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鎌倉物語 51

「バッテリーが切れるのではなかろうかと思いまして。あれでしたら電源に差し込まれた方がよろしいかと。なにしろ十五年以上使っているパソコンでございまして」
 支配人は相変わらずの事務的な口調で電源コードを僕に差し出す。すぐに終わるからと僕はそれを受け取らない。今のこの瞬間に明子は鎌倉から離れてしまうかもしれないのだ。一秒たりともロスは許されない。
 僕は再び画面に目を遣る。
「どこにいるんだ?」
思わず声が出る。
 もう一度彼女の履歴に注意深く目を通す。場所を表す語は「寿福寺」と「鶴岡八幡宮」の二つだ。
 その時、右脳と左脳がつながった。昨夜、マクドナルドを出てここに向かうタクシーの車内で見た彼女の涙を思い出したのだ。この道は鶴岡八幡宮で突き当たるのだと僕が言った直後のことだった。
 すると、パソコンの電源が力無く落ちた。
 僕は支配人を呼び、すぐにタクシーをつけてもらうよう頼んだ。
 だが支配人は、眉間にしわを寄せて「この近くに営業所がないので時間がかかりますが、よろしいですか?」と声を低くした。
 よろしいはずがない。鶴岡八幡宮へ行きたいのだが最速の交通手段は何かと追及する。
 支配人は、少し間を置いてからこう応えた。
「最速かどうかは保証できませんが、他に手段がないわけではございません」
 
 僕は支配人の後に付いて半地下のガレージに降りた。そこには車が一台停めてあり、緑のシートが掛けられている。二人でそれを取り払うと、海岸から飛んできたと思われる砂埃が狭苦しいガレージに舞い上がった。
 思わず咳き込んでしまう。
 砂埃の中から現れたのは古いワゴンだった。トヨタ・マークⅡのエンブレムが貼ってある。丁寧に使い込んであるのだろう、年式の割には光沢がある。
 支配人は運転席に乗り込み、僕は後部座席に座った。室内は昭和の香りがぷんぷん漂っている。
「問題はこれからだ」
 支配人は独り言を漏らし、何度もキーをひねった。
 エンジンがかかろうとする音がずいぶん長いことガレージ内に響いた後で、どうにかこうにか点火してくれた。支配人はここぞとばかりにアクセルを踏み込み空ふかしをした。ガソリンの匂いが室内にまで入ってきた。
「ふだんはバイクを使いますので、こいつにはめったに乗らないのです。ちゃんと動いてくれるかどうか不安でしたが、今日はすんなりいったようです」
 そう言って彼は、額の汗をぬぐった。
 ところが本当の問題はそこからだった。トランスミッションの機嫌が悪いのか、きれいに舗装された道路上で遊園地のアトラクションのように激しくノッキングを繰り返したのだ。
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Author:スリーアローズ
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