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鎌倉物語 15

 長谷川泰子との出会いによって人生に光を見いだした中也は、二人で上京し、そこで小林秀雄と親交が深まる。
 小林といえば、後の文学界に評論家として大きな功績を残すことになる人物だ。その小林もまた中也の詩の支持者で、詩人としての中也に多大な示唆と勇気を与える。
 ところが、泰子は、その小林と駆け落ちしてしまう。
 薄暗い展示室には、ぼさぼさの髪の小林と、首にスカーフを巻いた泰子と、着物姿の中也の写真が三枚並んで照明に浮かび上がっていて、その下に数編の詩が紹介してあった。
 僕はしばらくそこに立ちすくんだ。すべてが奇妙であり、そしてリアルに感じられた。
 恋人と親友の裏切りを味わった中也は、いったん山口に戻り、見合いで結婚し、子供を授かる。
 我が子の笑顔に慰められながら今度こそ人生の悦びを手にしたかに見えたが、それもつかの間、長男と次男を立て続けに病気で亡くす。
 廃人同様になった彼は三十歳でこの世を去る。
 最後の展示室に掲げてあった直筆の詩の冒頭部分が、眼球の奥にしこりのように残った。

ホラホラこれが僕の骨だ

 実家の近くにありながらそれまで足を踏み入れることのなかったこの記念館を出た時、空は目に沁みるくらいに青く、蝉の鳴き声が焼き付くように響いていた。
 実家からアパートに戻った日の夜、僕は美咲と初めて一緒に寝た・・・

 ところで、僕がジャズハウスに入り浸るようになってからも、ほぼ毎日、可南子から連絡があった。彼女から電話がかかってくることがほとんどだったが、僕が電話することもあった。
 まさか可南子は僕と美咲がそんなことになっているとは思ってもみなかっただろう。なにも僕に罪悪感がなかったわけではない。ただそれ以上に可南子を傷つけたくないという思いが強かったのだ。
 もちろんそれは僕の勝手な都合だということも承知していた。だからこそ、何も行動ができなかった。
 欲望と罪悪感。まるで、倒れる寸前で支え合う二枚のドミノのような矛盾だった。
 しかし、最後まで隠し通すことはできなかった。
 ある夜、可南子はぬきうちでジャズハウスに現れた。しかしその夜は僕が店に足を運ばない数少ない日に当たっていた。
 可南子はその後で僕の部屋に入ってきて、僕の顔を見るや否や大泣きした。何がどうなっているのかまるで分からなかったが、いずれにせよ僕は命拾いしたようだった。
 その日は夜通し可南子を看病しなくてはならなかった。彼女の髪を撫でながら、身の毛がよだつのを必死にこらえた。
 そして、結局それが彼女との最後になった・・・

 恋人と親友からの裏切り――中原中也と同じ運命をたどったのは、じつは可南子だった。
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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