スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スリーアローズ・ストーリー 68

 私の話が終わった後、2年生キャプテンのケンジが、いつも通りに試合前の掛け声を取り仕切ろうとする直前でした。そのわずかな瞬間に、1か月前までキャプテンだったM君が、こんなことを言ってきました。
「みんなからのメッセージを思い出そうや」
 ついさっきまでは普段と変わらず冷静な表情を見せていたM君でしたが、円陣の中ではどの選手よりも顔を歪ませて泣いていました。指定校推薦入試の校内会議で希望通りにいかず、決勝戦の出場を諦めざるをえなくなった時、初めて彼は泣きました。クールな彼も泣くことがあるのだと戸惑いさえ覚えましたが、この時のM君は前回とは比べ物にならないほどに、何の臆面もなく、ひどく泣きじゃくっていました。
 みんなからのメッセージを思い出そう、その言葉にチームの全員が反応しました。
 彼らの脳裏には、チームメイトによって綴られた心のこもった言葉が、ある種の力を帯びながらはっきりと浮かび上がっていたに違いありませんでした。彼らの泣き声は、雄叫びとも奇声ともつかぬものになりました。
 宿命的な孤独を救ってくれるチームメイトの存在が心を熱くしてくれたのでしょう、それは私も同じでした。自分の高校最後の試合よりもはるかに胸は熱くなっていました。
 あるいは、めったに泣くことのないM君の涙につられたというのもあるかもしれません。これで終わりにしたくない。絶対に花園に行き、もう1度彼をキャプテンにして戦いたい、そんな思いが、全員の心にあふれていたようにも思います。
 選手たちは声にならない声で掛け声を叫んだ後、応援席からの霰のような拍手に包まれながらグラウンドに出ていきました。
 送り出す私の涙の中で、彼らの深緑の背番号が、ゆらゆらとにじんでいました。 
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
旅に出ましょう
それも
とびっきり寂しい旅に・・・

最新の文章
リンク
みなさまの声
カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
目次
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。