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キラキラ 327

 奈月はけだるそうにきびすを返し、そのままゆっくりと「みどりの窓口」へと入っていった。スーツケースのキャスターの音が、飼い主に忠実な犬の足音のように彼女について行った。
 カウンターに立って切符を買う奈月の後ろ姿を、僕はなすすべもなく眺めた。白いワンピースに後ろで結んだ髪の毛。昨日は弾むような明るさがあったが、疲れのある今は、むしろしっとりとした大人の女性の雰囲気を身にまとっている。この1日で、僕も奈月も、何か1つの階段を上ってしまったような感覚がある。そうしてその階段は、もう2度と降りてゆくことができない・・・
 再び奈月が戻ってきた時、その表情はさらにやつれているように見えた。だが僕にとっては、それがせめてのもの救いでもあった。
 そんな奈月の顔をぼんやりと眺めていると、彼女は「ありがとうございました」とまた言ってきた。僕はそれに対して何も返さなかった。
 その時、僕は奈月と同じ新幹線に乗ってしまおうかと考えていたのだ。今日まで休暇を取っているので、スケジュール的には全く問題ない。佐賀に着くまで、奈月と話がしたい。そうして、これからも、もちろん、彼女は結婚するわけだから、これまで通りとはいかないまでも、それでも、気安く連絡が取り合えるような関係でいられるところまでもっていきたかった。
 光源氏と六条御息所は、野宮で再会を果たし契りを交わしあったからこそ、須磨と伊勢に離ればなれになっても文通をする間柄でいられた。
 もしこのまま奈月と別れてしまえば、僕たちは2度と連絡を交わすことがないように思える。少なくとも、彼女の方から電話をかけてきたりメールが送られたりすることは、ないだろう。
 だからこそ僕は、新幹線のチケットを買うかどうか、本気で悩んでいた。胸が詰まるような息苦しさから解放されるために残された道は、それしかなかったのだ。
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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