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スリーアローズ・ストーリー 55

 明くる日、M君は練習に遅れて出てきました。担任の教師と進路の面談をすると聞いてはいましたが、部室で着替えた後も、彼はグラウンドには現れませんでした。
 中を覗いてみると、白いラグビージャージを着たM君は、ベンチに座ったまま、うつむいて泣いているではありませんか。私が声をかけるとようやく顔を上げ、「大丈夫です」と応えて、スパイクの紐を結び始めました。
「これからどうしようか?」と私は言いました。するとM君は涙を流したまま、首を左右に振るだけでした。言葉が出てこなかったのです。
 まだ若かった私は、「決勝はお前がいないと勝てるはずはないし、チームメイトもお前と一緒に戦ことをもちろん望んでいる。だから、第3希望の大学も考えてみてはどうだろうか」と思いをそのまま口にしました。
 すると彼は、もちろんそれも考えているが、昨日の指定校推薦の会議で有力大学はすべて推薦者が決まったから、自分が第2希望のB大学を辞退すると、他に希望する大学はほとんど残っていないのだと小さく答えました。
 たしかに彼の言う通りでした。第2希望とはいえ、B大学は押しも押されもしない名門大学で、これを辞退すれば後の選択肢は厳しくなるというのは、当然でした。
 つまり、M君を悩ませていたのは、名門大学への推薦入試を辞退してまで決勝戦に出場するか、それとも、受験することで決勝戦へは出場しないかという、おそらく彼にとってはそれまで味わったことのない大きな大きな葛藤でした。
 こういう事態に陥ることだけは何とか避けたいと思い、M君は第1希望をA大学にし、私も議長に下話をつけていたのですが、物事というものは、えてして自分の一番怖れる方向に進むこともあるのだということを、ここでも思い知らされる形となりました。
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