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キラキラ 328

 奈月は今手に入れたばかりの新幹線の切符をいったん白いトートバッグの内ポケットに収め、それから、黒い瞳を僕に向けた。
「奈月」と僕は彼女の名前を呼んだ。すると彼女は、僕が次の言葉を発するのを塞ぐかのように、すっと右手を差し出してきた。若竹のような彼女の白い手が僕の目の前にある。
「先輩」と奈月は言ってきた。それは懐かしい響きだった。大学生の頃から何百回も何千回も聞いてきた、奈月の声だった。
 僕は差し出した彼女の右手を、迷わず自分の右手で包んだ。すると彼女の5本の指は、僕の指の間にするりと入り込み、しっかりと握られた。奈月はもう1度、今度はさっきよりも力が抜けたような声で「先輩」と語尾を上げた。彼女の疲れ果てた顔は、少しずつほころびていった。まるで朝顔の花が朝日を受けて開いてゆくかのようだった。
「先輩、ほんとうに、ありがとうございました」
 奈月はくっきりとした笑みを浮かべた。その後で、左の目から朝露のような涙が1つ、こぼれ落ちて頬を伝った。僕の手を握る彼女の手は、ぬくもりにあふれている。さっきタクシーの中で手をつないだ時よりも、熱い。
 つい今まで一緒の新幹線に乗ることを考えていた僕だったが、その考えをそれ以上先に進めることはできないと思った。奈月にまじないをかけられて、心が石化してしまったかのようだ。
 気がつけば、涙は両方の目からこぼれ落ちている。窓から差し込む朝日が、涙をより光らせている。僕が強く手を握ると、彼女は反対に力をしだいに弱めた。
 
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Author:スリーアローズ
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