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鎌倉物語 25

 気がつけば明子はずいぶんと前に進んでいる。
 彼女の背中を追いかけていると、「北条政子墓所 → 」と記された立て札が茂みの中に現れる。
 雑草に囲まれた小径はどこか湿っぽく、途中、赤い衣をまとったお地蔵さんが並んでいたりする。突然岩肌がむき出しになっている所もある。
 明子に追いついた時は、僕たちはさっき見えた本殿の裏側に回り込んでいた。山際の斜面には墓が所狭しと立ち並んでいるのが見える。なるほど、たしかにこの寺は墓所としての性格が強いようだ。
 さらに奥に進むと切り立った大きな崖が現れる。ぱさついた感じの岩でできた地層だ。陽光に照らされた木々の緑が灰色の岩肌にうっすらと映り込んでいる。所々に大きな空洞が空いているのも分かる。どうやらこの辺りが寿福寺の最深部らしい。
「昔、ここが海だった時に波が削ったのか、それとも風が穴を開けたのか」
 明子は空洞に話しかけるかのようにつぶやいた。彼女が対峙している穴からはひんやりとした空気が流れ出している。
「これがやぐらね。鎌倉独特のお墓よ」
 明子はそう言い、空洞の中をのぞき込んだ。

 北条政子の墓を見つけ出したのはそれからまもなくのことだった。
 そのやぐらの奥には五つの石が積み上げられている。さっき明子が話していた五輪塔だ。鎌倉幕府を支えた執権の墓の割には質素な印象が漂う。塔の両脇には白い水仙の花が供えられており、薄暗い風景に唯一の色彩を与えている。内部は苔むしていて、古い石の匂いが鼻にまとわりつく。
 明子は目を閉じて両手を合わせた。
 それにしても、辺りは五輪塔だらけだ。
 鎌倉の歴史を作り上げてきた人物はこうして葬られているのだと物思いに耽りながら歩いていると、実朝のやぐらはすぐに見つかった。
 政子の墓よりも深く、だから内部は暗い。入口付近に線香が立ててあり、煙がたちこめている。一体誰が立てたのだろうと思う。これまで誰ともすれ違わなかったのだ。
 首をかしげながら、やぐらの正面に立ち、内部をのぞき込んだとき、あぶない、と思った。実朝が静かに語りかけてくるのだ。
 何と言っているのか、僕には分からない。いや、分かるような気もする。あまりに分かりきっていることだから、わざわざ認知のテーブルに乗ってこないだけなのかもしれない。
 いずれにせよ、僕はその語りに引き込まれそうになる。ものすごい求心力だ・・・
 
「どうしたの、疲れた?」
 明子の声が僕の魂を青空の下に引き戻す。
「いや、べつに何でもない」
 僕はそう言いつつも、こめかみの辺りが重く響くのを感じた。
「外に出て、コーヒーでも飲む?」
 明子は提案してくれたが、せっかくだからもう少しこの寺にいようと僕は応えた。すると彼女は安心したような顔で小さく頷いた。
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