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スリーアローズ・ストーリー 80

 帰りの車に乗り込む直前に、カズはもう1度グラウンドと、それから晴れた冬空を見上げました。
 グラウンドには、もはやラガーマンたちや観客の姿はなく、近隣の高校のラグビー部の選手が本部テントを撤収したり、コーナー・フラッグを抜き取ったりしていました。
 カズは名残惜しそうに空気を吸い込んだ後で、「いい夢を見させてもらったよ」とつぶやきました。かっちりとセットされた前髪の先には、冬山の木々が見えました。夕日に近づいた太陽と冬山の情景が、生粋のラガーマンであるカズと対比され、1つの絵画を作り上げていました。
 彼はもう1度だけ「いい夢だった」と言い、助手席に乗り込みました。
 帰りの車中、カズとどんな話をしたのか、よく覚えていません。ほとんど何も話さなかったような記憶もあります。いずれにせよ、私たちはとても疲れていて、道すがらの温泉に立ち寄って、露天風呂にゆったりと浸かりました。それは山間のひなびた温泉で、カズと私以外、誰もいませんでした。
 外に出た時にはどっぷり日が暮れていて、しばらく車を走らせた後、駅の近くのレストランで夕食を取りました。
「なんか、帰りたくないな」とカズは、ご飯を食べ、ビールを飲みながら、何度も言いました。
 予期せぬ大敗を喫した時も、M君が決勝戦に出られないことが決まった時も、常に前に進んできた男です。それだけに、この「帰りたくない」という言葉には重みがありました。
 このとき私は、カズとは違うことを考えていました。高校時代、部員同士の人間関係に悩んでいましたが、この年齢になって、初めて、感謝で胸が苦しくなるほどの「本物の友情」を教わることができたと、驚きにも似た実感を覚えていました。
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Author:スリーアローズ
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