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鎌倉物語 12

「やっぱり円覚寺からお参りするべきかな」
 明子はぴたりと足を止めてそう言った。僕がそっと後ろを歩いていることをその背中で感じ取っていたようだった。
「君に任せるよ。なにしろ僕は初めての鎌倉なんだから」と言いながら僕は彼女に追いついた。1週間前に書店で鎌倉のガイドブックを買い、だいたいの抑え所くらいは研究してきたつもりだが、やはり紙面で見るのと実際に足を踏み入れるのとでは大きな差がある。特にこの鎌倉の場合は事前の予想とは大きく食い違っている。観光客でにぎわい、多くの店が並んでいる、例えるなら京都の東山やあるいは箱根のような街を思い浮かべていた。
「出たこと勝負の旅になるよ」と明子は言った。
「そういう旅の方が、いい想い出になるもんだよ」と僕は言った。するとその「想い出」という言葉が耳に残った。30歳を目前にしてから、時間の経過が早く感じられるようになってきた。すべては過ぎ去ってゆくのだということが身にしみて実感されるようになった。この旅もやがては想い出になる。未来から今を眺めるというやり方が身についてしまった僕にとって、今の瞬間がことのほか哀しく感じられる。明子という愛する女性と同じ時間を共有しているというのに。
 そんなことを考えながら明子についていくうちに、円覚寺の石門の前に立っていた。もうすぐ色づきはじめるであろう紅葉の大木の影が石段に落ちている。その先には屋根のある門が見える。僕たちは黙って石段を上がった。何かが沈黙のうちに語りかけてくるような錯覚を感じた。 
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かなりおもしろいです。お寺や歴史の勉強にもなりますね!

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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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とびっきり寂しい旅に・・・

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