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キラキラ 329

 次の瞬間、彼女はゆっくりと手を離し、その後少し間を置いてから、改札口に向かってとぼとぼと歩き始めた。顔だけは半分僕の方に向けている。スーツケースのキャスターが、再び音を立てだした。
 僕は依然として石化したままだ。それでも、「せめて、ホームまで一緒に上がるよ」と、何とか口だけ動かした。だが奈月は、伏し目がちに首を振った。
 それから彼女は「来ちゃだめです」と断り、「きりがないですから」と声を弱くした。
 僕は、口すらも動かせなくなった。心の中で「あぁ、後になって間違いなく大きな心残りになるだろう」という声が響いた。それは、紛れもなく僕の声だった。ところが、まるで何かのアナウンスのように僕の中を通過しただけだった。僕は当事者のはずなのに、傍観者でもあった。
 すると奈月は、改札口と僕との真ん中あたりで足を止め、トートバッグにしまったばかりの新幹線の切符を取り出した。そしてもう1度、バッグの中に手を入れた。出てきたのは、東山が作ったしおりだった。
 奈月はしおりに向かって、今度は哀しそうな眼を向けた。この旅の中で何度も奈月の哀しそうな顔を見てきたが、その中でも最も哀しみが深いように感じられた。
「ホームのゴミ箱に捨てて帰りましょう」
 奈月はしおりを眺めたままそうつぶやいた。すると、その横顔に、涙が1つ、線を引いた。そのまま奈月は僕の顔を正視し、「では、さようなら」と言った。
 僕の中で、巨大ながけ崩れが起こった。だが痛みはない。体全体を震わせるほどの轟音が鳴り響いただけだった。さようなら、とは言ったものの、奈月は僕の方を見ている。手にはしおりを握ったままだ。
 その時、新幹線の発車を予告する電子音が流れ始めた。奈月はスピーカーの組み込まれた天井に、ちらりと目を遣った。
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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