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鎌倉物語 23

 明子の話が終わると同時に、切通しも終わった。
 崖は左右に開き、その間の風景からは、秋の日差しが潤沢に降り注ぐようになった。切通しの終わりは、どうやら北鎌倉の終わりをも意味しているようだった。
 僕たちは突如として現れた住宅地を南に進んだ。途中、薬王寺とか岩船地蔵堂など、聞いたこともない寺の名前が立て続けに見られた。今からどこに行こうとしているのかと尋ねると、明子は迷わず「寿福寺よ」と答えた。
 その寺の名前を聞いても僕はぴんと来なかった。
「寿福寺って、建長寺、円覚寺に次ぐ、鎌倉五山の第三位のお寺なの。でも、なぜかこのお寺だけお参りすることがなかったのよね。四位の浄智寺も、五位の浄妙寺にも行ったのに。浄妙寺なんてずいぶん遠くて、わざわざ鎌倉駅前でレンタルサイクル借りて行ったのよ。それなのに、この寿福寺だけは縁がなかったのよ」
 明子の眼鏡は午後の陽光にきらりと照らされている。
「ひょっとして、それは今日のために取ってあったのかもしれないね」
 明子はそう結論づけた。いや、実は僕も似たようなことを考えている。この旅は予め用意されていたのではないかと。僕たちは今日、鎌倉のこの場所を訪れる運命にあった。
 つまり、これまでの時間はすべてこの瞬間に収斂されている。だとすれば、この旅にはそれ相応の意味があるはずだ。いったいどんな意味だろう?
 世の中に偶然などないというのは明子の思想だ。僕も知らず知らずのうちに彼女の思想に感化されているのかもしれない。

 僕たちは横須賀線と平行して南下している。線路を挟んだ向こう側に広がる閑静な住宅地の奥にはこんもりとした森が見える。孤立してうずくまっているようでもある。
 踏切が近づいたところでちょうど遮断機が下り、東京方面行きの横須賀線が通過した。それが過ぎ去ってから線路の反対側に出ると、初めて「寿福寺」の看板が見えた。
 案内表示に従って小径を進むと、今見た森がどんどん近づいてくる。そのうち、屋根と柱だけのまるで東屋のような簡素な門に突き当たる。
「これが寿福寺の山門みたいね」
明子が隣でつぶやいた。
「しかしこれが山門じゃ、威厳も何もないな」
 木々の間からは日差しがこぼれ、高いところでは枝が風でこすれ合っている。
「たしかにちょっと拍子抜けな感じね。地方のお寺でさえ山門は立派なのに、鎌倉五山の第三位だからね、ここは」
 そう言いながら明子は一歩下がって門全体を見渡した。
 色褪せた柱はうっすらと赤みがかっている、往時は朱塗りだったのかもしれない。唯一力強いのは門の脇にある石柱に彫られた「壽福金剛禅寺」という文字だけだ。
「ここ、誰かのお墓なんだ。ほら、五輪塔が置いてある」
 明子は門の左脇に手のひらを差し出した。そこには苔むした大きな石が頼りなさそうに積み上げられている。
「これは供養塔と言ってね、鎌倉では要人のお墓に必ずと言っていいほど置かれる石なのよ」
 明子がなぜそんなに興奮気味なのかも分からぬまま、僕は彼女に続いて門をくぐった。その瞬間、古木の香りがつんと鼻を刺した。
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