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鎌倉物語 18

 その日は午前中の新幹線で帰った。出国を控えた美咲は、いつまでも京都にいるわけにはいかなかった。
 たしかに、京都を出た彼女は、完全に未来だけを見ていた。もはや、やり残したことなどなかった。 
 新幹線の中で僕はこれから旅立ってゆく美咲の横顔をそれとなく眺めた。少なくともすでに彼女は僕のものではない。だったらなぜ今僕たちは二人でいるのか、その理由がどうしても呑み込めなかった。
 すべてが形而上的な旅だった。

 美咲が旅立って半年もしないうちにジャズハウスは閉鎖し、五十年もの歴史に幕が下ろされた。建物はただちにショベルカーで叩き潰されて瓦礫の山と化し、跡地にはセブンイレブンが建った。あっという間の出来事だった。
 店がなくなった後にママから葉書が届いた。
「山下君にはほんとうにお世話になりました。正直ほっとしてるのよ。これからはホームヘルパーの資格でも取ろうかなって思ってます。その前に自分が介護されないようにしなきゃね」
 沖縄のシーサーが描かれた大きめの切手が貼ってある葉書には、味わい深い太い筆跡が連なっていた。
 僕も簡単な返事を書いた。それをポストに投函し終わった時、自分は完全なる独りぼっちになっていることに気づいた。
 何より苦しかったのは、孤独に陥ると同時に可南子への罪悪感が沸き上がってきたことだった。取り返しのつかないことをしてしまったと、その時になってようやく悟った。
 これは彼女からの報復だと解釈した。しかしそのうち、単なるエゴイズムの敗北だったことに気づいた。
 そして、しまいには、可南子は僕と別れて正解だったのだという結論に達した。その考えは、かえって僕の心を落ち着けた。

 その後、夜間警備のアルバイト以外はアパートの部屋にひきこもっての生活を繰り返した。
 決して楽しくはなかったが、かといって悪い暮らしでもなかった。
 だが、そんな生活も二年は続かなかった。冬眠を終える虫のように、いや、刑期を終えた罪人のように、そろそろ僕にも光が必要だった。
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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