スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

鎌倉物語 21

「密教は現世利益があるということで、平安京の貴族たちに手厚く支持されて、その結果都には多くのお寺ができることになるのね。光源氏が病気を治すために寺へ行ったのも、そういうことなの」
 両側には崖と言った方がいいような岩肌がむき出しになっていて、日差しも遮られている。
「ところでさ」と明子は言った。
 景色が急変して、ここが鎌倉なのか、はたまたヒマラヤなのか判別しがたくなっていることを彼女は気にもかけていない。
「鞍馬天狗って聞いたことあるでしょ」
 僕は、名前だけはね、と答えた。
「鞍馬天狗は、その、京都の鞍馬寺で牛若丸に武術を教えるの。牛若丸って言うのは、源義経の幼名ね」
「まったく、君の知識はとどまることを知らないな」
 僕がそう言うと、明子は黙って深みのある微笑みを浮かべた。山肌の近くを歩いている彼女はすっぽりと影に包まれている。
 明子は一日のほとんどを読書に充てる。彼女には十分な資産がある。持ち家もある。読書こそが明子の日課であり人生なのだ。
「ねえ」
 明子はふと歩を止めた。僕も彼女に倣った。
「やっぱり鎌倉と京都って、つながってるんだ」
 そう言って彼女は、再びゆっくりと歩き始めた。
「光源氏と源義経が鞍馬寺でリンクした。しかも光源氏は架空の人物で源義経は実在の人物。京都と鎌倉は時空を越えてつながっている」
 そう言った直後に山肌から漏れる日差しが再び明子の上半身を照らしはじめた。
 京都と鎌倉は時空を越えてつながっている・・・
 僕は軽い眩暈に襲われる。京都を歩いた光景が鮮明に思い浮かんだからだ。それは美咲と京都のゴールデンルートを巡った時の光景ではなく、大学生の時に可南子と二人ですずろに歩き回った時の光景だった。なぜ可南子なのだろう?
 答えは簡単だった。可南子は明子の雰囲気にどこか通じるからだ。可南子も出たとこ勝負の所があった。

「タカシと一緒ならどこに行っても楽しいよ」
 彼女はそう言ったことがある。
あの時僕たちはたしかに愛し合っていた。そう思い起こした瞬間、かけがえのないはずの想い出は古い映画のポスターのようにみるみる色褪せてゆく。
 こうして鎌倉をふらりと歩きながら可南子と京都を歩いているような錯覚に陥る。京都と鎌倉は僕の中でもつながっている。
「次は鞍馬寺に行ってみるかい?」
 歩きながら僕はそう言う。ほんの、軽はずみに近い言葉だった。だのにその言葉に対して明子は顔色を変えた。光源氏や鞍馬天狗の話をしている時の笑顔は急に冷め、瞳はうつろになった。それはほんの一瞬のことだった。
 まもなく元の表情に戻り、何事もなかったようにさっきまでと同じペースで歩き始めた。しかしその一瞬の表情の急変は、サブリミナル効果のような逆説的な暗い印象を僕に植え付けた。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
旅に出ましょう
それも
とびっきり寂しい旅に・・・

最新の文章
リンク
みなさまの声
カレンダー
03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -
目次
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。