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キラキラ 320

 それでも奈月は、僕の手を握り続けてくれている。思いやりに欠けた僕の手をだ。
 僕に染みついたけがれを打ち明けないと済まないような気持ちが、瞬間湯沸かし器のように一気にこみ上げてくる。奈月は僕のことを思ってくれていたというが、じつはそれに値する男なんかじゃないんだときちんと教えてやらないと、彼女のやさしさに傷がつくように思えた。
 すると奈月は、手を握ったまま「先輩」と声を出した。僕は、心につっかかりを残しながら、奈月のやつれた横顔を見た。
「これまで、ほんとうにありがとうございました」
 奈月は突然そう言い、前を向いたまま静かに目を閉じた。その言葉は、寂しかった。僕は喉の奥がたちまち石になってしまったかのような錯覚を感じた。
「ほんとうに、ほんとうに、ありがとうございました」と奈月は続けた。
「どうしたんだ、そんな、他人行儀な」と僕は返した。マイペースな人間がいよいよ窮地に立たされた、そんな軋むような声だった。
 奈月は、瞳を閉じたまま、ゆっくりと首を振った。そうして、唇をわなわなと震わせながら、何かを言おうとした。僕は彼女の唇の隙間からいったいどんな言葉が出てくるのか、固唾を飲んで見守った。
 だが彼女は、結局、何も言わずじまいだった。出てくるべき言葉を飲み込んでしまったのだ。
 僕は、彼女の手を握る力を強くした。すると奈月の方もたしかに握り返してきた。しかし、その力はある所をピークに、それからは、ゆっくり、ゆっくりと、弱くなってゆき、やがて、命を終える瞬間のように、完全に抜けてしまった。そうして最後は、もつれた糸を丁寧にほどくかのように、奈月は指を離した。
 空っぽになった僕の手の中には、奈月のぬくもりの余韻だけが残った。
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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