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鎌倉物語 50

 どこへ行けばいいのかさえわからぬまま、財布と電話だけを持って、僕は部屋の外に飛び出した。
 階段を駆け下りると、フロントから漏れる照明がほのかにレストランを照らしている。明子は昨日の夜ここであの手紙をしたためたのだ。
 フロントには人の姿はない。その奥は厨房とつながっているらしく、何やら香ばしい匂いが漂っている。
昨夜明子が客室に戻ってきた時に、支配人について語ったことを思い出す。
「あの人、たしかにちょっと偏屈なところがあるけど、話してみれば意外とまともな人よ。それに詰所には奥さんもいて、とても気の利く人だったわ」
 そういえば「調べたいことがあったからパソコンを借りた」とも言っていた。
 僕はフロントに駆け寄り呼び鈴を押した。だが厨房にいる人は気づいてくれない。しかたなく大きな声を出す。すると返事があって、奥から支配人が出てきた。星条旗の三角巾を頭に充て、白いエプロンを腰に巻いている。この人は調理も担当するのかと驚いたが、人間観察に時間を割いているゆとりもない。
「昨夜、女性が尋ねてきたと思うんですが」と僕は訊いた。
すると支配人は表情一つ変えず、「ええ。お客様のお連れの方です」と例のぱさついた口調で言った。
「彼女に貸したパソコン、僕にも貸してもらえないでしょうか?」
 僕がそう言うと支配人は一瞬まぶたをピクリとさせてこう応えた。
「もちろん、やぶさかではございませんが」
 まだ何か言いたそうではあるが、こっちには時間がない。その空気を察したのか支配人は仕方なくという表情を浮かべながら、奥の詰所からノートパソコンを運んできた。
 僕は礼を言ってそれをフロントのカウンターに置いた。レストランのテーブルを使ってもいいですよと言ってくれたが、そんなに時間を取らないからここで使わせてもらうと断った。
 ブラウザを開き、履歴を見る。するとそこにはいくつかの検索ワードが並んでいる。「鶴岡八幡宮」「寿福寺」「山本耕二」「尾田健一郎」「静かな散歩道」「日本写真家協会」「よみうり写真大賞」「やぐら」
 それらの項目を注意深く見比べる。初めて見る名前もあるが、ほとんどが昨日の動きと関連のあることだ。
僕は彼女の心に問いかける。君は一体何を調べたかったんだ? しかもそんなにも急いで。
 すると、手紙に書かれた文言を思い出す。
「山本さん、不思議な人です。あの人、いったい何だったんだろう・・・
 私には神のように見える。いや、神っていうのはちょっと違うかもしれません。寿福寺に眠る数え切れないほどの魂の代表者みたいな人。あなたには何のことやら、よく分からないかもしれません」
 条件反射的に「山本耕二」をクリックする。
 開かれたページにはこのカメラマンのプロフィールが写真と共に紹介してある。やはり紺のハンチングをかぶり鼻と顎には白髪交じりの髭を生やしている。
「お客様」
 その声ではっと我に返る。星条旗の三角巾をした支配人がすぐそばに立っている。
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Author:スリーアローズ
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