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キラキラ 321

 その時、窓の外には、朝日をふんだんに浴びた京都駅が現れた。駅舎は巨大なミラーボールのように、降り注ぐ朝の光をあらゆる方向にまき散らしている。
「まぶしいですね」と奈月はぽつりとこぼした。
 僕は反射的に、駅の向かいに立つ京都タワーを見上げた。嵐山の工事現場を過ぎた時には先端がかすかに垣間見られるだけだった古くからの京都のシンボルが、いつの間にか、目の前にそびえている。これまで何度か見上げてきた中で、最もまぶしく、そして最も哀しい京都タワーだ。
 タクシーは駅前の赤信号で停車した。運転手がハンドブレーキのレバーを引き上げた後、僕はもう一度奈月の手を握ろうとした。だが、僕が手に力を入れると同時に、奈月は右手をふっと移動させ、忘れたように膝元に置き去りになっていた旅のしおりを手にした。
「捨てるなんて、言わないでくれよ」と僕はしおりを見ながら訴えた。だが彼女は薄ら笑いを浮かべて、首を振るばかりだった。笑顔なのに、今にも泣き出しそうでもある。
「寂しいよ」と僕は、心の真ん中にある言葉をそのまま口にした。
 すると奈月は、窓の外を見ながら、「私だって、寂しいです」と応えた。
「だったら、そんなに急いで帰らなくてもいいじゃないか」
 僕がそう言った時、タクシーは動きだした。そうして、運転手は、素早くウインカーを点滅させた。そのカッチ、カッチ、カッチという無機質な音が、さらに無情の念を駆り立てた。
 奈月はしわくちゃになったしおりを右手に持ちつつ、京都駅の駅舎をまぶしそうに見上げている。その黒い瞳には陽光がちらついている。瞳に映る光は、彼女の過去であり、それから未来でもあるように思われた。もし彼女の未来の光の中に、僕が2度と登場しないのであれば、こんなにも哀しいことはない。生まれて初めて、胸が塞がりそうなほどの苦しさを感じた。
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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それも
とびっきり寂しい旅に・・・

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