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鎌倉物語 29

「じゃあ、ご出身は山口で?」
 山本氏の言葉に僕は頷いた。
「そりゃ、奇遇だ。いや、じつはね、僕の祖母も山口なんですよ。だから小さい頃なんかはよく遊びに行ったものです、なつかしいなあ」
 爽やかな風が吹き、頭上のモミジを揺らす。さらさらと葉のこすれる音がする。

汚れっちまった悲しみに今日も小雪の降りかかる

 山本氏は鼻歌でも歌うように、中也の詩を口ずさんだ。
「それにしても、源実朝と中原中也って、似ているところがあると思いません?」
 山本氏は意外な問を投げかけてきた。僕はそれについて考えてみた。すると山本氏は、「痛々しいんだよね」と先に結論づけた。
「死を怖れているから痛々しいし、だから死んだ後には不気味な後味が残る」
 山本氏はそう続け、白髪交じりの顎髭を右手で撫でた。
「でも、逆に死を恐れない人間っているんですか?」
 僕は思い切って聞いてみた。初対面の人間に対してはずいぶんと大胆な質問だと、言った後になって自覚した。
「それが信仰の世界に生きる人間ですよ」
 山本氏は深海魚のような目で言い切った。
「でも信仰なら、多くの人がもっている」
「だから、信仰というものは、『ある』とか『ない』とか、『もってる』とか『もってない』などというものさしでは計れないんですよ。そこにたどり着くかどうかってことだから。そのためには抜けなければならない」
「抜ける?」
「そう。抜けるんです。自分自身を突き抜けるんですよ。そうやって抜けた人間だけが信仰の世界にたどり着くことができる。そこには何もない。静けさに満ちている。まさに仏の世界だ。したがって死の恐怖すらない」
 山本氏は両方の手のひらを上に向けてそう語った。
「なんだか非現実な話ですね」
 僕は批判を込めてそう言った。
「非現実的ですよ。凡人にはとうていたどり着けない境地だし、そんなことすら考えずに人生を終える人間だっているでしょう。でも、だからこそ信仰には価値がある。全人生を賭けてでも目指すだけの価値が」
 山本氏の声は大きく太くなった。
「そう考えると、実朝も中也も、最後まで抜けることができなかったんだと私は思っています。逆の言い方をすれば彼らはきわめて人間的なまま死んでいった。今なお人々の心をとらえるのは、そういうところなんですよ、きっと」
「自分自身を突き抜けた人間っていうのは現実にいるんですか?」
 僕が聞くと、山本氏は「いる」と間髪入れずに答えた。
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Author:スリーアローズ
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