当たり前のことのようになってしまって、そうなってからは、転がるように墜ちていってしまった。その女性には、地位もお金もある夫がいて、優秀な一人息子もいた。にもかかわらず、そのことすら見えなくなってしまうほど、激しい恋だったんだ。恋をするということは、素敵なことだ。だから、その時の俺には、大きな充足感はあった。でも、今思えば、俺は決して幸せじゃなかった。だって、その人との記憶にはすべて影のベールがかかっているんだ。その人と過ごした時間はまぶしいくらいに甘かった。でも、そこにはすべて暗さがつきまとっている。でも、その時には、まぶしさに目が眩むあまり、暗さには気づかなかった。だから、なぜ俺は、恋をしながらもこんなに苦しいのか、その理由が分からなかったんだ。苦悩の理由が分からない苦悩。奈月が1人で苦しんでいた時、じつはそんな目に見えない壁に直面していたんだ。そのことは、奈月には、これからも秘密にしておく。なぜなら、麻理子にはすべてお見通しだったからだ」
 そんなことを心でつぶやきながら、つくづく自分はマイペースな男だと思い知った。
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Author:スリーアローズ
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