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鎌倉物語 36

「ああ、その問題はそうやって解けばよかったんだって、自分でもびっくりするくらいにすんなりと納得できたの。その時タカシ君は山本さんと熱く語ってた。でね、あなたの姿をぼんやり眺めてると、女の人の影がふっと現れたの」
 僕は自分でも認識していないくらいに速いペースでポテトを口に運んでいた。残りはあとわずかになっている。
「世界がぱあっと開けて、これまで見えそうで見えなかったものが見えるようになったの」
 もちろん明子は軽はずみで言っているわけではない。
 自らの腹にきちんと落ち、なおかつ自らの言葉で発することができるという確信を得ないままその手の話をすることはまずない。
 それゆえ僕はいつも彼女の話にきちんと耳を傾ける。明子は僕の理解を超えた女性だという先入観をもって接した方が、結果的に後悔しないで済むということを僕は体得している。
 僕はストローに口を付けてジンジャー・エールを飲んだ。それはまだ十分に冷たかった。気がかりなのは、この話の結論がどこに向かっているのかという一点のみだ。
 彼女は伏し目がちに残りのチーズバーガーを食べている。時間をかけて咀嚼して口の中全体で味わうかのように。僕は彼女の様子を注視しながら自分の食事を取る。
 
 ハンバーガーを食べきって、コーヒーを飲んだ後で明子は顔を上げ、そよ風のように言った。
「すてきな旅だった」
 旅だった、という過去形が心を引っ掻く。
「ほら、さっき、タカシ君のそばに女の人が見えたって言ったでしょ」
 明子はテーブルの上に両肘を置き、大事な話を思い出したという口調で話を再開した。
「その女の人は、あなたの近くにいるよ」
 明子は微笑みながら、それでも真剣な目をしている。
「でも、その人には、他に男の人がいる。それでもその女の人はタカシ君のことを思ってる。あなたのことをずっと思い浮かべながら、その男の人と一緒に暮らしてる。でももしタカシ君が手をさしのべれば、おそらく彼女はタカシ君のもとに来る。時間はかかるけど」
 さっき明子はジャズピアニストの女、つまり美咲のことではないかと洞察した。だが、僕が思い当たるのは可南子の方だ。可南子は近くにいるのだろうか?
 ジンジャー・エールを喉にくぐらせ、息を吐くように僕も言葉を出す。
「君が何を言いたいのか、悪いけどよくわからない」
 明子は一旦僕の方に目を遣ったものの、まもなくして視線を横に滑らした。
 隣の席の女性が僕の方をちらと見たのが横目で分かった。隣は三人家族だ。パパとママ、それから幼稚園児くらいの男の子。いかにも幸せそうな家庭がすぐそこにある。
 僕は声を一段低くしてこう付け加えた。
「君と離れることなど考えられない」
 彼女は大きく息を吸った。そして、静かに目をつむった。
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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