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スリーアローズ・ストーリー  12

 試合開始のホイッスルが鳴りました。私はA君を、スタンド・オフという、司令塔の位置で起用しました。
 すると、いきなり彼は最初のプレーで相手ディフェンスの隙間を見つけ、そこに果敢に飛び込んでいきました。いかにも彼らしい積極的なプレーでしたが、複数の必死のタックルに押し潰されてしまいました。
 ところが、プレーが終わっても、起き上がることができず、その場にうずくまっています。タイムがかけられ、そばに走り寄ると、A君は苦渋の表情で手首を押さえているではありませんか。手首の曲がりようからして、どう見てもプレーが続けられる様子ではありませんでしたが、彼は、途中交代を頑なに断りました。後の診断では、複雑骨折でした。
 ポジションを変えて様子を見ていましたが、彼は手首を押さえながらも必死に声を出し続けていました。今思えば、A君を交代して控えの1年生を起用するべきだったのかもしれませんが、あの時の私には、どうしてもそれができませんでした。
 試合の方は、息をのむ大激闘の末、結局5対8で敗れました。ラグビーでいう3点差とは、トライではなくキックの差ですから、これはほんとうに僅差だったわけです。
 試合後のグラウンドには、大喜びする私の母校の選手たちと、応援団の方々の姿がありました。20年前に味わったのとは少し違う悔しさが、喉元を締め付けました。
 思わず、あの日と同じように、空を見上げました。すると、あの日と同じ晩秋の青空が、グラウンドの枯れた芝生を包み込んでいました。
 ところで、A君は、それから数週間の入院生活を余儀なくされましたが、その間も病室に足を運び、彼と一緒に入試問題にチャレンジし続けました。
 結果として、早稲田大学への入学は叶いませんでしたが中央大学に入学し、現在は、大手企業で働きながらベンチャー企業の立ち上げを狙っているのだと、あの日と同じ目で語ってくれました。
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