スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スリーアローズ・ストーリー 56

 その夜、M君のお父さんから電話がかかってきました。私は、あのお父さんのことだから、これまで3年間、高校生活のほとんどを賭けて目指してきた決勝戦に参加させると言われるだろうと密かに思っていましたが、実際は、自分も悩んでいるのだということを打ち明けられるだけでした。
 いや、その婉曲的な言葉の端々には、大学受験を優先させたいという思いが、ありありとにじみ出ていました。おとといまで、H商工を倒して決勝に進出するのだと信じて疑わなかった方が、急に「決勝戦に出られるかどうか分からない」とまで言われるようになっていました。仮に決勝戦のために推薦入試を辞退したとして、もし準決勝で敗退すれば、息子の人生は取り返しのつかないことになるということを言おうとされたのです。
 もちろん、それは「正しい親心」とでも言うべきものでした。ラグビーよりも、その後に広がる将来の生活の方が遥かに重要なのです。そのためにも名門大学に入学させたいというのは、私が父親の立場でもそう言うに決まっています。
 数日後、M君の口から、決勝戦の日に受験するという意志を正式に確認した時、いくら覚悟していたとはいえ、彼の口から直接それを聞くと、大地にできた深い亀裂の中に落ちてゆくかのような、どこか絶望的な気分になりました。
 その日の練習で、選手たちにその旨を伝えました。
 彼らは、O高校に大敗を喫した時よりもさらに深刻な表情になり、しかも翌日のミーティングのように、前向きな発言をして気持ちを切り替えようとする選手すらいませんでした。そうして、その日の練習は、まるでそこだけ雨雲が覆い被さってでもいるかのように、どんよりとしたもので、せっかくのサインプレーもミスばかり目立ちました。
 私は彼らにかける言葉を完全に失っていました。 
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
旅に出ましょう
それも
とびっきり寂しい旅に・・・

最新の文章
リンク
みなさまの声
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
目次
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。