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キラキラ 336

 幸恵は、想い出の詰まった赤いBMWで、彼女の家へと帰って行った。僕が車の外に出て、ドアを閉めた後、運転席の窓を下ろして「じゃあ、またね」と微笑んだ。頬まで隠れるほどの大きなサングラスに夕焼けのオレンジが映り込んでいた。それは僕たちにとっては、いつもの、ありふれた光景だった。平安時代の別れの時間は朝だったと東山のしおりにたくさん記してあったが、僕と幸恵の別れは、いつも夕暮れ時だった。
 この日も、特にいざこざがあったわけでもなく、いつも通りのドライブをして、いつも通りの場所でセックスをした後だった。だが、それでも僕は別れの気配を感じていた。つまりは、僕たちは一種のプラトーにあったのだと思う。そうして、それは、どこまでいっても進展も減衰もないプラトーだということに僕たちは気づいていたのだ。
 幸恵のBMWは、カーブを曲がる直前にハザードランプを点滅させた。そうして、それが、僕の直感の通り、幸恵との最後となった。「じゃあ、またね」という幸恵の言葉が、僕たちの最後になった。
 ゆっくりとエスカレーターで上昇している奈月は、麻理子と幸恵の最後の姿とオーバーラップして見えた。彼女たちとの恋が幸せだったとは決して言えないが、振り返れば、別れの瞬間だけは親和的な空気があった。「終わりよければすべてよし」などという大ざっぱな言葉を安易に引き合いに出したくはないが、ただ、そう言われてみると、最後の場面が悲劇的ではなかったということは、わずかな救いになっているようにも思う。
 そんなことを考えているわずかの間に、エスカレーターは、いよいよ終盤にさしかかった。もうすぐ奈月の白いワンピースが見えなくなる。僕は少し前に出て、彼女を下からのぞき込むようにした。あとはとにかく信じるばかりだった。
 心の中で「奈月」と叫んだ時、今まで静かに背筋を伸ばしていた彼女に何らかの変化が起こったように見えた。
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Author:スリーアローズ
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