スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

鎌倉物語 54

 視線を近くに移せば、参道を横切るように流鏑馬の通路があり、さらに手前には朱塗りの建物が整然と並んでいる。今まさに僕が通ってきた場所だ。
 能舞台のような吹き抜けの建物の隣には小規模ながらも品格の感じられる神社がある。
 明子がうつむいて立ちすくんでいたのは、その小さな神社の陰だった。
 僕は石段を途中まで降りたところで歩を止めた。
「ここにいることは分かっていたよ」
 石段を降りきり、明子のいる小さな神社に歩み寄る。社殿の柱には「若宮」という立て札が掛けてある。
 生い茂る木の枝には多くのおみくじが結ばれ、賽銭箱の近くには数え切れぬほどの絵馬が鯉の鱗のように掛けられている。
「ねえ」
 明子は僕を見ずに声を出した。
「ホテルに帰って」
 木立が風に揺れる。雲はさっきよりも厚みを増している。僕は明子との距離を一定に保ったまま、彼女の横顔に向けて言う。
「その前に確認しておきたいことがあるんだ」
 明子は微動だにしない。
「聞きたいことは山ほどある。もし、僕がどうしても君の元を離れたいのなら、それを全部聞いてからにしてほしいというのが本心だ。でも、それは君に負担を強いることにもなる。だから質問を絞り込むことにする」
 明子はやはり動かない。僕は心を無にして言う。
「君はもうすでに死んでるんだね?」
 その時、彼女の背筋はごくわずかだが伸びた。
 社殿の扉は開いているが内部をうかがい知ることはできない。彼女はその暗がりに向けて漠然たる視線を投げた。
「君の心はある意味、よく理解できるんだ」
 熱くなってはならない。そう自分に言い聞かせる。
 言葉とは取り返しのつかないものでもある。特に明子の場合、言葉の選択を間違えればすべてがめちゃくちゃになる。
「とは言っても、どうしても理解できない部分もある。そこがとても微妙で複雑だったから、ずっと戸惑いを感じながら君と接してきた。せめて僕にできることといえば、理解できない部分も含めて丸ごと君を理解しようとする、そのプロセスを諦めないことだった」
 彼女は右手に提げているボストンバッグを左に持ち替えた。
「君が僕の元を離れる予感はあった。でも本当にそうなった瞬間、僕はしまったと思った。君が書いた手紙を読んで、どこに行けばいいのかも分からないまま無意識に突き進んだ。そしたらね、その無意識の中でこれまで理解できなかった部分がどういうわけかすんなりと腹に落ち始めたんだ。トランプの神経衰弱で面白いように次々とカードが合っていくような感覚だった。何でもそうだけど、いったん答えが見えてしまうとそれまで必死になって考え続けたことが嘘のように思える」
 僕は、自分の口から次々と言葉が出てくることに驚いていた。先に言葉が出ておいてから、後で思考が形成されてゆくような感覚だ。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
旅に出ましょう
それも
とびっきり寂しい旅に・・・

最新の文章
リンク
みなさまの声
カレンダー
10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
目次
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。