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鎌倉物語 22

ひょっとして、これが明子との最後の旅になるかもしれない、直感的にそう思った。もちろんそれはあくまで直感だ。しかし僕は直感を信じるタイプの人間だ。

 可南子との旅がなぜ想い出に残っているのか。それはあの時僕が直感したからだ。僕たちは愛し合っていたにもかかわらず、それが二人で訪れる最初で最後の京都になるような気がしてならなかった。だからあの旅には、寂しいイメージしか残っていない。 

 僕の不安を逆なでするかのように、明子はぱったりと喋らなくなった。各々の靴が地面を踏む音だけが人気のない山道に心許なげに響く。彼女はまた自らの思索の淵に迷い込んでしまった。
「そういえば、建長寺には行かないっていう話だったっけ?」
 僕は意図的に話をそらした。明子は夢から醒めたようなぽかんとした顔でこっちを見た。それからだいぶ間を置いてからこう言った。
「私って、ちょっと前に何を話したか、すぐに忘れちゃうのよね。だからいつも目的地にはたどり着けないのよ。O型だからかな?」。
「血液型の問題でもないと思うけどな」
 それはおそらく君が過去に経験したことと関係してるんだよ。残念ながら僕は、そのことに関しては何もしてやれない。ただその経験はある時何かの拍子にフラッシュバックすることだけは薄々気づいている。だから君には現実逃避がいるんだ。君がよく脱線するのは、一つの所にとどまっておけない君の精神状態のせいだよ。
 僕は心の中でそう答えた。
「建長寺ってね、鎌倉街道を歩いていると、いきなりドカーンと現れるの。鎌倉五山第一位というだけあって十分な風格だけど、私には重すぎる」
 明子はほろ苦さの残る笑顔で進行方向を振り仰いだ。
「禅の世界はね、現世利益が期待できた密教とは少し違って、死と結びついてるの。鎌倉後期になると元寇が来て、武士たちは、命がけで海外の強敵とも戦わなくちゃならなかった。それで本気で来世を考えるようになって、大きなお寺を作ったのね」
 もうそれ以上死の話をするのはよそう、君はただ、建長寺の話をしていればいいんだ。僕は心の中で訴えた。
「でもね、建長寺みたいなお寺よりも、静かなお寺が私は好きなのよ」
 僕はただ黙々と足を運ぶ。体が温まってきたからか、膝の痛みはさっきよりも落ち着いているようだ。
 ところで今通ったのは「亀ガ谷坂の切通し」と言って、鎌倉時代は幕府に通じる貴重な抜け道だったのよと明子は話題を変えた。
 南は海に面し三方を山で囲まれている鎌倉は軍事的には理想的な立地条件だが、地質的に岩盤が厚く、交通網を築く上では難点も多かった。そこで幕府は岩盤をくり抜いて抜け道を造った。それが「切通し」らしい。鎌倉時代、御家人たちはこの細い山道を通り「いざ鎌倉」のラストスパートを切ったのだ。
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Author:スリーアローズ
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