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鎌倉物語 19

 無窓庵の窓の外に揺れる青竹の群れを見ていると、ハイアット・リージェンシー京都の朝の光が強烈に思い出され、何ともやるせない心持ちになる。今自分が鎌倉にいることが、何かの間違いのようにさえ思えてくる。
 あれから美咲のことをウエブ・サイトで調べるが、彼女につながる情報は何ひとつとして得られない。はたして、バークリーに入学できたのだろうかと思う。
 明子はいささかまぶしそうな顔を窓の外に向けている。彼女は彼女で、僕とは違うことを考えている・・・

「いいお店だったね」
 店の外に出て、石段を降りながら明子は言ってきた。
「このお店に来るべくして来たっていう感じだったわ」
 彼女はまるでつっかえものが取れたような顔をしている。
 僕たちは再び鎌倉街道に出て、無窓庵のレジの横に置いてあった「北鎌倉さんぽマップ」という地図を見ながらゆっくりと歩いた。
 明子は僕の広げた地図にちらと目をやり、こう言った。
「もう一カ所、お寺に行ってもいい?」 
 もちろんいいよと僕は応えた。
「けっこう歩くけど、大丈夫?」
「たぶん大丈夫だけど、君は?」
「私は大丈夫よ」
 僕は両方の膝を交互に軽く振ってみた。実のところ、さすがに疲労がたまっている。
 明子は僕の脚に心配そうな視線を向けたが、僕は何事もなかったように地図を畳んでジーンズのポケットに突っ込んだ。 
 時間の経過と共に空気はますます軽やかになり、風も心地良い。歩道を歩く人々もさっきよりも増えている。
「この人たちはきっと建長寺をお参りしてきたのね」
 明子は人々の往来を横目で見ながら言った。
「君が行こうとしているのも建長寺なんだな」
 明子はふっと笑いながら首を横に振った。
「私、あのお寺はどうも好きじゃなくてね。一回行ったらもう十分って感じ」
 その言葉の通り、彼女は横断歩道を渡り、鎌倉街道にあっさりと別れを告げて細い路地へと入った。
「昔ね、鎌倉五山だけは制覇したいって思ってたのよ。でもほら、私って、出たとこ勝負のところがあるでしょ。寄り道しすぎて、結局すべてに行くことはできなかったのよ」
 明子はハンドバッグの中からハーブのど飴を取り出して、一つを僕にくれた。
「鎌倉五山って、なんだっけ?」
 のど飴はまだ口の中に残っていたビーフシチューの風味をたちまち中和した。
「簡単に言うとお寺の格付けのことよ」
 鎌倉街道から離れて百メートルも行かないうちに道は急激に細くなり、舗装もされておらず、山道のようになってきた。
「何も寺にまで格付けする必要もないのにな」
「それだけお寺が重要だったってことなのよ。なぜだと思う?」
 僕は分からないと即答した。
「死を身近に感じる時代だったからよ」
 明子はそう言い、微笑んだ。
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Author:スリーアローズ
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