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鎌倉物語 3

 新幹線の車内にオルゴール調の「いい日旅立ち」が流れ、次の停車駅は新横浜ですというアナウンスが耳に入ってきた時、僕はめまいにも似た感覚にとらわれていた。それはもしかするとデジャブに近いのかもしれなかった。
 隣には明子が座っている。二人で新幹線に乗るのは初めてのことなのに、それがどうも信じられない。 
 僕はよく不吉な夢を見る。自分がまさに今から死ぬという瞬間の夢だ。目が覚めた時には首筋に嫌な汗をかいていてほっと胸をなで下ろす。ああ、夢でよかった、と。
 そんな夢を見るからか、僕は、やがてやって来るいまわの際から現在を眺めることがしばしばある。すると、今この瞬間が、すでに起こったことを回想しているように感じられることがある。
 今の状況もそうだ。過去において、明子と二人で新幹線に乗り、鎌倉に行ったことがあるような気がしてならない。いや、あるいは、今日のこの旅を無意識のうちに予感していたのかもしれない。暗殺される運命であることを知っていた実朝のように。
 一定の早さで窓の外を流れてゆく景色、それをぼんやりと見つめる明子、どうすることもできずにただ彼女を眺めるだけの僕・・・
 この景色を見たのはいつのことだったろうとあやしげな記憶をたどっていると、新幹線は徐々に減速をはじめ、外にはビルや大きな広告が間近に立ち並ぶようになってきた。明子はようやく視線を窓から離し、降車の準備をしている人たちの背中に顔を向けた。それから、降りようか、と僕にしか聞こえないような声でささやいた。
 新横浜駅のホームは多くの人々がうごめいていて、ホーム独特の陰湿さが漂っている。僕たちはそのまま市営地下鉄に乗り、横浜駅へと向かった。
 明子はベージュのキャンパス地の帽子を深めにかぶり、普段はめったにかけない眼鏡をかけている。そうして、他の乗客から身を守るようにうつむいて目を閉じている。僕はつり革に手を載せ、そんな彼女の姿を見るともなしに見ている。
 横浜駅に着くと、明子は横須賀線のホームに向かって歩き始めた。かつてこの町に住んでいたことがあるというだけあって、動きには無駄がない。それからタイミングよく滑り込んできた列車に乗った。平日の昼前ということで、車内には十分な空席が残っている。
 列車の速度が安定してきた時になって、明子はようやく口を開いた。
「久しぶりだなぁ」
 僕はさっき新幹線の中で買ったミネラルウォーターの残りを飲んだ。明子もそれを少しだけ口に含んだ。
市街地を離れると、辺りには緑もちらほらと見られるようになってきた。
「『蜜柑』っていう小説読んだことある?」
「蜜柑?」
「そう、蜜柑」
「誰が書いた小説?」
「芥川龍之介よ」
 彼女は、東京の女子大に在籍していた頃は国文学の研究室に入っていたらしく、現代文学だけではなく古典なども読み込んでいる。僕の部屋に来た時でさえソファに座って読書をする時があるほどだ。
「大正時代のお話なんだけどね」
 明子は子供に絵本でも読み聞かせるようなトーンで話を続けた。
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Author:スリーアローズ
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