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鎌倉物語 24

 参道はまさしく森の中に続いている。つい今し方見えたこんもりとした緑の中を僕たちは歩いている。
 五十メートルほど進んだ所にもう一つ、さらに朽ちかけた門があり、それは開放さえされていない。開口部は柵で閉ざされていて、隙間から望むと大きなお堂がひっそりと鎮座している。どうやらあれが本殿らしい。
 鎌倉五山第三位の古刹だというのに僕たちの他には誰も見当たらない。明子は門の脇に立てられた説明板を食い入るように見ている。
「さっきの赤い門は、どうやら山門じゃなくて外門みたいね、山門はどうやらこれみたい」
 明子は柵のされた門を見上げた。柱は所々ひび割れていて、屋根の裏には大きな蜘蛛が巣をかけている。
「逆にこういう門の方が、かえって修行する覚悟が湧いてくるのかもしれないな」
 僕は柵に手を置いてそう言った。
「私も、好きよ。こんな感じのお寺。ただ、ここはおそらくは修行の場というよりは、墓所としての性格が強いんだと思う。だからこんな感じだし、積極的に公開もされていない」
 そう言って明子は帽子を脱ぎ、案内板に目を遣りながら左手で髪をといた。
「ここには北条政子のお墓があるみたいよ。北条政子といえば頼朝の奥さんね。それともう一人、源実朝のお墓もあるって書いてある」
「実朝?」
 そもそもこの旅のきっかけはケーブルテレビの旅番組だった。明子はちょうど僕の部屋に来ていて、彼女の持ってきたショートケーキを食べ、紅茶を飲みながら二人でテレビを観ていた。すると彼女は鎌倉に行きたいと言いだしたのだ。
 あの時テレビの画面にあったのは胸のすくような海岸線の情景だった。どこまでも青い水平線が続き、白い波飛沫が上がっていた。そのさまを見て心に浮かんだのが他でもない実朝の和歌だった。

 大海の磯もとどろによする波 われてくだけて裂けて散るかも

 心の中で、波の音が聞こえる。大きな波が岩に当たって「われてくだけて裂けて散る」音だ。
 いや、それは波ではないような気もしてくる。僕の心の中の何かが、われて、くだけて、裂けて、散るようだ。
 無意識のうちに息を吸い込む。遠くで、かすかに磯の香りがする。
 その時、門の横に脇道が見えた。どうやら裏山の方に続いているらしい。
「行けるところまで行ってみよう」
 僕がそう言ったときには、すでに明子は歩き始めていた。
 彼女は非公開となっている本殿を遠くに眺めながら、その体を裏山の方に傾けている。
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Author:スリーアローズ
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