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キラキラ 339

 だが、揺れていたのはフロアではなく、僕の方だった。新幹線が停車した後、頭の中では、光源氏の後悔を詠んだ和歌が何度も聞こえてきた。

伊勢人の 波の上漕ぐ 小舟にも うきめは刈らで 乗らましものを

 和歌は遺伝子の声を聞くかのように、心に染みついている。小舟に乗っているのは、六条御息所であり、奈月でもある。「私は六条御息所と重なるところが大きいんです」と奈月は何度も口にした。それを聞いた時、僕はいまいちピンとはこなかったが、今となってはすんなりと共感できる。
 奈月は小舟に揺られながら僕の元を去ってゆく。波は高い。彼女の姿は消えたり現れたりを繰り返している。彼女は決して振り返らない。そして僕は、そんな奈月を呆然と眺めつつ、下の句を口ずさむ。
「うきめは刈らで 乗らましものを」
 こんなにつらい思いをするのなら、奈月の小舟に乗ってしまえば良かったのに、と。それは未来の僕の声でもある。僕はずっと奈月を思いながら、心に焼きついた最後の光景を何度も浮かべながら、これから生きていくのだ。
 だが、一方でこうも思う。おそらく同じ状況が10回訪れたとしても、奈月の小舟に乗ることはないだろう。哀しげに光る瞳の前に、なすすべがない。奈月の瞳の意味は、彼女自身にしか分からない。
 新幹線はまだ僕の上にいる。それでも僕は、出口の方にきびすを返す。大きく取られた窓からは京都駅八条口の風景が朝日に照らし出されている。レンタカー店は営業を始め、1組の男女が車の前で店員の説明を受けている。目の前のホテルでは、レストランで朝食を取る宿泊客の姿が見られる。風景はすべて陽光に照らされ、僕の目にまぶしく映る。今日という1日が始まろうとしている。
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Author:スリーアローズ
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