スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

キラキラ 338

 喜びで胸が重くなっている。初めて恋に落ちた女の子と初めて2人きりになる時のような、瑞々しい興奮を含む、そんな重さだ。 
 奈月はその黒々とした瞳をまっすぐに僕に向けている。距離を置いても、彼女の瞳の黒さは伝わってくる。大学時代から、奈月の瞳は黒く光っていた。僕は改めて、彼女の瞳を直視した。すると、何やら違和感を覚えはじめた。遠くから僕を見る瞳の黒さは、僕が知っている奈月のものとは、どうも質が違うような気がするのだ。
 僕は思わず足を止めた。いったい何だろうと思った。
 奈月は僕との別れに未練を感じている。まず僕はそう思った。今すぐにでも引き留めてほしいのだと。とはいえ、話はそう簡単でもないようだ。彼女の視線は、寂しさとも哀しさともつかぬ、名状しがたい深い旋律を僕に届けた。そうして僕は、その視線の意味が複雑すぎるゆえ、衝動の赴くとおりに動けぬまま、考え込んだ。奈月はいったい何を思って僕の方を振り向いたのか、その答えが知りたかった
 そうやって混乱しているうちに、奈月の白い姿は僕の視界から消えた。
 まだ間に合う、と心の中で叫んだ。だがその声は、廃校になった体育館の中で叫んだような、不毛な響きを残すばかりで、僕の身体を突き動かすことはなかった。
 ちょうどその時、新幹線がホームに近づいたことを知らせる電子音が流れ、それに合わせて、無愛想な駅員のアナウンスが始まった。まもなく、博多行きの新幹線がホームに到着いたします、と。
 奈月が京都を去ってしまう知らせでもあるのに、なぜだか僕には全く無関係の内容のようにも聞こえた。それでも、胸だけは、塞がるような苦しさを覚えている。わけが分からない。
 すると、駅員の予告通り、天井の上で新幹線が滑り込んでくる音が響き、フロアを揺らした。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
旅に出ましょう
それも
とびっきり寂しい旅に・・・

最新の文章
リンク
みなさまの声
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
目次
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。