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キラキラ 322

 駅前のターミナルに降り立ち、ドアを閉めた直後、タクシーはまるで海にリリースされた魚のように、何の未練もなく、瞬く間に走り去っていった。後には、不機嫌そうな排気音の残響と、ディーゼルエンジンの鼻をさすような匂いだけが残った。ターミナルにはバスはまだ入っておらず、アスファルトから立ちのぼる熱気が、そろそろゆらめきはじめている。
 まだ朝が早いが、京都駅にはすでに人の姿が多く見られる。とりわけ白いシャツを着たサラリーマンたちの姿が目立つ。と言っても、昨日ここに着いた時と比べると、往来はまばらだ。おびただしい人々が、砂嵐のように入り乱れる光景が昨日はあった。夜明け前の野宮では、昨日からの時間が1年にも感じられたが、こうして京都駅に来た途端、やはりあっという間だったようにも思えてくる。
 僕と奈月は、とりあえず、新幹線のホームに向かって歩いた。彼女のスーツケースのホイールがガラガラと音を立てる。昨日、西明石駅で再会を果たした時に聞いた音と同じはずなのに、今の僕の耳には未練がましく鳴り響く。
 やがて僕たちは地下通路へと入り、京都駅の南口へと進んだ。すると奈月が「先輩」と声をかけてきた。地下通路は全体的に薄暗くてがらんとしている。声は天井に当たって跳ね返ってきた。
「どうした?」と僕が返すと、彼女は「もう、ここでいいです」と言ってきた。
「何を言ってるんだよ、最後までちゃんと見送るよ」と僕は咄嗟に答えた。そう言った後で、見送ることを容認したような気がしてきて、「というより、ほんとうに帰っちゃうのか?」と聞いた。
 すると奈月は前を向いて歩いたまま「私は帰ります」と答えた。
「ちょっと、待ってくれないか」と僕はさっきから何度も言っていることをまた言った。このまま別れてしまえば、後になって大きな後悔だけが残るのは目に見えている。
 だが奈月は、スーツケースをがらがらと転がすだけで、振り向きすらしない。
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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