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鎌倉物語 34

「商店街はさすがに新しくなってるけど、全体の雰囲気は昔とあまり変わっていないような気がする。それにしても、あの頃は本当に若かったなあ」
 明子はそうつぶやき、和風雑貨屋の軒先で足を止めた。そして、そこに陳列してある扇子を手に取り、彼女と僕との間でぱっと広げた。鮮やかな朱色は外側に向かうにつれて濃くなるように染め抜かれ、全体に可憐なモミジの絵が散りばめられている。
「きれい」と明子は言い、優雅に仰いでみせた・・・

 京都。町屋の並びにぽつりと佇む店。可南子はふと足を止め、店頭に飾られた扇子を手に取って広げて見せた。
 あれはたしか西陣の辺りで、二条城から京都御所を通って平安神宮まで歩く途中のことだった。
 傾きかけた太陽が情緒ある町並みをノスタルジックに照らしていた。可南子は僕にぴったりと寄り添っていた。
 結局可南子はその扇子を手に入れた。
 淡い紫の花が描かれていた・・・
 
 明子は心ゆくまで扇子を眺めた後でそれを元あった場所にそっと戻し、再び歩き始めた。
 それからしばらくして問いかけてきた。
「お腹空いたでしょ?」
 僕はふと我に返った。
 扇に描かれた紫の花は記憶の奥にフェードアウトしていく。
「こうもお店が多いと、選ぶのが難しいね。でも、こうやって歩いているだけで何だか楽しくなる」
 それは可南子の声のようでもあった。

 結局僕たちは、夕食場所を探すのに、小町通りを往復して再び鎌倉駅前に戻ってくることになった。
 日は完全に落ち、通りの灯りが夜の闇に浮かび上がっている。僕としてはとにかく座ることができればどこでもかまわなかった。
「気になっているお店があるんだけど」
 明子は駅前ロータリーの真ん中に立ち、気を取り直したように言った。遠慮することはないからそこに入ったらいいと僕は応えた。
「あそこ」
 明子はロータリーを囲むビルの一つに指をさした。だが、僕にはただの雑居ビルにしか見えない。
「どこ?」と僕が言うと、「ほらあそこ、大きなエムのマーク」と明子は僕の耳元で声を上げる。
「まさかマクドナルドじゃないよな?」
「私、これまで一度も入ったことないのよ」
 明子は少女のような笑顔をこっちに向けた。
「いつかは行きたいなって思っていたんだけど、何となく今日がその日なんじゃないかって思うのよ」
 今回何度も耳にしたような台詞だが全く別の言葉に聞こえてしまう。
「マクドならいつでも行けるんじゃないか?」
「今日を逃すと、一生行けない気がする」
 とにかく膝を休めたかった僕には、彼女の提案を却下する理由などなかった。
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Author:スリーアローズ
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